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最後のメイドと万年筆  作者: ルト
第1章 
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第24話 警察署

 私はご主人様と共に、初めて警察署へと足を踏み入れました。


 悪いことをしたわけではありません。

 私とご主人様は、一緒になってアグニさんから虐待されていた、雑役女中のプロキオンさんを助けました。褒められることはあっても、警察に捕まるようなことはしていません。むしろ捕まったのは、アグニさんです。


 どうして警察署に行かないといけないのか分かりませんでしたが、ご主人様が教えてくれました。


「第一発見者でもあるから、オレたちが証人として警察に証言しないといけない」

「証人とは、何ですか?」

「プロキオンが虐待されていたことを、立証する人だ。オレとマリアは虐待されていたという証拠を押さえた。そのことを警察に話さないと、アグニ氏の虐待を証明できないんだ。探偵のベテルギウスに頼んで用意してもらった写真と、オレたちの証言。その2つが合わさって、より有力な証拠になるんだ。オレたちの言葉で、プロキオンのような使用人を二度と出さないようにできるかもしれない」


 私はご主人様の言葉に、納得しました。



 警察署に入った私とご主人様は、すぐに応接スペースへと案内されました。

 応接スペースで座って待っていますと、警察の制服を着た人が2人と、スーツを着た人がやってきました。


 制服を着ている人はすぐに警察官だと分かりましたが、スーツ姿の人はどなたでしょうか?


 私がそんなことを考えていますと、スーツ姿の人がジャケットの下に着ているベストを見せてきました。

 ベストの左胸のあたりに、制服を着ている人と同じ星形のバッジが輝いていました。

 そのバッヂが何を意味しているのか、私も知っています。


「初めまして。刑事をしているアルファードというものです」


 刑事と自己紹介をした、アルファードという狼耳の男性がそう云ってジャケットを戻します。

 刑事という言葉は、私も聞いたことがありました。制服の警察官とは違って、事件の現場に入って捜査をする、警察の中でも位の高い人です。


「代書人のシリウスです。こちらは、私のメイドのマリアです」

「よ、よろしくお願いいたします」


 私はご主人様から紹介され、緊張しながら刑事さんに挨拶しました。


「よろしく。それでは早速ですが、アグニ氏の家で起きたこと、詳細にお話願えますでしょうか?」


 刑事さんは懐からメモ帳と万年筆を取り出しました。


「はい。私とマリアが見たこと全てを、お話しします」


 ご主人様の言葉に、私も頷きました。

 隠すようなことなんて、何一つとしてないのですから。



 そして応接スペースで、私とご主人様は、刑事さんを相手に事情聴取を受けました。




 事情聴取が終わりを告げる時が、やってきました。


「それでは、以上にて事情聴取を終了します」


 刑事のアルファードさんがメモ帳を閉じ、事情聴取が終わりを迎えました。


「ありがとうございました。逮捕と捜査へのご協力を感謝します」


 アルファードさんがそう云って、座ったまま私とご主人様に頭を下げました。

 しかし、私はどうしても聞きたいことがありました。


「あの、刑事さん……」

「はい。何でしょうか?」


 緊張していましたが、これだけは聞かないと帰れないと思った質問を、私は口に出しました。


「プロキオンさんは、どうなりましたか!?」


 私はずっと、プロキオンさんのことが心配で堪りませんでした。

 使用人保護団体のシェルターに送られると、ご主人様からは聞きました。


 でも、それでも不安でいっぱいでした。


 私と同じメイドのプロキオンさんは、これからどうなってしまうのでしょうか。


「現在は、使用人保護団体に身柄を引き渡しました」


 アルファードさんは、穏やかな声でそう云いました。


「お気の毒ですが、心に傷を負っているそうです。現在は無理に聞き込みをすることなく、身体と心のケアを最優先にしているそうですよ」

「そうですか……ありがとうございます!」

「どういたしまして。さて、お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。もうお帰り頂いて結構です。何かありましたら、こちらからご連絡させて頂きます」


 アルファードさんがそう云いますと、ご主人様がイスから立ち上がりました。

 わたしもそれに続くように立ち上がり、ご主人様の後に続きます。


 警察署を出てから時計を見ますと、お昼前でした。

 ずいぶんと長いこと警察署に居たような気がしますが、あまり時間が経っていなかったことに、私は驚くことしかできませんでした。


「ご主人様……これからどうしましょうか?」

「とりあえず、家に帰ろう。ずっと飲み物を飲んでいないから、喉がカラカラだ」

「……はいっ!」


 私はご主人様の言葉に、そう応えます。

 事務所に戻りましたら、すぐに冷たい飲み物を用意します。そしてご主人様が飲み物を楽しんでいる間に、お昼ごはんの準備です。私も、もうお腹が空いてきました。

 きっと、ご主人様も喜んでくれるはずです。


 心なしかウキウキしながら、私はご主人様と事務所に向かって歩いていきました。




 その日の夜のことでした。


「……あっ!」


 夕食後、明日の朝食の準備をしていて、私はあることに気がつきました。

 朝食に必要な卵が、1つも残っていません!


