最高の物語
今、小学6年生による、日本の変革が始まる。
その時、この小学生は何を思うのか?
最高に素晴らしい小学生の勇姿をご照覧あれ!
※この作品は不愉快な要素を含みます。
第5話 最高の物語
不可解な形をしたスレットは俺を見ても動こうとしない。
「切り替えろ。スレットを見たら真っ先にするのは、サクリファイスヴィクティム!」
そう言って、真っ直ぐスレットへ走る。するとスレットの目の前へ来た瞬間に俺が破裂した。
気がつくと、俺は最初の位置にいた。
「自爆……だと……。今までそんな技じゃなかった筈だよな…。」
取り敢えず、スレットの方を見る。黒い霧に覆われていて良く見えないが、今まで通りなら倒せてる筈だ。
刹那、俺の身体が分裂した。それだけに留まらず、俺の意に沿わない行動を取り始めた。分裂した1つの部位を武器のようなものに変化させ、他の部位を攻撃し、粉々にしていく。
俺はたまらず、武器になった部位から逃げようとしたが、俺の意識のある分裂した部位は動かない。そしてそのまま2度目のコンテニューを使わざるを得なかった。
「一体何が……。」
また初期の位置に戻る。そこで俺はまだスレットが生きているのを確認した。そして、地形等も把握する。
ここは見通しの悪い林のようで、林の隣には公園が隣接しており少数の人達が遊んでいるのを確認できる。
「気付かれる前に倒さねぇと。でも相手がどんな能力なのか分からない以上どう攻略するべきなんだ?」
スレットは未だに動いていない。だったらこちらも様子見をするべきか?
不可解な形をしたスレットは徐々に形を形成し、三角形を成した。そして、その三角形を結ぶ3つの点が長方形と化している。
「何処かで見たことがあるような……?」
ふと思いついたのが社会の時間に教科書にあった図だ。確か授業ではやっていないと思うが休み時間にペラペラとページを捲っていたら三権分立と題して出てきた図である。
「それが、関係するのか?……人を強制させる力…。こいつは権力を使うってのか。」
俺の身体が言うことを聞かず勝手に動いてたのもスレットに強制させられていたと考えれば説明はつく。だとしたら、どう戦う?俺の行動は全てスレットに強制される。つまり俺は自分の意思で行動出来ないということだ。
「下手に行動してもさっきの二の舞い。行動しなくても同じ……。クソッ!また身体が!」
スレットは俺が考えている間に、またもや身体を分裂させ始める。
「一か八か……。やってみるのも手か……。………サ、サクリファイス!」
当然脳内が『ERROR』の文字に占拠される。だがこうしていれば多分、俺自身の行動を妨害することができる。
この状態の俺は動いた例がないのだ。それどころか文字が脳内から消える途中、徐々に行動の自由が戻って来ている感覚もある。
『ERROR』の文字は次から次に増殖していく。気味の悪いこの感覚に耐えれるのだろうか?そんな不安を抱えて占拠していく文字を前に立ち尽くす。
『ERRORERRORERORERRORERRORーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…………………………………………。』
何分ぐらい経っただろうか、突如、目の前に光が差し込んだ。
『CONCEPTION CHANGE』
『YOU’RE ALLOWED』
光の中に刻まれる英文。
意味は分からないが視界が晴れていき、脳内に武器のイメージが浮かび上がる。
そして回復した俺の視界が事の顛末を告げる。
「……まだだ……、油断できない。」
スレットは地面から生えた黒い剣に貫かれ、その後、変形した剣のパーツにより、無惨に切断されている。だが以前戦ったスレットのように再生が起きるかもしれない。
「ヴィクティムサクリファイス!」
剣は変形したパーツを含め黒い霧へと変わり、切断されたスレットと俺を包むように広がった。
そして切り裂かれたスレットの破片にはトラップじみたクモのようなものが複数ついている。そのクモ状のものは足を展開し、回転を開始し、黒い液体をスレットの破片に付着させている。
スレットの破片が液体で真っ黒になると空中へ持ち上げられ霧を吸収しながら一点に集中し、奇妙な形を形成して消滅した。
「……これで、安心だな。」
「そうだね。おめでとう。」
不意に背後から誰かが近づいてきた。
「まぁ、どうせお前だとは思うけど。」
背後の人物を確信しながら振り返る。そこには案の定確信した通りの人物、クリエイターがいた。
「お前っていう指示語が僕を指しているんなら、正解だね。」
「それで?何の用だ?」
クリエイターは額に手を当てて何処か呆れた様子である。
「君ね、折角、君の功績を讃えようって腹積もりで来たのに、目的を聞かれたらそれが出来ないじゃないか。だから目的じゃなくて、まずは君の功績を讃えよう!」
次は俺が呆れる番だった。急に何を言い出すかと思えば質問に答えずに自分の言いたいことを言うと言い始めた。本当にこいつは人を振り回す奴だ。
「禎流君、右を見てごらん。」
そう言われて右を見る。そこには公園で遊んでいる何人かの人影が見えた。
「これがどうした?」
「君が守った人達だよ。紛れもなく君が守り抜いた人達だ。」
こいつ、それを言う為にわざわざ時間を取ったというのか。
「そうは言っても、魂の方を」
「おっと、そこまでだ。僕が言った以上のことを考えても自分が傷つくだけだよ。そんな無意味なことはしないに限ると思うよ。」
それも、そうか。だが、出した犠牲から目を背けるなんてことは出来ない。しちゃ駄目なことだ。
