表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第四章 雷雨をこえて架かる虹 ~あまねく愛のまぼろし~
52/355

第44話 しあわせがある場所

 えんもたけなわ、ラムスの夜がふけてゆく。この領域は外の世界と違って日が沈むらしく、辺りはかなり暗い。キャンプファイヤーのオレンジ色に照らされる人々が、美酒でほおを染めている。


 ヴェリスやシムルはさすがに疲れたのだろう、地べたで大の字になって寝ていた。それを見守る佳果は、サブリナの部隊員らと談笑中だ。楓也は既に洞窟へ向かっており、アーリアはほろ酔いで村人たちと交流を深めていた。隣に座っているシムルの母――ナノが、彼女へお酌しながら尋ねた。


「アーリアさんは外の、また外の世界から来たんですか?」


「ええ、もぷ太ちゃんや佳果さんもそうですわね」


「すごいです! わたしどもはずっとここで暮らしたきたので、その世界が一体どんなところなのか、想像もつきません……」


「ふふっ、暮らしは少し違うかもしれませんが、根本は同じですわ。悪い人もいれば、この村のみなさんのようにあたたかい人たちもいます。混沌のなかで、美しい花が咲いては散りゆく……その繰り返しです」


「……それは、どこへ行っても同じなのですね。アーリアさん、どうして悪人はやってくるのでしょう。他者から奪っても、幸せになんてなれないはずなのに」


「そうですわね……彼らの幸せと、わたくしたちの願う幸せが、まったく別のところにあるからでしょうか」


「別のところ、ですか?」


「はい。幸せは普遍ふへん的なものであると同時に、不確かで様々なかたちをしています。本質は一つですが、そこへ至るまでの通過点は無数にあって……彼らはまだ、遠い場所からそれを探しているんですの。だから目に見える幸せを見つけると、自分が今どのあたりにいるのか確かめるために、叩いたり、壊したりする」


「本質……」


「――うふふ、ちょっと飲みすぎちゃったかしら。風に当たってまいります」


「あ、わかりました。後でまたお話してくださいね!」


「もちろんですわ。……ナノさん。シムルくんを想うその気持ち、これからも大切にしてください」


「? ……はい!」


 ふらりと立ち去り、山のほうへ向かうアーリア。ひとけのないふもとにある大岩に座り、ふうと一息ついた。火照ほてった身体に、涼しい風が吹き抜けてゆく。そこにはほんさかきのような香りが混じっていた。


「気持ちいい風……素敵な夜ですわね。アイちゃん」


「ええ、星がとてもきれいです」



 その頃、楓也はクイスの潜伏していた洞窟に到着し、中であの男を待っていた。


「やあ、もぷ太くん。直接会うのはフリゴ以来だったかな」


 背後から声を掛けられ振り返ると、黒ずくめの男――情報屋が姿を現した。


「あれ以降、こちらからの連絡をこばんでいたあなたが、どういう了見ですか」


「フフフ、なんだと思うかね?」


「……今回の件も、クイスの件も。あなたは度々、ぼくらの前に現れては助力めいたことをしていた。結果だけ見れば、そのおかげで前に進めた部分があるのは確かですし、感謝もしています。だけど……」


「…………」


「あなたは強者なのに! そのちからをどうしてそんな遠回しに使うんですか!? 阿岸君のときだって、直接助けてくれたらあんなことには……シムルには人殺しをそそのかしたと聞きましたし、あなたは一体何が……何がしたいんですか!?」


 苦しそうな顔で、楓也が溜め込んでいたものを一気に吐き出す。情報屋はおもむろにコツコツと歩き、あの日、佳果が倒れていた場所で立ち止まった。


「クイスの件は、すまなかった」


「!?」


「私も、ダクシスの心変わりを把握できていなかったんだ。YOSHIKAがあそこまでやられる未来(・・)は見えていなかった。あれを看過してしまったのは、間違いなく私の落ち度だよ」


「っ……つまり、あなたすら出し抜いた人がいるってことですか?」


「さすがはもぷ太くん。すでに目星もついているようだね」


「…………」


「それはさておき、せめてもの詫びと言ってはなんだけども。まずはこれでチャラにしてくれないかなぁ」


「?」


 情報屋が手をかざすと、空間に過去のビジョンが映し出される。そこには拷問される直前の佳果とその周囲の状況が、ホログラムのように再現されていた。透ける佳果の身体に重なると、情報屋は彼の存在に成り代わる。


「追体験を行使する」


「えっ、ちょっと……!?」


「ぐっ……うぐぁああ!!」


 目の前で、情報屋がしいたげられてゆく。彼はこれまで聞いたことのないような声で叫び、倒れ、まとっていた漆黒しっこくころもを振り乱した。フードから、シルバーアッシュの長髪と宇宙のような瞳をした素顔があらわになる。


「!! やめてください!! こんなの、誰も望んでいない!!」


「案ずることはないよ……私のMNDは10で、ENEの値もYOSHIKAより優れている。この二つの関係性は、君たちのおかげで解明済みだ。耐えきれるから、そこで見ているといい」


「ば、ばかなことを!!」


 血相を変えて止めようとするが、楓也の手は彼をすり抜けてしまい、映像も止まる気配がない。このような仕打ち、されるのも見せられるのも拷問だ。


「くそっ……あなたが苦しんだところで何が変わるってんですか!!」


「♯∽Δ�§¶が清算される。もっとも、このようなやり方では意味もないだろうがね……ぐぉおああ!」


「何を言って……」


 その後、追体験が終わるまで楓也はなす術もなく佇んでいた。本人が断言したとおり、彼は最後まで壊れることなく耐えきってみせた。


「……終わったようだ」


 実体を取り戻した情報屋に、楓也がつかみかかる。そうして拳を振り上げると、握っていた回復薬を振りまいて彼を急速に癒やしていった。


「……こんな真似、もう絶対にしないでくださいよ!」


「ああ。今後は出し抜かれないよう注意するさ」


「そうじゃなくて! ……もういいです!」


 楓也が胸ぐらを放すと、情報屋は立ち上がってフードをかぶり直した。そうして服の汚れを払うと、咳払せきばらいをして祭壇の残骸まで行き、座った。


「さて、もぷ太くん。"どうしてちからを遠回しに使うか"だったよね。まったく、その質問をしてきたのは君で二人目だ」


「え……?」


「手始めに、そこから話そう」

佳果はサブリナの部隊たちと歓談中です。


※お読みいただき、ありがとうございます!

 もし続きを読んでみようかな~と思いましたら

 ブックマーク、または下の★マークを1つでも

 押していただけますとたいへん励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