王の最終試練
第三次選考の死闘 (?) から数日後、孤児院に縫った洋服を寄付すると聞いたアドラは同行を願った。
目的はもちろん採寸。試練用に間に合わせで縫った服では子供たちにもうしわけがない。後日きちんとした防寒着を提供する予定だ。
都市のはずれにある古びた教会の前に馬車を停めると、アドラは大量の服を抱えてエリと共に子供たちのところへ向かった。
「エリ……半分持ってくださいよ」
「君は男だろ。女性に荷物を持たせるなよ」
無理をいってついてきたのはこちらなのでアドラも文句はいえない。
護衛のメイドたちに持ってもらうのも気が引けるので今日のところは黙って従うことにした。
アドラたちが教会の中に入ると堰を切ったかのように子供たちが飛び出してきた。
「せいおーさま! ホントにきてくれたんだ!」
真っ先に飛び込んできた少女をエリは嬉しそうに抱き抱える。
こういう時のエリは年相応の少女に見えてアドラは微笑ましく思ってしまう。
「あたしおおきくなったら、せいおーさまのようなりっぱなゆうしゃになるの! なれるかな?」
「勿論なれるさ。だがせっかくなるなら私を越える勇者になってみせろ。君の挑戦を待っているぞ」
――子供相手に何いってんだか。
もっともエリから見れば自分も似たような子供なのだろうが。
アドラは苦笑いを浮かべながら孤児院を運営しているシスターに衣服を渡す。
「使わなくなった教会を寄付していただき、あまつさえこのような施しまで……聖王様には感謝の言葉もございません」
もうしわけなさげに頭を下げるシスターにアドラは恐縮しきり。
――なるほど、あんな性格でもいちおうは聖女ということか。
失礼なことを考えながらアドラはシスターに服の採寸を申し出た。
※
孤児院の子供たち全員の採寸を手早く終わらせると、アドラは再び馬車に乗った。
「しかし余り物の布なんかで防寒具なんて本当に作れるのかい?」
「余裕ですよ。長年試行錯誤してきましたからね」
馬車の中でアドラとエリは暫し語り合う。
護衛付きとはいえ魔族を聖王の隣りに座らせるのはどうかと思うのだが、そこはエリの計らいもあって特別許可されている。
「もしかしておれの本職を知っててあのような第三次選考を?」
「まさか。メノス家を出奔してからの君の動向などわかるはずもない。魔王軍に所属していることすら知ったのはつい最近だ。御自ら敵地に乗り込んで諜報活動とは総司令官殿も色々と大変だ」
「だからスパイなんてしてないって何度もいってるじゃないですか!」
素性がバレて色々と諦めたアドラはすべての事情を聖王にゲロっていた。
バレたら首が物理的に飛びそうだがルーファスに地上侵略を諦めさせるにはむしろこうしたほうがいいと思ったからだ。多少はあった忠誠心はルガウに置いてきた。
「おれとしては無謀に地上を侵略するのではなくソロネと同盟を結んでサタンの脅威に備えたいわけですよ。そのためにエリの協力を仰ぎたいんです」
「話はわかっているが、ハッキリいって君の上司はどうしようもないうつけ者だぞ。さっさと一戦交えて討ち取ったほうがてっとり早いのでは?」
「それはできません。ルーファス様は前代未聞の魔界統一を成し遂げた真の魔王なんです。あの方を失えば魔界は再び混沌の時代に逆戻りしてしまいます」
「やれやれ困ったものだ。政治は苦手なのだがなぁ」
エリは大きく肩をすくめた。
政治が苦手な王がよくここまで国を栄えさせてこれたものだ。
だからこそ発展の度合いで他国に遅れを取っているのかもしれないが。
「やはり君に任せようかな、ソロネ王」
「こっちは最初からそのつもりで来てますよ」
「ふむ。とはいえタダでくれてやるのもしゃくだな」
「これから地上最強の勇者と闘りあうんだ。ただですむはずがない」
「違いない」
笑いながらエリは御者に馬車を停めさせた。
ここから先は徒歩だ。
「もっとも負けるつもりはさらさらありませんがね。夜は子供たちのために防寒着を縫わなきゃいけませんし、手早く済ませますよ」
「たいした自信だ。どうかお手柔らかに頼むよ」
政務で多忙な聖王は取れる時間にも限りがある。
よって教会訪問への同行を願った際、ついでに済ませてしまおうと持ちかけられたのだ。
――『王の最終試練』を。
時間がないのはアドラも同じ。早期決着はむしろ望むところだ。
確かに実力差は明白。エリからすれば仕事の合間に子供と遊ぶのと同じような感覚なのだろうが……その慢心こそがアドラのつけいる隙となる。
長かったソロネでの闘いもいよいよ大詰め。
道中色々あったが最後の最後は悪魔らしく行くつもりだ。
すなわち――この地上最強の勇者を討ち、ソロネ王の座を簒奪する!