「気持ちはありがたいが、俺には考えないなんて無責任なことは出来ねぇよ。でも、そうだな、守れたっていうのは素直に嬉しいし、喜ぶべきことなんだろうな。」
「成る程。言わないよりは言った方が多少はプラスの効果が出たようだ。」
クリエイターは一度、言葉を区切り、
「それじゃあ、本題に入ろうか。君は見事と言うべきか、とうとう、災害戦に挑むことになった。決戦の舞台は用意してある。」
まるで何かを仕組んだ人のようなことを言った。
「待て。お前、まさか、パーティーシペイターを仕組んだのか?俺が、ここまで人を殺して絶望するのを仕組んだのはお前なのか?」
クリエイターは困惑しながら答える。
「う〜ん。君をパーティーシペイターにするきっかけをつくったといえるから、仕組んだと言われても仕方ないかもしれないね。でも君の絶望を見たいとかを考えて選んだ訳じゃないからね。あくまであの状況じゃ、君しかいなかったってだけだから。」
回りくどいし、紛らわしい。こいつの言葉が本当なら、こいつは仕組んでない。ただ俺をパーティーシペイターにしただけだ。
「じゃあ、決戦の舞台を用意したってどういうことだよ。まるでお前がこれまでデザスターを召喚してきたみたいじゃないか。」
クリエイターは何か納得したようでポンと手を叩き、
「成る程。君は僕があの方じゃないかと思ったわけだ。勿論だけど、それはない。口では何でも言えるかもだけど僕があの方だったら、こんなルールにしてないよ。だって何が善で何が悪かなんて分からないことだからね。」
そう弁明する。さらに続けて、
「あと、決戦の舞台というのは災害が出現する場所を予め固定させてもらったと言う訳さ。好き勝手な場所に現れたら、どんな被害がでるかなんて分かりきってることだからね。ワープだって一瞬じゃないんだ。少なくとも2、3秒はかかる。その間だけでも災害はとてつもない被害を出すことは余裕だろうね。」
デザスターの出現場所固定について説明した。
納得できる内容ではある。そんなことが可能かと言われれば俺には説明が難しいが、全盛期のクリエイターであれば誇張無しに何でも犠牲無しで創ることが出来た筈だ。ならばその時にそういった装置を創ったのだろう。
「さて、そろそろ行こうか。災害は本当にこれまでとは比べものにならないぐらい強い。気を付けてね。」
なんだこいつ、急に助言し始めた。まぁ、助言で嘘なんてつかないだろうし、ちゃんと気に留めておこう。
「あぁ、気を付けるさ。皆を救う為にも負ける訳にはいかねぇからな。」
「じゃあ、移動するよ。」
いつものワープと同じく、景色が暗転する。そして見知らぬ場所へと移動した。
その場所はあまりにも物騒だった。
目の前に広がるのは、兵器の数々。そこに人の気配は無い。武器の種類は素人の俺が分かるものではないが、その量は戦争でも始めるのか、というぐらいである。
「……やっぱ、ヤバいのか?」
急に怖気がし始めた。今までは特にこういった装置は無かった為、いざレベルの違いを見せつけられると、どうも怯えてしまう。
「さっきからずっと言ってる通りさ。まぁ、これだけしても殆ど意味を成さないよ。結局頼れるのは君しかいない。というか君以外戦力外というまであるよ。でも無いよりはあった方がいいだろうし、取り敢えず設置した感じだね。」
取り敢えずの量じゃないと思うんだが、それは……。しかし、言ってしまったものは仕方ない。なんとかして倒してしまわなければ。
「そういえば、少し気になったんだが、お前って何で息子の名前、言わないの?」
何だかんだ疑問になってはいた。とはいえ、予想はついている。クリエイターと性格が似通っている奴を俺は知っている。それを直に聞くのもなんだし、折角なら理由も知っておきたい。
「……僕は父親失格だからね。名前で呼ぶ権利が無いよ。」
何処か悲しげにクリエイターは説明した。
「そうか…。因みにお前の息子って俺がいた学校に通ってたとかいう情報知ってるか?」
「君、見当つけた上で聞いてるね。考えている名前言ってくれれば正解かどうか教えてあげるよ。」
読まれた。こういうとこもだ。どうしてもあいつを思い出す。勝手に俺の心を読んで話を詰めて来る。
「……ぅれ…。違うか?」
「正解。君と同じクラスだったみたいだね。最期の方であれだけ変な行動とってたら、バレもするか。」
それもだが、やはり1番は性格だったと思う。だから俺はクリエイターを最後まであの方だと思えなかったのかもしれない。あいつは俺の絶望なんて見たいと思わないだろうし、だったら似てるクリエイターも同じような考えになるんじゃないかと、あくまで希望的観測だったが割と当たってたみたいだ。
「そろそろ出現しそうだ。僕は違反に引っ掛からないように一応、引っ込んどくよ。」
そうか、こいつ1回引っ掛かってるんだった。2回引っ掛かったどうなるかは分からないが少なくとも良いことが起きはしない筈だ。
「あぁ、そうだな。……大丈夫だ。お前の手を借りる程……強がりてぇが、嘘はつけねぇな。だが、負けるなんてことはぜってぇに言えねぇ!俺には責任があるんだ。」
俺とクリエイターはこの会話を最後に別れた。
1人、兵器の真ん中に立つ。
空を見上げるといかにも雨が降りそうな雲があった。
「雲行きが怪しいってか、笑えねぇ。」
そして、ソレ、デザスターは自然に現れた。
自然と現れた。
見た目は人型、しかし人工物とは到底思えない、自然に生まれたもの、そう思わずにはいられない形である。
……自然…。
何処にでもあって、気にすることがない……。
ビンゴじゃないか?
