カウントダウン・トゥ・チェックメイト
「えぇっ?知らないの?氷牙」
するとヒカルコは再び驚きの声を上げながらこちらに顔を向ける。
「あんまりテレビ見ないんだ」
「そっかぁ」
少し寂しそうな眼差しで頷きながらヒカルコは雑誌をこちらに見せてきたので、何となく男性が写っている写真に目を向けた。
「セラショウタロウって言うんだよ、最近出て来た俳優なの」
「そうか」
写真の下には男性のプロフィールが載せられていて、名前は瀬良翔太朗と紹介されている。
雑誌を自分の前に引き寄せながらヒカルコがこちらを見てニヤつき出す。
「喋ったの?」
「まあほんの少しね」
「ふーん」
「世界が変わって1ヶ月くらいだし、でかい組織の名前とか、凶悪なテロリストの存在とか、少しずつ目立って来てるよね」
腕を組んで天井を見ながらユウジが喋っていると、マナミも一緒に天井を見上げる。
何かしら・・・寒気がするわ、風邪かしら?
何となく後ろを振り返るが、そこには誰も居ない。
「んー、シンプルな勢力図になるまでに、結構複雑な戦いになりそうだと僕は思うよ」
喋り出しながらアキがユウジに顔を向けると、マナミも同じようにユウジに顔を向ける。
「確かにそれは言えるけど、まあ大きく分ければ3つになるんじゃない?組織的勢力図と、テロリストの動向と、野性動物の能力者の・・・動き?」
ユウジが指を折りながら数えるように話している中、一瞬アキが鋭い眼差しでこちらを見たのにふと気が付いた。
「勢力争いもあるけど、能力者に対する政府の対応とかの、能力者に対する世論も大事じゃない?」
「あ、そうかぁ」
アキの問いにユウジがうなだれるような口調で応えて天井を見上げると、アキが再び何かを見定めようとするような、鋭い眼差しをこちらに向ける。
「ミサさん、どうかした?」
「あ、ううん、たいしたことじゃないの、一瞬、寒気みたいなものを感じただけよ」
アキはほんの少しだけ目を逸らしながら眉間のシワを片方だけ寄せたが、特に何かを言う訳でもなくすぐにその眼差しに落ち着かせていった。
「それなら良いけど」
アキって意外と気配り上手なのよね。
ミサが戻ってきて少しした後に料理がホールに運び込まれたので料理をお皿に取ってテーブルに運び椅子に座ったとき、レンがミサの隣に静かに座った。
「あら、あ、そうだレン、後であたしの部屋に来て欲しいんだけど、良いかしら?」
眉をすくめてミサに顔を向けたレンは一瞬こちらに顔を向けてから黙って頷いた。
「氷牙、貴方も一緒に来てね」
そう言いながらこちらに向けて微笑みかけるミサを、寂しそうな眼差しで見るレンがふと目に入った。
「そうか」
ユウジの挨拶が終わり、ミサとレンが立ち上がる中、ミサが目で訴えてきたので2人の後に続いて立ち上がったとき、ちょうど後ろから声をかけられた。
「よぉ氷牙、闘技場行こうぜ」
ミサを見ると、ミサは目を細くして鋭い眼差しでこちらを見ている。
「ああ、後ですぐ行くから、ちょっとだけ待っててよ」
「お、おう、そうか」
こちらを見るミサを見たのだろうか、少し焦るように応えたノブは一足先に闘技場へと向かった。
「レン、この組織には慣れたかしら?」
「ちょっとね」
話を聞きながら2人について廊下に出て、ミサの部屋の扉から中に入るとミサはその部屋のソファーにレンを座らせた。
「ねぇレン?怖がらなくて良いから、あたしに本当の姿を見せて貰えないかしら?」
深めに眉をすかめたレンは隣に居るミサを見つめた後に、向かいのソファーに座っているこちらに顔を向ける。
「でも・・・」
「ミサなら大丈夫だと思うよ」
寂しそうな眼差しでこちらを見ているレンはゆっくりとミサに目線を戻すと、ミサは優しく微笑みかけていた。
不安げにミサを見ているレンは再び一瞬こちらに顔を向けると、小さくうつむきながら自分の姿を元に戻していった。
目を見開き口を軽く押さえながらミサがレンに釘付けになると、レンは小さく鼻でため息をついた後に顔を上げてミサを見る。
どうやら言葉が出ないみたいだな。
「そこまで人間と掛け離れた外見じゃないし、怖がることもないと思うけど」
