第三十一話 正体不明の標本
フリーターのMさんは古墳発掘のバイトに行ったことがあるという。
某県のH町にある古墳画素の舞台だった。
発掘は地元の大学の文学部が主催だが、彼らは測量や出土物の確認がメインであり実際に地盤を掘っていくのはMさんのような雇われ人員だった。
Mさんは古墳近くは地元というわけではなく、当時の家もそこではなかったため、古墳近くの旅館で寝泊まりしていた。
雨で発掘が休みとなったある日、旅館内をブラブラと歩いていた彼はある物に気づく。
廊下に並べられている標本や剥製である。山で獲れたらしいフクロウやタヌキの剥製がケースに入って並べられていた。
それ自体も若干の興味を引いたが、とりわけMさんが気になったのは、ガラスケースの中の頭蓋骨だった。
「どう見ても人の頭蓋骨に見えたんです。学校にあるような作り物の骨格標本かとも思ったのですが、それにしてはリアルすぎて」
頭蓋骨が置かれていることも衝撃だが、Mさんが驚いたのはその頭蓋骨から生えていたものについてだった。
頭頂部分から上に向かって伸びているもの、それは人の手のように見えた。頭は頭蓋骨といったとおり白骨だが、その手のような部分は皮膚が残っているようだった。
何かを求めるように伸ばされている人の手。爪こそなかったがそれ以外は人の手にしか見えなかった。
他の剥製などにはいつ、どこで入手した物かが書かれた札が貼られていたりしたが、この頭蓋骨に関しては何もなし。そこでMさんは旅館の受付に行って話を聞いた。
「珍しいキノコだと言うのです。しかも頭蓋骨も人間のではなくこの辺りの猿のだと」
釈然としないものを感じたMさんだった。猿の頭蓋骨の大きさではない。ここにはよほど大きい猿がいるとでもいうのだろうか。
しかし、ここで食い下がって他の発掘人員も泊まっている旅館で騒ぎを起こすのはまずいと判断し、それ以上は聞かなかったという。
発掘が終わり解散となってから数年が経ち、Mさんはオカルト系雑誌でこのH町についてのある噂を読んだ。
この付近の山にはいわゆる類人猿が生き残っていて、しばしば人里付近まで降りてきてその姿を目撃されているというのである。
Mさんはあの頭蓋骨はその類人猿のものではないかと考えた。それでも頭蓋骨から生えた人の手のようなものの正体はわからない。
気になってもう一度あの旅館に行くことも考えたが、発掘調査があってから1年後に旅館が潰れ、あった場所も今は空き地になっているという。