自然は確かに俺達の周りにあって、それでいて、いちいち気にすることなんてない、それこそ、空気と同じぐらいの認識、なんなら、空気も自然の一部ではないか。
デザスターがあの方…。考えもしなかったが、有り得ない訳ではない。会話は不可能だろう。…したくもない。
心は決まった。
周りの兵器が一斉に攻撃を開始する。同時に俺は複数の盾を生成、俺を守るように展開し、さらに銃を創り、発砲を開始する。
途端にデザスターの周囲は煙で視認が不可能になる。ただ、この弾幕を無傷とはいかない筈だ。
「やったとは思えんが、致命傷か?」
一度俺は発砲を止め、槍を創り、デザスターが、どう出てきてもいいように構える。
次の瞬間、地が裂けた。
裂けた地は地表のものを地下へ吸い込むような動きをし始めた。俺は咄嗟に跳び、地表を離れ、空中に地面を創る。
しかし、その時、既に俺の眼前にデザスターが近づいており、創った地面ごと裂けた地へ叩き落とされる。なんとか展開していた盾を足場にして体制を整えるが既にデザスターの攻撃は開始されている。迫り来るは、無数の蔓や太い枝。それらが四方から俺を仕留めに伸びてくる。
「サクリファイス!」
創っていた銃に飛行能力を追加し、自動で迫り来るそれらを撃ち落としてもらう。ただ、銃は1丁。撃ち落とせる数にも限りがある。
故に盾を上手く展開し、それでも無理な分は槍で処理していく。
しかし、そこにデザスター自身の直接攻撃も加わる為、どうやっても、全てを捌ききることは不可能だ。
結果的に左足が貫かれた。太ももの辺りから下をごっそりやられた。とはいえ、不思議なもので片足が無い状態でもバランスを崩さずに行動が可能である。
直接攻撃しに来たデザスターに俺の方から攻撃を仕掛ける。デザスターの攻撃は単純で腕を振り下ろすだけである。その為、攻撃を避けてからカウンターを与えるというのが安定を取ったやり方だがこの方法ではデザスターに逃げられる上に蔓や枝の攻撃を受けてしまう恐れがある。だったら、先手を打ちデザスターを貫いた方が確実かもしれない。なるべくなら、一撃で仕留めたい。
「ヴィクティムサクリファイス!」
黒い霧が槍を包み、より長射程のものへと変化させた。あまりの射程だった為俺の方に一直線に飛んで来ているデザスターを真っ直ぐ貫いた。
それで、気を抜いた俺を枝が貫きそのまま裂かれている地面へと叩きつけた。流動している地面から逃げることが出来ず地中へと引きずり込まれ何かにプレスされて、俺の目は地面の様子を映した。
急いで盾を再展開し、ファンネルのようなものを生成、オートで攻撃を開始させる。また、俺は攻撃範囲の広い棍棒を生成して、迫る蔓や枝、それだけでなく、今度は空気が刃の形を取って襲いかかる。勿論デザスター本体の攻撃も加わり、棍棒を使ったとて、いなすのが難しい。
そもそも棍棒を広い攻撃範囲を前提に作ったせいで攻撃中、視界が制限されてしまう。
「都合良いようになってくれよ…!サクリファイス!」
具体的な武器のイメージは無いが性能だけなら想像済みだ。黒い霧が棍棒を包み、すぐに俺の願っていた武器へと変化させた。
それは不可視の棍棒。しかし俺には何故か攻撃範囲が分かる。
俺はさらに視界を360°に解放。不可視の棍棒をもう1本追加。
こうすることでなんとかデザスターの猛攻を防ぐことが出来た。その上、有難いことに棍棒の攻撃範囲は変幻自在で俺が思った方へ、攻撃してくれる。つまり、これをしていくとデザスターの蔓や枝等の攻撃を完封することも難しくないだろう。なんたってデザスターの攻撃1つ1つに攻撃範囲を伸ばしていけばいいのだから。それはあたかも無限に成長する触手のようだ。
デザスターは自分の不利を悟ったのか、直接的な攻撃が控えめになり、するとしても種を飛ばすような遠距離攻撃のみになった。しかし、その攻撃には少しだけ予備動作があり、その予備動作中に俺の攻撃を加えることが容易である。なんなら、その攻撃は数回繰り返している。にも関わらずデザスターは攻撃手段を変えようとしない。この状況は今やデザスターを完封していると言っても過言ではないだろう。
そんな攻防を暫く続けていると、一瞬で俺の身体が圧縮された。始めは何が起きたのか分からなかったが俺の身体が左右上下で縮んでいた為、圧縮ではないかと予想をつけることができた。確かに不思議ではない。空気も自然の一部だ。ならば、まるで自然を具現化したようなデザスターは自然の一部である空気を使うのは当たり前のことだろう。
気が付くと俺はまた復活していた。
「ヴィクティム!」
今度は盾を使わない。代わりに全身を頑丈かつ動きやすい鎧で覆う。さらにこの鎧は空中戦も可能としており、何故かは分からないが空中を浮き、自由に行動することが可能となっている。
デザスターの攻撃も全て鎧によって弾かれる。だが、恐ろしいのは弾かれる度に攻撃速度が上昇していってることだ。このまま行くと、鎧が破られるかもしれない。そのため、時間を掛けずにデザスターを倒さなければならない。
俺は出来る限り最速の速さでデザスターを追いかける。
あまりの速度のせいで鎧がデザスターの攻撃に当たった瞬間に壊れる。まさか自分が取った方法で鎧を壊すことになるとは思わなかったが、もう仕方ないことだ。今は鎧が全壊する前にデザスターを捕まえなければ。
鎧が砕けた部位に木の枝やその他の自然物が突き刺さる。
身体の60%ぐらいが自然物で占められたくらいになんとかデザスターの足を掴んだ。勢いのままデザスターの首を掴み、裂けた地面へと急降下する。地面に追突するのに時間はかからなかった。今度は自動的に地表のものを全て吸い込んでいる地下へ落ちる。
地中は泥が入ってくる何もかもを圧迫せんと蠢いている。その泥の力も半端なく、鎧が無い俺の部位は一瞬で壊れた。しかし何とか腕が生きていた。腕に意識が移る。
