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お金は稼がないと減っていくものなのです。
新しい装備の性能を確かめる必要もあるし、稼ぐことは考えてたけど、この辺りのモンスターだと時間がかかる割にあまり儲からない。
前みたいに遠出してみようか?
そんなことを考えていた矢先なだけに、トオルからの提案は渡りに船だった。もちろん、のんびり馬車の旅、に心惹かれたのも確かだけどね。
「ほら、これだ。この《湖畔の村への配達人》。オレも、ギルドで借りてる工房のおやっさんに言われて、その村に配達に行くことになってる」
私が新しいエリアに行けるというクエストを詳しく尋ねると、トオルはウィンドウを開くように攻略掲示板を可視化にして言った。
横から覗き込むと、発見したクエスト一覧のところに確かに書いてある。
【《湖畔の村への配達人》クエスト……多分祭り開催日まで。クエストを出している店舗、NPCは以下のリストで。
追記:祭り開催日が近づいたせいか関連する依頼がへっている。祭り開催中は別のクエストがでるかも?
イベント【村おこし】については別スレで。 】
「お祭りがあるんだ!」
「ああ。オレのギルメン、いや、ギルドのメンバー達も、何人かそこで祭りに向けて動いてる。オレもこれから移動する予定なんだが、一緒に来るか?」
「え、いいの?」
「ああ。まあ工房のおやっさんが頷いてくれたら、だけどな」
「行きたいので、よろしくお願いします!」
私が勢い良く頭を下げるとトオルは「必死すぎ」と笑い、工房長さんに頼んでくれた。
その後、見かけは怖いけど優しい工房長にあっさり頷いてもらえて、上手くクエストを受けることが出来た。
早速馬車に向かうと、二頭引きの幌馬車の前で、二人の男性が立ち話しをしていた。そのうちの一人はNPCの御者さんみたいで、もう一人の人はドワーフの男性だった。
「よう、トオル。遅かったな」
私達に気付いて声を掛けてきたのはドワーフの男性で、すぐにトオルが対応する。
「すみません、ルーゼフさん。もう出ますか?」
「ああ、準備はいいのか?」
「はい」
トオルが素直すぎてなんか怖い……
私はひそかにトオルの態度に失礼な感想を抱きながらも、ルーゼフさんというらしいドワーフさんを観察してみた。
低身長でずんぐりむっくり、ひげもじゃなドワーフさん。なんだかお話の中から抜け出してきたような姿だ。
「――ふぅん、なるほどな。ええと、リンさん」
「あ、ふあい!」
おおう。いきなり声を掛けられて声がひっくり返ってしまった……っ!
羞恥で固まる私に溜め息をついて、トオルが口を開く。
「……あー。その、なんというか。さっき話した通り、ものすごく人見知りが激しい奴なんで。挙動不審は大目に見てやって下さい」
そう、そうなんです!
まだ真っ赤な顔をしてるだろう私は、何も言えないかわりに何度も頷いて肯定を示した。トオル、フォローありがとう! さっきはホント、失礼なこと考えちゃってごめんね!
「ああ、いや。俺の方こそいきなり声を掛けて悪かった。俺はルーゼフ。トオルと同じギルド《トリック・ビリーヴ》のメンバーだ。シルト村には一緒の馬車で行くことになる。よろしくな」
「あ、えっと。リ、リンです。私こそ、よ、よろしくお願いします」
また焦って噛みまくる私に、ルーゼフさんは豪快に笑って緊張するな、と言ってくれて、トオルは苦笑していた。
……は、恥ずかしい。
ま、まあ、そんなこんなで。
こうして、私とトオルは彼が弟子入りしてる工房が出した馬車に乗って、新しいエリア【皇国北部】に向け出発したのだった。
なだらかな丘陵を、一台の馬車が駆けてゆく。緑の丘は小柄な女性ならしゃがまなくとも身を隠せる程に草で生い茂っていて、風が吹くたび大きく波打っている。
《白の都》を北門から出て、北へ北へと馬車はゆく。 がたんごとんでは無く、がったんごっとん揺れる馬車の中で、私はつい溜め息をこぼした。
「うう、なんか想像してた馬車の旅と違う」
舗装されてない街道を、スプリングなんてついてるわけがない馬車で走ってるのだ。当然というか、リアルなら乗り物酔いで倒れるレベルで揺れてる。揺れまくってる。
「まあな。仕方ないけど、この揺れはキツイよな」
「うん……揺れに慣れるまで、なんか話しでもしてようよ。えっと、シルト村ってとこが目的地なんだよね?」
「ああ。そこで祭りが開かれるから、色々と物要りらしい。たぶん、オレとルーゼフさんは生産ギルドの工房で働きづめになるだろうな」