ミサは口を軽く押さえたままレンの頭や顔、服を黙って見回していて、少しの間沈黙が流れると少し慌てたようにミサがこちらに顔を向ける。
「・・・えぇ、そうね」
やっと言葉が返って来たか。
「あたし、やっぱり怖い?」
寂しそうな眼差しでレンがミサに聞くと、ミサは一瞬固まるがすぐにレンに優しく微笑みかける。
「そんなことないわよ。それより、寒くないかしら?キャミソール1枚で」
レンは安心したようにすくめた眉を戻すと自分の服を見ながら軽く腕を伸ばした。
「大丈夫だよ」
すると薄く紫色に色づいたキャミソールから袖が現れて手首まで伸び、丈は膝下にまで伸びた。
レンがミサに顔を向けると、ミサは驚いたような表情でレンの服に見入っている。
「え・・・ど、どう、やったの?」
「あたし、身につけてる物は少しだけ自由に変えられるの」
「そう・・・なのね」
ミサはレンの本当の姿を見るためにわざわざ部屋に呼び出したのか。
でもおかげでレンも少しはミサに気を許せるようになったかな。
「用が済んだなら、僕、ホールに行っても良いかな?」
「あたし、氷牙の戦い観たい」
半音高い声でレンが喋り出すと、こちらを見ていたミサは気を許したような優しい眼差しをレンに向けていく。
「じゃあ、戻りましょうね」
あら?
今、一瞬だけレンが笑ったような。
氷牙とレンと共にホールに戻ると、氷牙はノブが映っているモニターの下の扉を開けて闘技場に入っていった。
「レン、ユウコには見せたの?」
こちらに顔を向けたレンは目線を落とすと、ゆっくりと首を横に振った。
「でも、ユウコ、すごい仲良くしてくれるよ」
「そうなの」
まあユウコなら大丈夫でしょうけど。
「もし見せるときになったら、あたしが隣に居てあげるからね」
再びほんの少し口角を上げながら頷くと、レンは緊張感が和らいだような表情でモニターを見始めた。
やっぱりこのヨーロッパ風の姿の方が違和感は無いけど、ずっとこれだと疲れちゃうんじゃないかしら?
何となくモニターを見てみると、氷牙に対してノブとシンジが2人掛かりで特訓をしていた。
でもやっぱり氷牙のあの速さにはついて行けてないみたいだわ。
「やっぱこいつ・・・だめだ、はぁ、早過ぎだ」
地面に降り立ったノブはそう言いながらブーツを消すと、シンジも荒く呼吸をしながら腕の朱い外殻を消していった。
2人とも動きが結構変わってきたな。
テロ相手の実戦で色々な戦術を身につけたのかな。
水を飲んで一息ついたノブとシンジと共に、ミサ達の隣のテーブルの椅子に座った。
「オレさぁ、次にハンマー男のテロ組織に乗り込むときのために、作戦考えてんだけどさぁ、あと2つ駒が足りないんだよな」
テーブルに置かれたコップに目線を置きながらノブが独り言のように喋り出したとき、ふとシンジの今にも笑みを浮かべそうな表情が気に掛かる。
「そうか、ワープ対策の作戦?」
「まあな」
「・・・っ」
ノブが眉間にシワを寄せてシンジを見ると、シンジは緩んだ口元を手で隠してすぐに表情を真顔に戻す。
「あぁ?お前今笑ったか?」
「だって、そんな話聞いたこと無かったし」
「いや、あの・・・頭ん中で考えてて・・・く、口に出したのが今が始めてなんだよ」
焦ったように目を泳がせ始めたノブが頭を掻くと、更にシンジの表情が緩むが、リラックスしたような態度のシンジも、そんなシンジを見るノブの表情にも以前よりも深い親しさを感じたことにふと気が付いた。
「わ、笑ってんじゃねぇって」
「うん、それで、作戦って?」
シンジがなだめるように頷きながら聞くと、ノブは落ち着きを装うかのような険しい表情で軽く天井を見上げた。
「まぁ、まずはセイシロウとサカハラの力で、フィールドで銃器が使えないようにするだろ?」
前のときはアジトが高い塀に囲まれてたし、フィールドとして区切りやすいかもな。
でもそういえば確か、1発だけセイシロウとサカハラの力の影響を受けない弾が撃ち込まれたような。
「んで・・・オレらが真正面から入るときに、ワープする奴だけを狙って同時に裏から誰かが入り込むだろ?」
手を動かしながら説明しているノブを見ながら、シンジは考え込むような表情で黙って頷いている。
気づかれないように忍び込めるかな?