腕とデザスターを固定する為に手からデザスターの内部にデザスターの身体程の大きさの棒を頭から股あたりに掛けて通す。
ーサクリファイスヴィクティムー
黒い霧が蠢く泥を取り込む。そして取り込んた泥を腕に取り入れる。そのまま少し時間が経つと、泥が蠢かなくなった。それどころか今まで泥による被害を受けていなかったデザスターに攻撃を開始する。
これの意味するものは俺が泥の主導権を握ったということになるのだろうか。
試しにデザスターに俺の意思で攻撃できるのかやってみる。泥を一点に集めそれをデザスターにぶつける。
結果は本当に俺が泥の主導権を握ったということを示してくれた。泥はとてつもない破壊力をもってデザスターに直撃し、デザスターの身体が半壊した。
ーこのまま畳みかける。というかこれで仕留めきれなければ俺の負けが確定している気がする。いくぞ!ヴィクティムサクリファイスー
周囲の泥がデザスターの体内へ高速で進入していく。
俺はサクリファイスヴィクティムの途中でヴィクティムサクリファイスを使った。上書きされる心配もあったが、どうやら成功しているようだ。
俺の周囲から泥が消えていく。正しくは吸い込まれていく。
全ての泥が消えた時、ここが孤島だということを知った。
そこをクリエイターはデザスターとの決戦の地に改造したのだ。
全ての泥を吸収したデザスターは黒い霧が生み出した紫と黒の稲妻がデザスターの中から放出し、焼け焦げたように消滅した。
ーやった…。これで皆が帰ってくるー
突如、海が爆発する。
その瞬間、場面が移り変わった。
「……ッ…ぅ…ん。」
光が差し込んだことに驚いて変な声が出た。
そしてすぐに俺の頬に痛みが発生する。
ひどい痛みではないが、急だった為吹っ飛んでしまった。
「いてて…何が…?」
「何で殺したの?何の罪もない豊愛ちゃんをどうして殺したの!」
意識がはっきりしない中そんな怒鳴り声が聞こえた。
「ねぇ!なんでこんな生きづらい世界の方を選んだの?こんな世界壊れてしまえばいいじゃない!誰も幸せにならないこんな狂ってる世界なんてどうでもいいでしょう!」
胸ぐらを掴まれ怒声を浴びせられる。台詞からしておそらく愛妹ではなかろうか?そんなことを思いながら目を開ける。
「……友美?…え?」
俺の目の前で鼻息を荒げて鬼の形相をしていたのは、まさかの友美だった。こんな顔見たことない。
「ねぇ!話聞いてる!?」
そう言われ地面に投げられる。
「わ、悪い。俺まだ状況が整理できてなくて、えっと…。」
次は思いっきりぶたれた。
「これで目が覚めた?必要無い世界を救って本当に必要な豊愛ちゃんを犠牲にしたのはどういうことって聞いてるの!」
「えっと…。ま、まぁ、安心しろよ。豊愛ちゃんもすぐに戻ってくるからさ。俺、デザスターって奴を倒したんだ。だから」
「ふざけないで!戻ってくるわけないでしょう!皆、死んでるの!死んだ人が戻ってくるなんて有り得ないってことくらい認めなさいよ!」
頭が真っ白になる。戻ってこない?どうして?いや、そんな理不尽なことがあるわけ、あって良い訳ない。
「な、何を言ってんだよ。俺は、み、皆を救う為に、ここまで、頑張ったんだ。」
「じゃあ、もっと笑顔になればいいじゃない。なんで涙なんか流すの?笑顔で俺はやったぞ!って喜べるじゃない。どうして、そうしないの?そうできないんじゃないの?本当は分ってるんでしょう!」
そ、そんなこと……。な、…。
……笑えない……。皆帰ってくるなら、笑える筈なのに…。全然笑えない。喜べない。皆、帰ってくるのは喜ぶべきことなのに喜べない。
…み、認めてるってのか…。無意識の内に。皆が戻ってなんか来ないって分かっててやってたのか。……滑稽だ。何がしたいんだ、俺は……。
「もういい。禎流君は話にならない。まともに質問に答えきれなくなるまでおかしくなったのね。」
友美は身を翻して光の奥へと消えていく。
「ま、待ってくれ!友美!」
俺の言葉に友美は少し立ち止まったが結局俺の方を見ることなく、消えてしまった。
………。そもそも、何なんだよ、これは。
「考えても、意味ないんじゃない?どうせ後から分かると思うし。」
次は別の声が聞こえた。声の方を向くとそこには見知った影を見つけた。
「久しぶり。っても、ほんの数日ぶりってくらいだけど。」
「愛妹……。悪かったよ。豊愛ちゃんのことは。」
愛妹は機嫌を一気に悪くして
「あんたがその名前を言わないで。」
突き放すようにそう言った。やはり、この世界なんて必要無いのだろうか。
「あんた、まさか、この世界のことを考え出してんじゃない?私は、単にあんたに豊愛の名前を呼んでほしくないだけよ!」
あまりの勢いに気圧された。俺の考えを軽く読んだことも含めて、愛妹には誰かを圧迫する威厳がある。
「そ、そうか。それは本当に…いや、これ以上この話題はまずいな。…それより、何だよ。今の俺の状況が後から分かることだってのは。」
ふんと鼻を鳴らし、愛妹は腕を組んだ。
「文字通りよ。後から分かる。」
こいつはそれしか言えないのか。それとも言う気が無いのか。間違いなく後者か。考えるまでもない。
「あんたは本気でこの世界を救う気ある?」
急に違う質問になり、少し困惑する。しかし、この質問に答えきれなくては、本当に俺のやってきたことを無に帰すようなものだ。
「……どんな形であれ、俺は世界を救う。それが俺の思う正しいことだ。」
「あんたの悪いとこだよね。それ。正しい、正しくないでしかものを見れない。そりゃ、変な奴に付きまとわれるわけだ。まぁ、あんたがやったことを許せるかと言ったら、許せない。正しいとも思えない。でも、あんたがやらなかったら、世界中の子供達の未来が消えたかもしれなかった。」
