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不気味な程に赤い空の下、四体の巨人が少しずつ迫ってくる。
「……なんてでかさだよ、おい。あんなの倒せるのか?」
「何メートルあるんだ? まさしく巨人だな」
「……進撃の、げふんごふん。なんでもない」
「炎の七日か……ごほっごほっ、なんでもないっす」
「大丈夫、怖くない怖くない」
「おい馬鹿やめろ」
などと、プレイヤー達は大騒ぎである。
私達はそんな中、困った顔で巨人を見上げていた。
「ひゃー、おっきいですねー」
「うわ、見てよ。あの棍棒! あんなので殴られたら一撃死間違いないね。むしろオーバーキルだわ」
「あれ、マジでどうやって倒せって言うんだ……」
ユノや露草が呆れたように言う隣で、トオルが溜め息をつく。確かに、あんなのを四体もどうやって倒せばいいんだろう。
『冒険者の皆さん』
そんなざわめきを払うかのように、凛とした声が響いた。リシャラザートさんだ。
『今から私がこの王都に結界を張ります。この結界は、敵だけを防ぐので、皆さんは出入り自由です。ですが、長くは持ち堪えられません。保ったとして五時間。攻撃を加えられれば、その分短くなります。結界がなくなれば、この《白の都》は蹂躙されてしまうでしょう……』
リシャラザートさんはそこで苦しげに眉を寄せたけど、すぐに気を取り直したように言葉を続けた。
『そうならないために、皆さんのお力をお貸し下さい。では、結界を張ります』
リシャラザートさんがそう宣言すると、画面が消えた。かわりに、白く光る糸のようなものが城の辺りから広がり、《白の都》を包み込んだ。空を見ると、レースのように複雑な模様を描いて、ドームのような半球体となっている。
「おい、来たぞ」
結界を眺めていると、一際大きく地面が揺れ、トオルが緊張した声で言った。
――どうん!!
雷が落ちたのかと思った。
それぐらい巨人が振り下ろした棍棒の一撃は凄まじかった。びりびりと結界が震えているのがわかる。
「どうやらあいつら、《白の都》を取り囲むみたいだね」
ユキトさんの視線を追うと、巨人達が移動していくのが見えた。
「東西南北、それぞれの門に一体ずつ来たみたいですー。今、ギルドチャットでわたし達が迎撃する場所が南門になりましたー」
「そういうことだから、リンちゃんも一緒に行こ! さやかちゃんとユキトもね」
露草に誘われて、私達は皆一緒に南門に移動することにした。
でも、与一さんとマリアロッテくんは東門に行かないといけないらしくて、別れることになった。
「リンさん、皆さんも、どうかご武運を」
「皆、まったねー」
手を振って去っていく二人を見送っていると、トオルがつぶやいた。
「東門はギルド《旅人の足跡》が守るのか」
「え? どういうこと?」
トオルに詳しく話を聞いたところ、大手ギルドは事前に話し合いをしていたらしく、今回のパターンの場合、どこをどのギルドが守るのか決めていたそうだ。
トオル達のギルド《トリック・ビリーヴ》は生産者のギルドなので、前線に立てない人も多い。そんな人達はサポートに回り、戦える人は主に南門に配置されたという。
「南門は、戦闘特化のギルド《白銀の風》が守ることになっているから、俺達はその手助けだな」
「《白銀の風》……」
「聞いたことあるよ。なんでも《旅人の足跡》と並ぶ大手ギルドなんだってね」
ユキトさんが私達の会話を聞いて話に加わってきた。
「どんなところなんですか?」
「うーん。僕は、戦闘特化としか知らないなあ。トオル君は?」
「俺もくわしくないな。ただ、規律に厳しいとは聞いた」
「うち、見たことあるよー。なんか騎士団の真似事っぽかった」
ひょい、とユキトさんの隣から露草が顔を出す。
「騎士団?」
「わたしも見ましたー。なんだか皆、やけに格好付けてましたねー」
「厳しいな」
ユノの言葉に苦笑したのはルーゼフさんだ。
「《白銀の風》は、攻略組だ。規律に厳しいと言われているが、団結力は強い。おそらくギルマスのカリスマのおかげだろうな」
「ギルマスですか?」
私が首をかしげると、皆がうなずいた。
「《白銀の風》のギルマスさんって、有名な人なんですか?」
「ああ。《白銀の戦乙女》と呼ばれている」
「女性、なんですか。その人はいったいどんな――」
「門が見えたぞ」
さらに詳しく聞こうとしたけど、トオルの一言で皆口をつぐんだ。
門の向こうに、巨大な足が見えている。
その足に向かって攻撃を加えている集団は、皆お揃いの甲冑姿だった。
「あれが《白銀の風》?」
「ああ、そうだ」
「見て、リンちゃん。あそこにいるのが《白銀の戦乙女》って呼ばれてるギルマス、イリスだよ」
トオルがうなずき、露草がささやく。
露草が指し示したプレイヤーは、とても華奢な少女だった。白銀の鎧をまとい、長い銀の髪を背中に流している。
顔立ちは、綺麗というより愛らしく、凛々しい二つ名とは少しイメージが違った。
「俺は挨拶してくる。皆は、ここで戦闘の準備をしていてくれ」
ルーゼフさんがそう言って、イリスさんのところへと歩いていった。
もちろん、その間にも巨人の攻撃は続いている。
こんなにのんびりしていて、果たして《白の都》を守れるのだろうか。
「……大丈夫かな」
「ピィ……」
不安にこぼれたつぶやきに、ポケットに隠れているレヴィが小さく鳴いて応えてくれた。




