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第三十三話 バンド撮影

 Fさんは映像関係の仕事をしている。

 インディーズで活動しているという、とあるヴィジュアル系バンドのプロモーションビデオの撮影に携わった。

 ハードコア要素を含んだバンドである。

 ビデオの内容は、トイレの個室でゾンビのような特殊メイクをした10人ほどの俳優が、カメラに向かって絶叫する模様をバンド演奏の合間に挟んでいくというものだった。


「出演してくれた俳優はなかなか好演技でした。でも……」


 各俳優の演技の撮影が終わり、プロモーションビデオに何を入れるかという素材の検討に入ったときに、妙な人物の存在に気づいた。


「あれ、この人……?」


 顔面白塗りで隈取りのようなメイクをしている男性が、注文通りにトイレの個室で叫んでいる。鋲の入ったをジャンパーを着ていて厳つい体つきだ。

 彼の演技自体はいい。ただ、叫んでいる彼の右肩の辺りに長髪の男性らしき影がぬっと現れるのである。

 目元が長い髪で隠れており見えない。上半身しか映っていないが、黒いTシャツを着ているようだった。

 顔つきと首元から、痩せているであろうことがわかった。一言で言うならば、生気が欠けていた。

 厳つい男性に対してこちらが合図し、大声で叫んでもらったところで背後から現れる。

 素材上は大きな声が記録されているが、その痩せた男は驚いたそぶりもない。また、厳つい男性の方も全く痩せた男に気づいた様子はなかった。

 撮影中にもそんな男に気づいたスタッフは誰もいなかった。

 厳つい男性以外の俳優が撮影に紛れたとは考えにくかった。撮影は、1人ずつが叫んでいるシーンを撮っていたはずだからである。


「無言の男が登場すると曲のコンセプトに反するため、没にするしかありませんでした」


 結局問題のシーンが採用されずに、プロモーションビデオは完成した。

 Fさんは痩せた男のことがどうしても気になり、出演してくれた厳つい男性に連絡を取って当時のことを聞いてみようと考えた。

 しかし、それは実現していない。

 くだんの男性は叫ぶシーンを撮影した翌日に、脳梗塞で倒れて現在も意識が戻っていないそうである。

 Fさんは別方向から調べた。撮影場所のトイレについてである。

 結果、このトイレでは数年前に若い男性が首を吊って亡くなっていたことが判明した。

 人間関係の悩み、だそうである。

 映像に登場した痩せた男と関係があるのかは、定かではない。


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