愛妹は組んだ腕を緩める。そして、顔が少し優しくなった。
「だから、許せないけど、今のあんたでいてくれてありがとう。」
「……。」
ありがとうか。そういや、そんな言葉、最近聞いてないな。人と関わってないから当たり前のことだが。それにしても、愛妹、まさか、全国の子供のことまで考えていたとは。
「因みに、豊愛を殺す時あんたにあの記憶見せたの、あたしじゃないから。馬鹿みたいなこと言ってんじゃないわよ。恥ずかしい。」
「…友美か…。大事だったんだな。お前のことも……。それを守りたかったのか。……友美、変な所で責任感強いよな。」
「あんたにだけは言われたくないわよ。誰も。それと、いい加減その顔やめてよ。あんたらしくない。」
そう言われ、自分の顔を触って確認する。その時にふと自分の腕が目に映った。ひどく痩せていて、肌の色も白くなっている。その上血管まで浮き出ている。確かにここ数日飲まず食わずだったとはいえ、ここまで衰弱するのだろうか。
顔に触れるとザラザラしていた。頬辺りに水っけを感じたため、その水っけを辿っていくと目に辿り着いた。どうやら俺は無意識に泣いているらしい。
「………どうなって、いや、どうしちまったんだ。俺の身体。待てよ。そもそも俺の身体はパーティシペイターに変わった筈なんだ。だから、今、俺の身体になっているのはおかしいじゃないか?」
「そんなに自分の身体に不思議を持たなくていいよ。」
次は顔を上げると見知った影を見つけた。
「大智?お前…なんで…?」
「やぁ。よく頑張ったね、禎流。その身体は君が無茶をしてきたことの証拠だよ。もうボロボロじゃないか。」
俺が無茶をした?いつ?精神的に参ってたのは確かだろうが、無茶なんてした覚えはない。
「俺が?そんなことしてないぞ。」
大智はため息をつき、頭に手を当てて苦笑した。
「禎流は強いよね。よく耐えてこられたと思うよ。僕も禎流のやってきたことを見てきたけど何度も目を覆おうと思ったよ。でも、そんなこと出来る訳が無かった。何処にそんな義理あるんだって思うかもだけど、僕は友達が一生懸命頑張っているのを無視するなんて出来ない。」
そうだ、俺の中には死んだ人達の魂がある。その中に大智がいるのも不思議ではない。
ならばさっきの愛妹や友美も俺の中にいた魂であるのだろう。
そんな魂である皆と会話をしている。これは果たして何を意味するのだろうか。
「悪いけど僕も禎流の感じてる疑問に答えることはできない。でも、僕は禎流のやってきたことを悪いとは思わない。悪いのはきっと禎流にこんな運命を背負わせた人だ。説明も無しにこんな運命を背負わせるなんて無責任にも程があるってもんだよ。」
「……お前のことを否定するようで悪いけど、俺も悪い奴ってことに間違いはないんだ。俺が後先を考えてちゃんと正しい行動が取れておけばこうはならなかったはずだ。だから、説明をしなかったあいつも悪いけど俺も人のことをどうこう言える立場じゃない。」
これは認めなければならないことだ。俺は無罪なんかじゃない。不本意とはいえ今や犯罪者の立場にある。それは俺の未熟さが起こした結果だ。
「俺はお前に庇われる資格は無いよ。大智。……そもそも俺はお前を殺して、これまで嫌な光景を見せ続けてきた。お前は、お前は!俺を非難すべきなんだ。俺を庇っちゃいけない。」
大智は俺の両肩をしっかりと握って、俺の目を真剣に見る。
「そんなことができる訳がないだろう!たとえ禎流を庇うことで僕が悪人になってしまうなら、僕は悪人になっても構わない。でも友達だけは見捨てない。見捨てたくない!」
「大智………。」
また、俺のせいだ。俺のせいで大智は悪人として呼ばれてしまう。どうして俺は誰かを犠牲にすることしかできないんだ。
「禎流、よく聞くんだ。愛妹や友美が禎流を悪く言ったのにも何か理由がある。禎流の頑張りを間近で見ていて、否定できる人間なんてこの世に1人もいない。僕が保障する。だから自分をあまり悪いように扱わないでくれ。自分が憎くても自分を大切にしてやるんだ。」
徐々に大智の身体が光に呑まれ始める。そんな中でも大智は俺に言葉を紡ぐ。
……なんでこいつはこうなんだろうな。呆れている訳では無いがどうしても何か、ため息をつきたくなるものがある。
「だからさ、皆の為に死ぬなんて考えるなよ。せめて、皆の為に生きてくれよ!今、生きている人が反対しても、死んだ僕達は生きて欲しいって思ってる!そんな少数かもしれない人達の為に生きてくれ。禎流にしかできないことがあるんだ。誰も望まなくても禎流にしかできない。そんなことがあるんだ。もしかしたら禎流でさえ、不必要なことかもしれない。それでも、それは禎流にしかできない大切なことなんだ!だから、死ぬなんて考えずに生きてくれ!」
そう言って、大智は光に呑まれた。
…誰も望まないのに、俺にしかできない大切なこと。大智はそれを俺に伝えたかったのか。…多分それ以外もだ。俺は自分のことを悪人だと思って痛めつけているように大智には捕らえられたみたいだ。だから、そんなことは止めろと忠告してくれた。大智は悪人にも情をかけてくれるのか。友達だからという理由で。俺は認められないけど大智が言うんなら、少なくとも悪いことではないんだろう。
「……俺みたいに間違った奴は死んで然るべきなのにな。理由次第で生きていいって言われるもんなんだな。」
「そういうとこだぞ。天草。さっきも愛妹に言われたばっかじゃねぇか。ホントお前って変わらねぇのな。」
ふと聞き覚えのある声が聞こえた。
「よっ、天草、元気してたか?…その様子じゃ、お前相当参ってるな。」
「……しぐれ!」
見つけた途端、俺は走っていた。いつも、挨拶はしぐれが俺を攻撃するところから始まるが、今日は俺がやってやる!
