2.市街地03
ニアと共に、鍛冶屋にやって来た。
そこの主人とおぼしき男性が出てきた。
「こんにちは、ニアちゃん、今日はどうしたんだい?」
「こんにちは。一つお願いがありまして。こちらはユウさんで、一緒に兄を探してくれることになったんです」
「はじめまして、ユウさん。僕はクロードといいます。ニアちゃんをよろしく」
「はじめまして、クロードさん。責任をもってお兄さんのもとに連れていきますよ」
ユウの兄の友人だと聞いて、恐ろしい人を想像していたが、物腰の柔らかい丁寧な人で安心した。
「それは良かった。それで、お願いとはなんだい?」
「鍛冶場を使わせてほしいんです。もしよければやり方も説明してくれませんか」
「あぁ、ニアちゃんの連れとあっては断れないな。いいだろう。奥においで」
クロードについて店の奥にいくと。そこには大きな溶鉱炉があり、そのわきには未加工の鉱石などがところせましと置いてあった。
「それで、ユウさんは何を作ってみたいんだい?」
「ちょっと、指輪の作り方を思い付いたので、試してみたいんだ」
「指輪?失礼だが君に作るのに足りる魔力があるとは思えない。危ないからやめた方がいいよ」
「試すだけでも危険ですか?」
「あぁ、この床の穴を見てごらん。これは僕が失敗したときに開けたものだ。魔力をコントロールしてたはずなのにこうなったんだ」
クロードの指差した床を見ると30センチ四方位だろうか、床がぽっかりと無くなっている。そこから見える地面も綺麗に抉れている。そう、その空間だけどこかに消えていってしまったような感じなのだ。
「うわっ、こんなになるんですか…」
「そうだよ、幸い人的な被害は出なかったけどね。戒めのためにそのままにしているんだ」
悠は目の当たりにした惨状に、少し考え込むそぶりを見せた。ニアも悠が無茶をしないかと、心配そうな目で見ている。
「分かりました、それではコップを作ってみたいです」
「コップかい?まあ、安全だからいいけど…」
指輪とコップの間に関連が見いだせず、クロードは戸惑った表情を浮かべていた。しかし、悠の希望ということなので、説明を始めることにした。
「これが原料の鉱石だよ。普通は強度や柔軟性を高めるために何種類か混合する。今日は一般的な配合でやってみよう」
「はい」
「最初はどの金属製品も作り方は一緒だ。この溶鉱炉に入れて空気や不純物を除き純度を高めるんだ」
クロードがやって見せてくれる。溶鉱炉に鉱石をいれると、呪文を唱え火力を調節する。
「この温度調整が難しくてね、これができたら一人前になれるんだ。やってみるかい?」
「いえ、俺には難し過ぎますので、クロードさんお願いします」
間違いなく自分がやったら鉱石を台無しにする、そうおもわせる熟練の技をクロードは見せていた。そもそも、悠には魔力をうまくコントロールして温度調整するなど、到底無理であった。
「ほらこれで、鉱石が精製されたよ。後は冷めないうちに形を整えて…」
クロードさんの手のなかで金属は魔法のように形を変えた。いや、魔法であった。呪文を唱え魔力を込めており、手元に光が宿っている。
あっという間にコップの形になった。それだけでなく、猫のレリーフもついている。
「おぉ、すごい!」
「ねこちゃん、可愛いですね」
「まあ、こんなものかな?ユウさんもやってごらん」
とりあえず悠は、クロードに渡された金属の塊を何とかコップの形にしようと苦闘している。
前に図形を作ったように、定数関数と一次関数を組み合わせて先の開いたLの字を回転させてもそれらしいものはできるのだが、今は手の内を隠しておきたい。
「フォーメイト、望みし形に移り変われ!」
仕方がないので、少しずつ手探りで引き伸ばしたり縮めたりを繰り返して、形を変えていく。
「こんなものかな?」
優に30分はたった頃、ある程度の形に落ち着いたコップが出来上がった。クロードのものと比べると差は歴然で、悠のはかろうじてコップと呼べるなにかである。もちろんレリーフをつける余裕などない。
「少し不格好だけど、初めてにしては上手だね」
「ありがとうございます。でも、ここからが本番なんです」
まだ、手を加えようとする悠。
「クロードさん、ちょっとあの鉄の棒貸してください」
「いいけど、何に使うんだい?」
「少し見ててください」
悠は鉄の棒を手に取ると、コップの底に突き刺した。悠の作り方が悪かったのだろうか、底が薄い部分があり貫通してしまった。
「ユウさん、穴が開いたらコップとして使えないんじゃないかい?」
「まあ、コップとしてなら使えませんね」
悠は作業を再開した。
「ディフォーム、願いし形に変形せよ!」
今度はクロードの止める間もなく、一気に指輪の形へと変形させた。
「ユウさん、危ない!」
まるで爆発物のように、悠の作った指輪から距離をとるクロードとニア。
しばらく見守るが指輪にはなんの変化も起こらない。
爆発する気配がないので、恐る恐るクロードが触れてみた。
「すごい、本当に指輪になっている。どうやって魔力をコントロールしたのか教えてほしい」
「いいですけど、説明すると長くなりますよ。できたら紙とペンが欲しいですね」
「それでは、うちに来ないかい?昼食もつけよう」
こうして、悠とニアはクロードに付いて彼の家に行くことになった。