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巨人はひたすら結界を手に持った棍棒で殴り付けていた。
私達など眼中にないと、その行動で示している。
「このままじゃ、すぐに結界が壊されちゃうよね」
「ピィ」
私のつぶやきに、レヴィが小さく鳴いて肯定してくれる。
そうさせないためには、やはり巨人に一定以上のダメージを与えて、こちらに注意を向けさせないといけない。以前教えてもらった、ヘイトを稼ぐ、というやつだ。
「皆、ごめん。ちょっとどいて!」
知らない人がいっぱいいるし、注目集めるのは大の苦手で、逃げたくなる。けれど、逃げたくない。
私は弱気を振り払うように大声をあげながら、巨人の左足目がけて流水を振り上げた。
目一杯伸ばした流水の刀身は、一メートル以上ある。
慌てて避ける皆の中を駆け抜けて、私は巨人の足首を切り裂いた。
「グォオオォオ!」
緑色の血が飛沫となってほとばしり、すっぱりと切れた断面からは白い骨が覗いている。初めてダメージらしいダメージを受けて、巨人が怒りの咆哮を上げた。
「リンちゃん、やるー!!」
「すごいです、どんな隠し技なんですかー?」
露草とユノが興奮して飛び付いてきた。皆も驚きに目を丸くしている。ガロンなんて、「そんな馬鹿な」とかつぶやきながら目と口を開けていて、ちょっと間抜けな顔だ。
「う、うん、えっと、称号のおかげ、なんだ」
私は皆からの注目を浴びてどもりながら答えた。
トオルと初めて会った時に手に入れた称号【牙を持つ小動物】。これは自分よりも大きく、格上の相手に対峙した場合において、攻撃力と素早さが上昇するという効果を持っていた。
しかも、相手が大きければ大きい程、強ければ強い程、効果は増すという嬉しい称号である。つまり、私は巨人相手になら、実力以上の力を振るうことができるのだ。
「そうか……よし、皆、リンさんをサポートしよう!」
私の説明を聞いたルーゼフさんが皆に呼び掛ける。皆はそれぞれうなずいたり、了解の返事を返したりして、私を見た。
「あ、えっと、その」
「リン」
狼狽える私の肩を、トオルが落ち着け、というように叩く。一度深呼吸してから、私は頭を下げた。
「サポート、よろしくお願いします!」
私の言葉に、《トリック・ビリーヴ》の面々は好意的な返事を返してくれた。ギルドに入っていないプレイヤーも、私の方がダメージを与えられるから、とサポートに回ってくれることになった。
「期待が重い、けど。頑張ろう」
「ピィ!」
頑張れ! というように、レヴィが小さく鳴いた。
私が巨人にダメージを与えて、他のプレイヤーが追加攻撃をしたり、サポートしたりする。それを繰り返していると、巨人の行動が変わった。
今までは私達の事を無視してただひたすらに結界に攻撃していたのに、私達にも攻撃してくるようになったのだ。
「ひゃああっ」
「さやか、こっちに!」
巨大な足で私達を踏み潰そうとする巨人から、皆が逃げ惑っている。
私は特に狙われていて、棍棒の攻撃も加わっている。
「リン、大丈夫か!?」
「う、うん。でも、これじゃあ攻撃できないよ」
トオルの言葉につい弱音を吐いた時だ。
「――ならば、私達が巨人の注意を引きましょう」
涼やかな声が辺りの喧騒を払うように響いた。
「イリスさん……」
声の主は《白銀の風》のギルマス、イリスさんだった。彼女は、羽根を持つ白馬――ペガサスに乗っていた。後ろには五、六人程の《白銀の風》のメンバーがいて、彼らもペガサスやグリフォンなどに騎乗している。
「空からあの巨人を攻撃します。あなた方は、先ほどのように攻撃を」
「あ、えっと、その」
「では」
私が戸惑っている間に、イリスさん達は空に舞い上がった。見る見るうちに浮上して、巨人の頭上に到達すると、武器を構えて攻撃を始める。
イリスさんの武器は、白銀のランスだった。
「食らいなさい!」
ペガサスが宙を駆ける。雷光をまとって繰り出されたランスの一撃は、見事に巨人の右目を潰した。
「グゥアアァアア!!」
狂ったように巨人が暴れる。激しく地面が揺れる中、私は流水を振りかぶっていた。
「――せいっ!」
狙いは左足首の、アキレス腱。揺れる地面をものともせずに私が振るった流水は、巨人の足首を半ばまで切り裂いた。
巨人が片膝をつく。
「やった!」
期待した以上のダメージを与えたことに喜んで、私は気を緩めた。
その隙を、巨人が見逃すことはなかった。
「えっ、――!!」
――ぶぅん、と。ひどくはっきりと風音がした。
気が付くと私は棍棒で殴り飛ばされ、街の外壁に叩きつけられていた。
「ピィ!」
レヴィが急いで回復してくれる。しかし、再び巨人の棍棒が私に叩きつけられられ。
私のHPはゼロになったのだった。