「おっと、残念。からの、喰らえ!」
俺の渾身のパンチをひらりと躱され、お返しに尻にタイキックをもらった。
「アァー!」
あまりの痛さに俺は尻を押さえて悶絶する。
「おぉ、多少血色よくなってきたなぁ。それで、どっちから聞きたい?今の状況か、皆との雑談してた日々のことか。」
俺のことを見下ろしながら偉そうに聞いてくる。とても懐かしい。こいつはいつも偉そうだった。
「勿論、前者だろ!」
しぐれは大きく溜息をついた。
「お前、ホント波長合わねぇなぁ。ここは皆の話を優先したらどうだよ。」
何を今更、しぐれが選択肢を与えたのだ。俺はそれを選んだだけ。
「まぁ、いいか。今の状況は我がお前の力を借りて空間を創り出している状況だ。お前の力は犠牲さえあればなんでも創ることができる。そしてその犠牲になったのは永理久だ。因みにここは精神空間だからお前のその身体はお前の精神状態を表してる。それだけお前は壊れかけだったって訳だ。何か疑問は?」
疑問もあるがそれよりも、やはりそうだったのか。
「お前がクリエイターの息子なのは確定か。パーティシペイターのこと知ってるような口ぶりしやがって。」
しぐれにしては珍しく驚いた顔を見せた。
「へぇ、てっきり騙されたと思うのかと思ったけど意外と純粋なんだな。そうだぜ。クリエイターの息子は確かに我で元パーティシペイターだ。その経験あってお前の中で命の選別を繰り返してきたお前にとっては凶悪犯罪者だ。」
あっさりと認め疑問をさらに増やしてきた。こいつはそんなに質問攻めが好きなのか?
「命の選別って、俺が技を使う度に出される犠牲を選んでるってことか?」
しぐれは鼻で笑い腕を組み、得意気に目を瞑って
「あぁ。そうだよ。我が死なない為に他の奴を捨てた。憎いか?」
やはりこいつはひねくれている。自分のことを悪く言って欲しいのかもしれないが人の命を奪ってきた俺が何よりもこいつの辛さを理解できる。しぐれは人を殺して喜ぶような奴じゃない。それどころか人が傷つかないように振る舞うような奴だ。そんな奴が人の命を奪う選別をしてきたんだ。どれ程辛かったことか。永理久から命を奪うのだって並大抵の覚悟でできるものじゃない。
「いや、お前はすごいよ。よく耐えたよな。俺にはできないよ。」
しぐれは少し驚き頭を搔きはじめた。
「少しの可能性に賭けたが、やはりこう来るよな。お前も変わったな。禎流。まぁ、我には大智と永理久がついてくれたからな、それと元パーティシペイターだ。人の命くらいは、扱えるさ。」
明らかに最後の方は下を向いて辛そうだった。全く無理してまで言うことないだろうに。
「なぁ、1つ疑問なんだがお前いつパーティシペイターなんてやってたんだ?そんなことしてる時間無かっただろ。」
「読みが甘いな。ヒントはお前がパ―ティシペイタ―になった時に出てたはずだがね。父ちゃんが言ってただろ?パーティシペイタ―になった時の翻訳を元に戻すのは造作もないって。あとは発想力勝負だ。ズバリ答えは放課後と土日祝にパーティシペイタ―をやってそれ以外はパーティシペイタ―を辞めてたって訳だ。たまに休む日があっただろ?そういう日は脅威とか災害を相手してた。かれこれ2年くらいはやってたな。」
いや、それって休む暇がないじゃないか。日の昇ってる内は学校、日が落ちるとパーティシペイタ―。学生なのに相当ブラックではないか。
「そんな我から忠告なんだがお前が今やってることは災害を倒すことだろ。その災害なんだが、第2形態に移行したみたいでな、移行時にサクリファイスとヴィクティムの名前を奪われちゃったみたいなんだ。今はこの空間で奪われるまでの時間を延長しているが、これが終わったらお前は名前無しの状態で戦わないといけない。それに、我等の援助無しだ。」
ん?援助だと?
「お前、それってまるで今までお前達の援助ありで戦ってきたみたいじゃないか。お前がやってたのは命の選別じゃないのか?」
突然、しぐれは笑い出した。それも大笑いだ。
「え?お前、マジで援助してたのか?」
「いや、天草、お前、1人で今までやれたと思ってんのか?出来るわけねぇだろ!小学生風情が烏滸がましいわ!お前1人だと大智殺した辺りで精神崩壊してパーティシペイタ―やめてるよ。」
だとしたら、俺が不思議に思ったこれまでの思考ってこいつがやってたってのか!?
