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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第七章 己のあかしはどこにある ~同じ空を見上げるために~
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第91話 親友

「おい、お前ら何してる!!」


 凶器を受け止めた佳果の向こう側に、駆けつけてきた教師と警察らの姿が見える。まさに一転攻勢。校舎から一部始終を見ていた生徒たちは、不良たちのほうを指さして「そいつら、このあいだの事件の関係者です!」「金髪の人は青波くんを守りました!」「はやく捕まえてぇ!!」などと一斉いっせいに言い放った。


 この状況を正確に読み取った大人たちは、取り押さえと保護を分担した。わめく不良二人が制圧されるなか、若い男性教師がひとり佳果たちのほうへ走り寄ってくる。彼は刃物を両手で挟んでいる佳果を見て目をむいた。


「きみ大丈夫かい!? 早く保健室に!」


「問題ねっす。斬られる前に止めたんで」


「だ、ダメだよ! 万一ということもあるから……!」


「ならオレがこいつを保健室につれていく。事情聴取はその後にしてもらうよう、根回ししといてくれると助かる」


「……? きみ、うちのクラスの青波くん……だよね?」


「あ? そうだが、とりあえずどいてくれないか」


「ひっ」


 相変わらず恐ろしい形相ぎょうそうの楓也。普段の優等生ぶりからは想像もつかないような鬼気せまるオーラに、担任教師でさえ尻込みしてしまう。二人は悶着もんちゃくしている現場をすり抜けると、流れるように保健室へ向かった。道中、楓也がぽつりとこぼす。


「……お前、謹慎中のはずだろ。なんでここにいる」


「あいつが家まで来てな。『青波くんが危ないから助けて』だとさ。んなこと言われてシカトできるかっつーの」


「あいつ……? 押垂夕鈴のことか」


「おう」


 謎が謎を呼ぶ。夕鈴がさきほどの場面を見ていたとでもいうのだろうか。だが仮にそうだったとして、時間的にも彼女が佳果の家に行って応援を要請したとは考えづらい。

 ――おそらく何か自分の知らない要素がからんでいるのだろう。しかし楓也にとって、それは今あまり重要なことではなかった。


「……お前の家に来たってことは、彼女は大丈夫なのか? トラウマで閉じこもっていると聞いたが、具体的にはどうなってる」


「あー、別に寝たきりになっているとか、拒食しているとかではねぇから安心しろ。家にいりゃあ精神的にも安定してる。ただ、長く外にいるのが無理ってなだけだ」


「……そうか」


 彼女が四六時中くるしんでいるわけではないと判明し、楓也は胸をなでおろす。しかしその優しさも、怒髪どはつによって相殺そうさいされてしまっている。彼は現在、あまりにもいびつで不安定な状態だ。

 ふと廊下の窓に映る自分を見て、楓也は自覚した。


(オレは……オレを辞めたんだな)


 この自分(・・・・)は、嘘ではなく本心からつよく在ろうとすることで、二度と大切なものを失うまいとまとったよろいだ。夕鈴への気持ちに蓋をせず、かつ彼女へそれを押しつけない在りかた――すなわち己を惑わす負の感情を制御し、正の感情で夕鈴の幸福をねがう在りかたともいえよう。


 そして彼女の幸福とはつまるところ、佳果の存在に他ならない。ならば差し当たり、自分がやるべきは先ほど不良たちが言っていた"上"に対処するために動くことだろうか。そうだ、きっと置き去りにした自分もそれを望んでいたに違いない。


(……もう悲しい思いはさせない)


 独り、鏡のなかを生きる覚悟を決める楓也。

 彼は弱き過去と決別し――。


「……なあ」


「なんだ」


「お前、青波楓也だろ? なんで前に会った時と別人ぶってんだよ?」


「……ぶってるわけじゃねぇ。オレははなからこういう人間だ」


「そりゃ知ってるが」


「……え?」


「……は?」


「ど、どういう意味だ」


「意味もなにも……んん? これもしかして俺が間違ってんのか?」


「わかるように説明しろ」


「いや、お前さ。たしかに前よりはビッとしてるみてぇだけどよ。別に中身はなんも変わってねーじゃんか」


 そう言って、佳果はまったくおくすることなく楓也の瞳を覗き込む。


「あんとき俺にぜんぶ託してくれたお前の心と……さっきあいつのためにおとこを見せたお前の心、どっちだって同じもんだろ?」


「そんなこと――」


「あいつ言ってたぜ。お前といると誰よりも"落ち着く"んだと。……実際に話してみて、ようやくその意味がわかったわ。お前、すげーいいやつだもんな」


 ニカっと笑う佳果。

 彼はこちらに対して毛ほども恐怖心を抱いていない。それどころか、まるでこれが自然体だと言わんばかりに肯定してくるではないか。


「庭で大事に植物育てたり、あいつの話相手はなしあいてになってくれたりしてたの……よく知ってるぜ。ありゃあ、俺には絶対できねぇ芸当だ」


「…………」


「俺さ、あいつに近づくといつも迷惑ばっかかけちまってよ。なのにお前はすげぇよな、あいつ最近まであんな笑うことなかったんだぞ? それもこれも、ぜんぶお前の心が優しかったおかげだ。マジでサンキューな」


 屈託なく、嬉しそうな顔で語る佳果。

 その瞳の奥には、黒い感情など欠片かけらも入っていない。


 刹那せつな、楓也は全身の細胞が生まれ変わる心地がした。

 ――彼にとってつよく在ることなど、特別ではなかったのだ。


 ああ、そうか。

 オレも、ぼくも、彼と同じ場所に立っていて。

 同じ幸福をねがう、同じ心を持っていたんだね。

 

「……ほんと、君にはかないそうにないや」


「? よくわからねーけど、今日から俺とお前はダチだ。よろしくな、楓也」

お読みいただきありがとうございます。

ちょっと難解になってしまったかもしれません。

次回、冥土の湖畔に戻ります。


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