ルーゼフさんは、荷台ではなく、NPCの御者さんと一緒に御者席に乗っている。馬が好きだからと言っていたけど、もしかして私に気を遣ってくれたのかも知れないな。
「そういえば、私は荷物を運び終えたらどうしたらいいかな?」
工房長さんからの指示は、この荷台にある荷物を運ぶことだけだ。その後はどうしたらいいのか、今更だけど気になって尋ねてみると、トオルも気づいたようで、考え込んだ。
「そうだな……おやっさんは特に何も言ってなかったな。まあ、向こうに着いてから改めて聞こう」
「うん、そうだね」
幌馬車の荷台は山と積まれた荷物で少し息苦しいけど、その隙間に並んで座ったまま、私とトオルは今回のイベントについて話した。
「でも楽しみだよね、お祭り! まさかゲームの中でお祭りに参加できるなんて思わなかったよ!」
「そうか? 最近のMMOなら別にそこまで珍しくはないと思うけどな……ああ、そっか。MMOは初めてだったな」
「うん。正確には、オンラインが初めて、だけどね。屋台とか出るのかな?」
「出る。というか、うちは出すと言ってた」
「やった……!」
たこ焼き、わたあめ、焼き鳥、りんご飴やチョコばなな。お祭りといったら屋台だよね。
食欲一辺倒なのが、年頃の女としてどうなの、と思わないでもないけど。
「でも大丈夫なのか?」
「え? なにが?」
「いや……祭りって、人出多いだろ?」
「……」
「……」
「……わすれてた」
「……まあ、頑張れ」
お祭りが楽しみ過ぎて、お祭りに付き物なのは屋台だけじゃないってことに……つまり、他のプレイヤーがたくさんいるって事に頭が回ってなかった……。
オンライン初めて、と言ったばかりなのに……どんだけ屋台楽しみだったの、私。
うなだれる私を余所に、トオルはウィンドウを開いてなにやら調べていた。
「村まで、まだあと二時間以上あるのか……一回ログアウトしておいたほうがいいかもな」
「え? あー、そうだね。でも、私はちょっと景色眺めてからにしとくよ」
「そうか、わかった」
リアル時間で連続四時間以上のログインは禁じられているので、私達プレイヤーはログアウトのタイミングを考えて動くようにしている。
村についてからはバッチリ動きたいしね、私も後でちゃんとログアウトすることにしよう。
トオルは木箱のひとつにもたれ、立てた片膝に腕を置いて、その上に顔を伏せた格好になるとすぐにログアウトした。
さて、プレイヤーがたくさん、の嫌な想像はちょっと棚上げしてのんびり景色でも眺めようかな。
そう考えて、小石を踏んだだけでも揺れる馬車の中、後方の幌を少し開けてみる。馬車は、緑色の丘を緩やかに下っていくところだった。
ふいに、草木の影から一羽の鳥が飛び立った。
鋭い嘴が光に煌めき、眩しさに細めた視界の外へと、一直線に羽ばたいてゆく。
鳥から視線を外して地上に目を向けると、空へと逃れた鳥を狙っていたのか、悔しげに鼻先を空に向けている狼型のモンスターが居た。
少しして、草影から出てきたのはまだ躰の小さな仔狼達。狼の足元にじゃれつく仔達を、親らしい狼は優しい眼差しで見守る。
街道を行く馬車へと親狼は鋭い一瞥を投げたけど、その場からは動かなかった。
――そんな感じで、たまにモンスターは見かけるけど、とりたてて問題は起こらない。
しばらくの間、緑豊かな自然の風景に心癒されていると、ぽよん、となにかが草の隙間から転がり出てきた。まるっこい白の毛玉みたいなモンスター。
【鑑定】で調べてみると【羽飛び兎】という名前らしい。
……毛玉にしか見えないけど、兎なのか。
羽飛び兎は、ぽよんぽよんと身体を弾ませるように飛び跳ねながら、必死で馬車を追いかけてくる。かわいいなー、かわいいー。
でもね。
「羽はどうしたの、羽は」
思わず突っ込んでしまった。
なんで羽って名前についてるのに使わないの? まさか“跳ねる羽付き兎”って意味なの? 羽自体見えないけど、どこにあるのかな。
次々湧き出る疑問を感じながら羽飛び兎を眺めていると、なんだか妙な予感がした。……なんか、嫌な予感というか。
攻略掲示板を読んで、その嫌な予感は確信に変わった。
「ル、ルーゼフさんっ! あの、その、モ、モンスターです! 【いまんとこヤバイ奴ランキング】七位のモンスター羽飛び兎が追いかけて来てますっ!!」
「なんだってぇー!?」
ルーゼフさんが御者席で大音量の悲鳴をあげた。耳が痛くなるくらいの悲鳴。
でも、それも当たり前で、なんたってこのモンスターは……
「い、今羽が確認できましたっ! ――ひっ!」
羽飛び兎が!
背中から鳥に似た羽根をだしたかと思ったら。
増えた!!