「我等でお前のメンタルケアしてやったんだよ!精神崩壊しないように違う方へ考え方変えてやったんだよ!先の災害戦も我等がいなかったらどうなったことか…。」
そうだったのか!なんか、モヤモヤが晴れた気がする。誰かの助けがあってここまでこれたのだ。そう思うと少しだけ心が緩む。
「……そりゃあ、まぁ、ありがとうな。マジで助かった。確かに俺じゃ、人を殺してあんな風に振る舞えないと思う。動揺しまくってた筈だ。」
しぐれはそうだろう、そうだろうと腕を組んで首を縦に振っている。いつもならあんなに苛つかせるしぐれの態度が今はとても嬉しいものに思えた。
「因みにお前の中で自我を持たせることができるのはホント我くらいだからな。翻訳を繰り返した奴以外はパーティシペイタ―の構造に気付かずにお前にランダムで消費されていくだろうよ。」
であれば、他の大智や友美とかが自我を持っていたのはしぐれがなんらかの細工をしたからということか。
「ところで、話の続きだが天草。今、お前は危機的状況に置かれている。倒したと思っていた災害はなんと生きていた。それもどデカい図体を引っ提げて来やがった。そこでだ、お前に選択肢を与えたい。何もせずにこの日本を終わらせるか、何かしてこの日本を救うかだ。
さぁ、どうする?」
終わらせたいと一部の人は思うだろう。俺はそういう人を否定できない。友美がそうだったように守りたいものを全て失って何の為に生きているのか分からない人達がいるはずだ。そんな人達を俺は罰することは出来ない。だが、それ以上に今、生きている幸福を失わせるのだけは嫌だ。俺が言うのは烏滸がましいかもしれないが理不尽な死ほど受け入れられて良いものではない。俺はそれを嫌な程理解している。
「……日本、世界を救う。当然だ。」
するとしぐれは何か気まずそうに鼻をかいて
「いや、世界を救うってのは我が持たせた…その何だ、妄想なんだよ。だから、せいぜい救えても日本までだな。多分、日本以外は自分達の領土のパーティシペイタ―が戦うと思う。その…悪かったな、根拠の無い希望を持たせちまって、お前を動かすにはこれしか無いと思ったんだよ。」
真実を述べた。少しだけ疑ってはいた。本当に世界を救う程のことなのかと。しかしそれを考えることなんて俺には出来ない。目の前で伝えられたものは仕方ないけれど。
「……その妄想のお陰で俺は挫けなかったんじゃないか。そんな俺に悪いことをしたみたいな顔するなよ。大丈夫。めっちゃ気にしてる。」
俺はしぐれを殴った。顔にデカい1発をくらわせてやった。…満足だよ。
「……そうだ、お前にはそれくらいする権利がある。だが、時間がもう無くなってきた。本題入るぞ。」
そうして真剣な顔になって話を始める。
「お前の能力、まぁ名前だな。それは災害に奪われる。つまりお前は能力を使えないわけだ。そんなんじゃでっかくなった災害を倒せない。だが、名前がなくなったなら創ればいい。本当は状況を打開できる最適解を創りたいが、そんな英単語、我には思いつかない。そこで我は賭けに出る。まだ、意味がはっきりしていない創作語を創る。」
創作語と聞いてピンときた。そうだ、英語の時間に俺が裁判官になりたいって言った時しぐれが書いていくれた英単語。英語の先生に笑われて英語の教室前に飾られたやつだ。
「そう。まさにそれだ。ジャッジメンタ―。ジャッジメントにerをつけただけだから審判って意味はあるだろうが、それ以外の意味がないとは言い切れない。複数個ある意味の中に災害を打倒する切り札がある可能性に賭ける。」
だが、何かを創るには何か犠牲を必要にする。その犠牲は一体……あ…。
「我が犠牲になる。まだ能力の残っている内に我を犠牲にして創作語を創れ。なるべく強そうなのをイメージしてくれよ。我の犠牲が無駄になるなんて流石に嫌だからな。」
……犠牲になるな、なんて綺麗事はもう言えない。それしか手が無いんならそうするしかないのだ。
「人生、楽しかったか。しぐれ。」
「やり残したこといっぱいだけどな。卒業式、皆揃ってやりたかったなぁ。式の後さ皆で打ち上げとかするんだ。楽しいことだよ、多分。」
皆、やりたいことがあったまま小学生で死んだ。将来有望な奴も複数人いたことだろう。
「やるぞ。これまで倒せなかったデザスターを倒して、日本を救う為に。」
創造に神経を集中させる。
理不尽を許さない、理不尽を根絶する。デザスターも理不尽の1つだ。この日本に理不尽に将来を奪われる人達を皆救える。そんな、誰にでも幸せをもたらす能力。
『NOT ALLOWED. THIS IS MISTAKE. 』
よく言うよ。 許されないのはお前なんだよ。さてと、コード変えていくか。
『STOP.NOT GIVEN PERMISSON.―――翻訳完了。』
おっ、上手くいった。
『地球との接続解除』
『世界との根源接続承認』
『概念形成――承認』
『型式名を検索情報として一致情報検索―――一件の一致』
『情報登録』
『証明理論構成―矛盾、欠落修正』
『証明可能』
『再生外殻、再生内部流動体、生成』
あとは、天草が向こうに出るだけだな。
…全く、天草も不運な目に遭うもんだな。…まだ、勘違いしてることもあるみたいだし。
「日本のパーティシペイタ―はお前を除いて、我しかやってないぞ。」
犠牲になるってのは悪い気も良い気もしないもんだ。
「頼むぜ、天種禎流日本を救ってやれ。」
光に包まれた空間は黒い霧が覆い尽くし、霧が晴れると、そこには海が生物のように蠢いていた。
立ち向かうのは黒い影。飾りは1つもなく、ただ1つそこに黒がある。何色にも染まらない黒が其処に。
『証明完了』
光の空間はしぐれと共に消滅した。最期にあいつは楽しそうに手を振っていたが、俺はどうしても振り返すことができなかった。……皆の死を、もう会えないのを認めたくなかった。死んだ人は帰ってこない。そんなことは分ってるでも……クソ!こんなことは考えるな!皆の犠牲を無駄にする気か!前を見るんだ。今、目の前にいる倒すべき敵を見ろ。何が何でも倒す。俺がやるのはこっちだろ!
