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 ぽよんぽよん、ぽよんぽよん。

 軽快なリズムで次々と増殖していく羽飛び兎。一匹だった羽飛び兎はもう十匹近くにもなっていて、しかもまだ増え続けている。

 遭遇したプレイヤー達に【分裂】と名付けられた、羽飛び兎の特殊スキルの一つだ。

 ……まずい状況だよね。

 トオルはログアウト中。今居るプレイヤーは、今日初めて会った私とルーゼフさんだけ。

 ルーゼフさんはどうかわからないけど、私は範囲攻撃なんて持ってないし。

 不利も不利。不利もいいところだ。それでも、最初から投げ出す気にはなれない。

 よし、やるだけやってみよう。

 挫けそうになる心を立て直して、ひとつ深呼吸。それから大声で御者席のルーゼフさんに呼び掛けた。


「ルーゼフさん! 馬車で逃げ切ることはできますか!?」


 まずは可能性を一つ、試すところからだ。


「あ――ああ! やってみよう。サージさん、頼みます!」


 ルーゼフさんが御者さんに頼んですぐに幌馬車の速度が上がった。

 それを見た羽飛び兎達は、それまで遊ぶようにふわりふわりと浮いついたのに、羽を強くはばたかせて追いかけて来た。


「どうだ!?」

「だ、駄目です! えっと、もっと速度出せませんか!?」

「無理だ! これ以上は馬が持たん!」


 即座にルーゼフさんは声を返してきた。確かに、いくら二頭引きとはいえ荷台に荷物をぎっしり積んで走るのはきついだろう。

 なら、なんとか追い付く前に撃退は出来ないだろうか?


「すみません、ルーゼフさん! ちょっとこっちに来て下さい!」

「どうした? ――ああ、トオルの声がしないと思ってたら、ログアウトしてたのか。……相変わらず、タイミングが悪い奴だな」


 ルーゼフさんはすぐに荷台に来るとトオルを見て、溜め息まじりに呟いた。

 相変わらずってどういう意味なのかちょっと気になるけど、今は置いといて。

 さあ、なにか方法はないか話し合ってみよう。



 馬車の速度が上がったせいで揺れも激しくなっているし、木箱の中にある様々な金属製品もガッチャガッチャ鳴りまくっていて、とても五月蝿い。

 でも、今の私達にそれを気にする余裕は無い。


「まず、確認です。私は見ての通り短剣使いです。ルーゼフさんは――」

「ああ、大鎚だ」


 ルーゼフさんは背中に背負う大鎚にちらりと目を向けてから答えた。

 鉄の塊のようなそれは、見た目通りの重量と破壊力を持って敵を粉砕するのだろう。でも。


「ただ、範囲攻撃は使えないな。それに、わかるだろうが、俺はドワーフでスピードのある敵は苦手だ」

「ですよね……」


 ううん。トオルの武器と同じで、当たれば凄そうなんだけどなあ……

 私は幌の隙間から羽飛び兎の様子を伺いながら頭を捻り、ルーゼフさんも隣で同じようにしている。


「まあ、あいつ等にはむしろあんたの方が向いてるだろうな」

「あ、はい。確かに、私はスピード重視です。でも、当たっても攻撃力は低いんですけど……」


 そう、スピードはあるけど手数で押し切らないと倒せない。このゲームで多数相手の戦闘をした経験も無い。

 どう頑張っても数の暴力で直ぐにやられちゃいそうだ。


「攻略板だとあいつらは、範囲魔法で一気にしとめるのがベストってあったが……」

「無理ですもんね……わわっ!」


 どおん、と音が鳴り、衝撃が私達の体を襲った。


 頭で考えるより先に手が動いて、近くにあった木箱の一つにしがみつき、転倒は免れた。私が掴んだ木箱も大きく揺れたけど、ロープで事前に固定してあったのが良かったのか、倒れたりはしなかった。

 だけどほっとしてる暇もない。

 どおん、どん。

 二度三度と繰り返される音と衝撃。これは、あれだよね? あの毛玉達だよね!


「る、ルーゼフさん、大丈夫ですか!?」

「ああ、無事だ。しかし、不味いな、追い付かれたか」

「……!」


 結局、上手い考えが出る前に追い付かれてしまった。あっさり良案が出ると思ってたわけじゃないけど、もう時間も無い。


「馬をとめて、迎え撃ちますか?」

「……いや、まだやれそうな事はある」


 ルーゼフさんはまだ木箱の一つに手をかけたままだった。その中身を見つめながらの言葉に、私もそっとルーゼフさんの横に移動して木箱の中を覗いてみると、そこに入っていたのは納品予定の武器だった。

 それも、スローイングナイフやダガーなど、投擲用の武器がぎっしり詰まっている。


「え、まさか、これを使うつもりですか? その、商品ですよ?」

「わかってはいるが、このままじゃ死に戻りでクエスト失敗に終わる。なら、やるだけやってみないか?」


 私は軽く目を瞠った。

 やるだけやってみよう。それは、さっき私自身が考えた言葉だったから。

 もう返事は決まっていた。




「リンさんは投擲系のスキルは?」

「持ってません。ルーゼフさんの方は?」

「同じく、だな。まあ、俺はドワーフでそっちは短剣使い。どっちもDEXは高いだろ」


 ルーゼフさんが木箱の中身をひっくり返し、ざらざらと床にナイフやダガーが積まれてゆく。


「いいか、とにかく当てることを考えろ。羽に当たって落とせたらいい。そうでなくても村まで保てばなんとかなるかもしれないからな」

「このクエストの攻略方法ってないんですか? 今更ですけど」

「おいおい、今更過ぎるぞ。それに、あまり参考になるものは無かった。まず、この工房からシルト村の依頼が今回初めてだからな」

「あー、なるほど」


 そんな話をしながらナイフを一本手に取る。さらに数本を左手に持って、私は幌を大きく開いた。

 勢いよく近づいてくる羽飛び兎をようく見つめ、右手を振りかぶり。

 ――投げる。


 きゃうっと鳴き声を残して羽飛び兎は姿を消した。

「あれ? 消えた?」

「本体じゃなかったんだろ。ほら、じゃんじゃんいけ! じゃんじゃん!」


 言いながらばらまくように投げるルーゼフさん。

 うう、すみません工房長さん。後で拾いに行けたら行こう……



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