第21話 ふわふわ
「ヴェリス! いまどこ!?」
チャットウィンドウのワイプ越しに、楓也が血相を変えて連絡をよこした。独りで心細かったヴェリスは、少し表情を明るくして答える。
「えっと、やどや……? ってところにいるよ」
「宿屋……場所はフリゴかな」
「たしか、そんな感じ」
「OK。今そっちに向かっているから、そのままもう少しだけ待っててね」
その後、宿泊者の権限をヴェリスからパーティへと移譲し、無事に合流を果たした二人。部屋で詳しい事情について話し合っていると、途中でアーリアもログインし、すっ飛んできた。
「ヴェリスちゃん、無事ですの!?」
「ん、へいき」
ほっとした顔で、彼女を抱きしめるアーリア。
これで三人そろったものの、問題は山積みだ。あまり悠長にしている時間はないが、まずはどう立ち回るかを決めるため、現状について正確にとらえる必要がある。アーリアはヴェリスにひっついたまま、話し合いに参加した。
「それにしても、まさかあの情報屋の方が手を貸してくださるなんて」
「ぼくもびっくりしています。ヴェリス、変なことされなかった?」
「助けてくれただけ。楓也と、アーリアと喋ったあとすぐいなくなっちゃった」
「そっか、ならよかった……ってヴェリス、今ぼくたちの名前を……?」
「ん、これからはそう呼ぶから」
「まあ嬉しい! 本来なら喜びの舞を披露したいところですが……今は佳果さんの安否が心配ですわね」
「はい。――相手は謎の黒服集団という話です。情報屋によると、一線は越えない分別があるようですが……アーリアさんは誰か心当たりがありますか?」
「いえ、残念ながらございませんわね……佳果さんはどうして、そのような得体の知れない相手に狙われたのでしょう」
「それは……わたしが、あそこに、行きたいって、言ったから……」
半べそをかくヴェリス。ひどくセンチメンタルになっているのを察した楓也は、彼女の頭をなでて、落ち着いた声音で諭した。
「ヴェリス、それは違うよ。阿岸君はああ見えて、楽しいことが大好きなんだ。遊園地に行ったのは、そこで過ごす君との時間が、きっと楽しいものになるって心で感じていたからだと思うよ」
「……わたしとの時間が……?」
「うん。もちろん、ぼくたちだってヴェリスがいるだけで楽しいけどね。これから一緒に色んなものを見たり感じたりできると思うと、楽しみで仕方がないや」
「ええ、あなたがいるだけで、わたくしたちはとってもワクワクできますのよ? ……ヴェリスちゃんはどうかしら」
「……わたしも、みんなといると、なんだか空を飛んでるような、ふわふわした気持ちになる」
「へへ、でしょ? だから、その気持ちは否定しなくていいんだ。阿岸君もヴェリスも、同じようにワクワクして遊園地に行っただけなんだから。悪いのはその黒服のやつらさ」
「……そう、なんだ……」
ヴェリスは眉をハの字にして、困ったように笑った。
ログアウト前には決して見せることのなかった、優しい表情がそこにある。
楓也とアーリアは目を見合わせてうなずいた。
これはおそらく、彼がそばにいたから起きた変化に違いない。
――彼を助けなければ。
そう強く再認識した二人は、さらに話を進めてゆく。
「それで、阿岸君が狙われていた理由なんですけど。一つ思い当たる節があります」
「まあ、なんですの?」
「"太陽の雫"です」
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