遅れてしまった卒業式
2017年9月某日。6年半通った大学の卒業式が行われた。
式への参加は自由だったので、行かないという選択肢もあったが、趣味で書いている小説のネタになると思って出席することにした。
当日、会場に来てみると、思っていたより卒業生の数が多くて驚く。普段の授業では数十人しか見かけないので、五十人くらいしかいないと思っていた。
予定の時刻になって式が始まると、学部ごとに一人ずつ卒業証書が渡されていく。自分の番が来るのを待っている間、自然と目に涙が溢れた。
入学した頃からずっと辞めたいと思っていた。学校は駅から遠く、職員は不親切で歳の近い人はどこにもいない。
最悪な場所。そんな凝り固まった考えが変わり始めたのは卒業を間近に控えてからだった。
他の大学に通ったことがないから分からないが、少なくとも僕の通っていた大学の学生はみんな目的を持って勉強しているように見えた。そこにただなんとなく通っているような人間は僕を除けばいないように思えた。それに気付いてから周りを見る目が変わった。
僕もみんなと同じように学ぶ姿勢を捨てずに生きていきたい。いつの間にか同じ学校に通う学生たちに憧憬を抱いていた。しかし、気付くのが遅かった。憧れを抱く人たちとはもう、共に学ぶ機会はない。
せめて、今見ているこの光景だけでも忘れまい。
僕は涙を拭い、目に映る全てのものを焼き付けるように努めて、来たる自分の番を待つ。そして、いよいよ自分の番。大きな声で返事をし、卒業証書を受け取る。
長い長い学生生活が終わりを迎えた。入学してから2年半、色々あってほとんど通うことができなかった。普通の人より長く大学生でいることに対して、バイト先で露骨に見下されることもあった。でも、僕は少しも恥じてない。2年半は僕にとって必要な期間だったし、遊び呆けていた訳ではない。何不自由ない生活を送ってきて、自分には不幸が降りかかって来ないと信じ切っている人間には到底理解できないのだろうが。
斯して、式が終わった後、卒業証明書を貰う為、窓口が開くのをロビーでスマホいじりながら待っていると、同じくこの日卒業のおっちゃんに声を掛けられる。
おっちゃんは折角の卒業式なので、卒業生で集まって話がしたいと思っていたらしい。しかし、みんなそそくさと帰ってしまい、誰か残っている人を捜してロビーまで来たようだ。
残念ながらロビーに卒業生は僕しかいなかったが、良い機会なので二人で喫茶店で話をすることに。
店ではおっちゃんから色んな話を聞いた。その全てをここに記載するのは量が多過ぎるし、無礼な気がするので詳述はしない。それでも一つだけ軽く紹介するのであれば、僕はおっちゃんが言っていた『人生は真っ直ぐの道だけではない』って話が心に響いた。みんなそれぞれ道は違っても辿り着く場所は同じなんだと。
その話を聞いて僕は自分が今直面している問題に当てはめて考えた。
教習所は早い人なら二ヶ月で卒業する。僕は入校して二ヶ月経とうとしている中、未だ全体の半分も進んでいない。でも、自分のペースで進めば良いじゃないか。そう思った。それは逃げではないし、無理することが頑張るってことではない。
前に誰よりも信頼していた親友も言っていた。『チハルは考えすぎだ』と。
僕はこの日、卒業式に出て良かったと思った。色んな発見があったし、色んなものを学ぶことができたから。