「まぁ、肝心なのは時間稼ぎ出来るほどの防御力のある奴と、絶対に気づかれないかつ、確実に仕留められるほどの行動力のある奴、その2人が必要なんだよなぁ」
そう言いながらノブは腕を組み出して、諦め半分の表情で天を仰ぐ。
そんな都合の良い力を持つ人なんて・・・ん、都合の良い?
「防御力ならもう決まってんじゃないの?」
少し投げやりな口調で喋り出したシンジにノブが顔を向けると、シンジは目で差すかのように向かいの席のこちらに顔を向ける。
「そりゃあオレも内心そう思ってたけど、もう1人がなぁ」
少し険しい表情でノブが唸り出すと、シンジは何かがひらめいたかのようにノブを見る。
「素早さならノブさんが1番じゃん」
単に素早さで考えるのはどうなのかな。
「確かにオレは速さじゃ負けねぇけど、潜入とか隠密とかには向いてねぇよ」
忍者とか居れば良いけどな。
「透明人間でも居れば良いのにねぇ」
シンジの後ろのテーブルから独り言のような声が聞こえたので、何となくその方に目を向けると、ミサは目線を天井に向けながら首を傾げるレンを見て、レンと共に首を傾げていた。
「おおっそれだよそれ」
ノブが驚いたような口調で声を上げながらミサに指を差すと、ミサは少し困ったように眉をすくめてノブに顔を向ける。
「え?何よ」
「まぁ確かに透明なら見えねぇし、見つかることはねぇな」
「あら、採用されちゃったみたいだわ」
目線を上げながらノブは少し満足げな表情でゆっくりと頷いている。
誰が透明人間になるのかな?
「でもさあ、透明人間なんてどこに居んの?そんな力持った奴、この組織に居たっけ?」
シンジが冷静な表情で口を開くと、ノブは再び眉間にシワを寄せてシンジに顔を向ける。
「透明人間っつっても色々あんだろ?例えば、光の屈折具合で人の目に映らないようにするとか・・・」
ヒカルコが戦場に行ったら危ないな。
まあでもヒカルコは賢いし大丈夫だと思うけど。
「ああ、ヒロヤさんなら出来るかもね」
するとシンジはそう言いながら納得したような表情で頷き出した。
あ、そっかヒロヤも鉱石で光の力を手に入れたんだったな。
「じゃあヒロヤで良いんじゃない?」
腕を組んだままノブが唸り出すと、そのテーブルの空気に答えを待つ沈黙が静かに降り掛かる。
「・・・そう、だな・・・よし、見えたぜ」
何かがひらめいた様子のノブが思い立ったように席を立つと、すぐに遠くに居たテーブルからヒロヤを連れて来た。
「お前さぁ、光の屈折で自分の体を消すことって出来るか?」
2人が椅子に座るなり話が切り出されると、ヒロヤは小さく眉間にシワを寄せて目線を上げた。
「・・・まぁ、どうかな、出来ないことはないと思うけど、何で?」
ヒロヤが応えるとノブはすかさず得意げにニヤつき出す。
「実はな、次にアジトに乗り込むときのために、新しい陽動の作戦を考えてんだ」
新しい作戦?
「なるほど、どんな?」
前にもう1度乗り込んだってことかな。
「まぁ、簡単に言えばオレらが敵の目をこっちに向けさせてる間に、姿を消した奴が裏から忍び込んでワープする奴をピンポイントで狙って、まずは逃げ道を封じるっていう感じだ」
ノブが説明している間、ヒロヤは冷静な表情でノブの話を聞いている。
「そのアジトって、日光はよく入るのか?」
しかしヒロヤの冷静な問いに、自信満々な表情のノブは勢いを削がれるかのように表情を落ち着かせる。
知らないってことはヒロヤはまだアジトを見たことがないってことか。
「ああ、いや、高い塀で囲んでるから、1階はほぼ電気だけだな」
あいつらのアジトって、全部ああいう高い塀に囲まれてるのかな?
だとしたら逆に目立つよな。
瀬良 翔太朗(セラ ショウタロウ)(21)
俳優。
モデルとしてデビューして2年後に映画の主役に抜擢され俳優デビューする。その後も連続ドラマに出演するなどして今では俳優一本でやっている。