『海面が歩行不可である―有罪―この概念を死刑に処する』
デザスターに真っ直ぐ進む。
当然、デザスターの攻撃で波が襲いかかる。
『攻撃による被弾―有罪―この概念を死刑に処する』
デザスターの攻撃は何1つとして俺に通らない。
俺が創造した力。何が正しくて何が間違いなのか、それは結局人の主観でしかない。だから、俺も俺の主観で決める。そしてそれは俺が理不尽と思ったもの全てを有罪にする。理不尽は悪だ。もしかしたら他の人は悪ではないと言うかもしれない。でもこれは俺の主観。少なくとも俺には理不尽なんてものに良いところなんて1つも見出せない。
デザスターの目の前に来た。
デザスターは巨大な水の塊で一歩も動こうとしない。
そこに俺は腕を入れる。
『実体の無いものには物理攻撃が通用しない―有罪―この概念を死刑に処する』
巨大な水の塊は霧散し別の場所に巨大な塊を形成し始める。
このままでは不死の相手をするようなものだ。それは理不尽に他ならない。…つまりデザスター、お前は
『距離によって攻撃が届かない―有罪―この概念を死刑に処する』
『何かの犠牲がなければ効力が発揮できない―有罪―この概念を死刑に処する』
「俺はデザスター、お前が何なのか分からない。お前の役割も知らない。だが俺にとってお前は悪だ。だから、ここで消えてもらう。」
理由はそれだけ。実際、死刑ってのはもっと厳格に行われるんだろうが、俺にはそんなことができる頭はない。俺にとって善か悪か、それだけが死刑を決める理由になる。
「…俺達の勝ちだ。ジャッジメンタ―!」
『概念破壊を以て執行』
形成された水の塊は霧散ではなく自然と消えた。
見るだけじゃ分からないだろうが確実にデザスターは殺した。その感覚は殺した俺だから分かる。
……この力なら
『不可』
…そうか。まぁそうだよな。この力は皆の犠牲で成り立ってるんだ。その皆を生き返らせるってことは矛盾が発生する。意味合いは異なるかもしれないが理不尽を起こしてるみたいな感じだ。この力が理不尽みたいなものだから今さらどうこう言えたものじゃないけど。
「やったぜ。皆。あの方を倒した。」
光無き曇天を見上げ俺は
それは意味が分からないことだった。僕は彼と別れ、彼の戦闘を観ていた。勿論、孤島でじゃないよ。彼の戦闘スタイルにしてはやけに躊躇いが無いなと思っていただけだった。そこからかな、災害が形態変化したのも驚きだけど、形態変化したのは彼もだった。何が起きたのかははっきりとは分からないけど名前が、というよりパーティシペイタ―としての在り方が変わった気がしたんだ。そして、なんと、世界の概念を変更し始めた!こんな力がある訳がないのにだ!なんだこれは!なんなんだこれは!?!?
決着はすぐ着いた。それから彼は消えたんだ!意味が分からないだろう!?そうさ、意味が分からない。もしかしたら、もしかしなくてもそもそも意味なんてないのかもしれない。そして、そしてそしてこれは何だ!?一体これは何の説明も無しに僕に何をさせたいんだ!?
災害の到着が近いんだって。さっき倒されたのが災害じゃないか!何を言ってるんだこれは!そもそもこのアナウンスさっき聞いた。ハハハ。アハハハハハハハハ。いくら僕でも堪えるよ。笑えないよ全く。あぁ笑えない。
また、人探しから?それで即災害を倒せって言えと?無理でしょ。禎流君だって少しは経験値を積ませた。それと、何かの偶然があってやっと倒したんじゃないか!?何を何がしたいんだ全く!ふざけるなよ。ふざけるな!こんなことがあっていいものか!これは
禎流君に対しても侮辱でしかない。まるで彼がやったことが無意味みたいじゃないか!そんなことは無い!彼は意味を成した!誰がどう見たって意味を成したとしか形容しようがない!
???
おっと、どうでもいい所まで語ってしまった。まぁ、ついついね、本音が漏れちゃうんだよ。あの結末は受け止められないからね。え?結局どうしたのかって?面白くないし、語るまでもないでしょ。
それより、彼の功績なんだけどさ、まず、彼のお陰で判明したことなんだけど、災害を1体倒すと、これまで倒した脅威を含めて具現していた意味がこの世界から消滅するんだ。簡単に?今回の例が1番簡単だよ。まず、彼が最初に倒した脅威は武器を使ってたから、武力の意味を持ってる、2番目に倒した脅威は殴りまくってたみたいだから暴力の意味を持ってる、3番目に倒した脅威は上から押さえつける力、いわば圧力の意味を持ってる、4番目に倒した脅威は命令したり強制したりする力、権力の意味を持ってる、最後の災害は自然の意味を持ってるだろ。武力、暴力、圧力、権力、自然。共通点がないように見えるけど、実はこれ、全部人間を殺すことができるんだ。禎流君がこれらを倒してくれたから、今や日本に殺人は存在しない。あと、災害はあの方じゃないっことさ。…いやぁ、小学6年生だよ?凄くないかい?何はともあれ、これが彼の物語さ。うん。自分で語ったのもあって、彼の凄さをしみじみと感じるよ。やっぱり英雄だね。
彼は今でも、皆のことを考えているのかな?