 私は思い出しました。

 夕方に買い物に行きましたが、卵だけを買い忘れてしまったのです。


 これはとても重大なミスです。

 ご主人様は毎朝、朝食に卵料理を必ず召し上がられます。たとえ旅行中であったとしても、それを欠かしたことは一度だってありません。


 急いで時計を見ますと、時刻は8時を過ぎたところでした。

 ほとんどの商店は閉まっているかもしれませんが、世の中には夜の11時ごろまで開いているお店もあります。

 そういったお店に行けば、まだ卵が手に入るかもしれません。


「ご主人様、私、今から卵を買いに行ってきます!」


 私はご主人様にそう告げましたが、ご主人様は驚いた様子でした。


「マリア、もう商店は閉まっているはずだ。それに、今日はもう遅い。明日にしなさい」

「ご主人様、申し訳ございませんが、卵を切らしてしまいました。このままでは朝食に卵料理をお出しできません。今ならまだ、開いているお店があるかもしれません。すぐに戻ってきますから……」

「いいよいいよ。朝食に卵が無かったとしても、そんなに困ることじゃない。明日でいいよ」


 ご主人様はそう仰ってくださいましたが、それでは私の気が治まりません。

 それにご主人様を、朝食に卵料理が無いことでガッカリさせるようなことだけは、私のプライドが許せませんでした。



 私はご主人様が止めるのも聞かずに、買い物かごと財布を手に、夜の街へと飛び出してしまいました。


 今から思えば、ここでご主人様の云うことに、素直に従っていれば良かったです。

 まさか、後であんなことになるなんて、思ってもいませんでした。




 ほとんどの商店が閉まっていましたが、あちこち歩き回って、私はようやく夜の11時までやっているお店を見つけました。

 お目当ての卵も置いてありました。

 安心した私は、卵を購入してからお店を出ました。

 これで明日のご主人様の朝食に、卵料理をお出しすることができます。


 卵を購入するまで、いくつもの商店をはしごしました。

 当然、夜の8時過ぎに開いているお店はほとんどなく、あっても卵は置いていませんでした。


 でも、諦めるようなことは考えませんでした。

 ご主人様の朝食に卵料理をお出しすることは、私の使命です!

 何が何でも、卵を購入しないといけません。


 そしてようやく卵を見つけて手に入れた時の感動は、ひとしおでした。

 今日の最重要項目を、やっと終えられました。


「さてと……あれ?」


 お店を出た瞬間、私は目を疑いました。


 全く知らない場所が、私の目の前に広がっています。

 夜だから分かりにくいわけではありません。


 卵を探していくつものお店をはしごしているうちに、いつしか私は知らない場所まで来てしまいました。


 知らない場所で独りぼっちになってしまいました。

 そんな現実に気づかされますと、私は突然世界から取り残されたように感じて寂しくなってきました。


「……ご主人様」


 どんなときにも頼りになるご主人様も、今はいません。

 こんなことになるなら、ご主人様のお言葉に従っておくべきでした。



 ご主人様は、卵料理が無くてもいいと仰っていたのです!!



 でも、私は自分の気持ちが抑えられなくて、ご主人様の言葉を振り切って卵を買いに行ってしまいました。

 その時の選択の結果が、今といっても差し支えないでしょう。


 なんて私はバカなんでしょう。

 どうして自分よりもご主人様を優先できないのでしょう。


 そんなことを考えながら、私は夜の街を彷徨い続けていました。




 私は夜の街を歩き続け、見覚えのある建物を見つけました。


「あれは……!」


 私の中から心細さが少しだけ消え、私は駆け足になって建物へと近づいていきます。



 そこは、午前中にご主人様と事情聴取を受けた、警察署でした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ご意見、評価、誤字脱字指摘等、お待ちしております!

次回更新は、8月27日の21時を予定しております。

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