相性最悪な教官(1段階 技能教習7)
幸せな気持になれば、そのすぐ後にどん底に突き落とされる。僕の人生は大体そうだった。希望の光を見つけ、走り出した途端足場が崩れるの繰り返し。だから僕はいつしか自分に良いことがあった後、自分に悪いことが降りかからないと、不安すら覚えるようになった。しかし、今回は不幸を楽しめるほどの余力は残っていなかった。文字通りどん底へと落ちていくことになる。
技能教習7回目。今回も狭路走行の練習。教習車まで移動する際、教官X(以降『X』とする)に狭路で縁石に車が乗り上げた時はどうするかを試すような態度で訊かれる。その辺は前回の教習と予習でバッチリだったので、そつなく答えられたが、僕にはXの口調からこちらを見下しているような気がした。
教習も7回目にもなれば、教官からの冷めた視線も慣れてくる。そもそも技能教習を受けていて、感じの良い教官になど会ったことがなかった。
なぁに、いつものことだ。自分は運転にだけ集中すれば良い。
つまらないことを気にしていても仕方ない。そう割り切ることにしたのだが、2時限目で疲労が出てきたのか、つい先程まですいすい通れた狭路走行が上手くいかない。後輪が縁石に乗り上げても、タイヤがぶつかってしまったくらいにしか思わず、前進を続けて補助ブレーキを踏まれる。
「なんで止まらないのー?」
小馬鹿にした言い方で注意され、すみませんと謝る。
狭路走行始めるまで縁石に乗り上げたことがなかったので、いまいち乗り上げた時の感覚がわからなかっただけなのだが、それを言ってもまた馬鹿にされるだけだと思ったので黙っていた。『てかなんで乗り上げたことに気付いている前提なんだよ、この人』とか思いながら車を後退させ、再度断続クラッチで前進させるも、途中で縁石に乗り上げてしまう。
「よく乗り上げるねー」
すかさず飛んでくる嫌味。
なにこいつ、すげえ萎える。
既に免許を取って毎日毎日朝昼晩運転してる人間には所内の狭路くらい目を瞑っていても通れるのかもしれない。しかし、まだ僕は数回しか車を運転したことがない。その状態でなぜいきなり完璧を求められないといけないのだろうか。マニュアルだから車好きだと思われたのか?
なんにせよ、慣れない断続クラッチに前回からの疲労、それに加えて横からの嫌味で注意が逸れ、ミスを繰り返してしまう。
失敗をする度に嫌味を言われ、気持もどんどん冷めていく。
もう早く終われば良いのに。
投げやりになってからは普段できているところまで上手くいかなくなり『初歩的なこともできないのか』とまで言われる。
いよいよ面倒になって返事をしないで黙っていると『話もしたくないと。そういうこと?』とこれまた面倒な絡みをしてくる。
僕もいい歳なので『金払ってきてるんだからお客様扱いしろ』だなんて思わない。けれど、教習生を萎えさせるのが教官の仕事なのだろうか(人によってはXが良いという人もいるかもしれないが僕には合わなかった)。
結局最後までボロクソに言われ、この日の教習は終了。この出来事が原因で運転する気が失せ、しばらく僕は教習所をサボることになる。