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第9話(5歳) 勇者という夢?

【キャラ紹介】

・ウィル:タイムリープで記憶保持できないタイプの主人公。最近デジャブに悩まされている。

・レッド:ウィルのライバル的存在。正義感が強い。

・ナタ:魔法使いとして一緒に旅をする。後衛職にしては戦闘時に前に出てきがち。

【5歳】


「え…………?」


 目の前に現れた妹のリリをまじまじと見つめた。


「どうしたの? 不思議そうな顔して」

 リリが首を傾げながら聞いてきた。


 ……いや、別におかしなことはないはずだ。いつもみたいに妹のリリが僕を起こしに来ただけだ。


 だけど、何でだろう? おかしなことが起こっている気がしてならない。何か忘れてはいけないことを忘れているような。


 そういえば何か嫌な夢をみていた気がする。なにかすごい長い夢だった。僕が大人になって死ぬまでをみていたような……。


 でも何をしていたか思い出せない。

 ……まあいっか、夢だしね。

 

「……なんでもない。ちょっと嫌な夢を見て……」

「怖い夢を見たんだね。大丈夫? 勇者さん迎えに行けそう?」

「うん。もう大丈夫だから起きるよ」


 僕はそう言うと、ベッドから起き上がった。

 


 今日は特別な日だ。僕たちの住む村――ルート村に魔王を討伐した勇者さんがやってくる日だ。


 朝の支度を終えた僕、ウィルは妹のリリと共に家を出ると村の入口で勇者さんを待っていた。

 

「勇者さん早く来ないかなぁ」

 僕は言った。


「お兄ちゃん、すごく楽しみにしてたもんね」

「うん! だってすっごくかっこいいんだよ!」

「かっこいいってお兄ちゃん会ったことないでしょ! ……ってあれ? お兄ちゃんあれなに?」


 リリが正面を指さした。


 勇者さんが来たのかと思って僕も見ると、そこにいたのは勇者さんではなかった。


 僕達からすこし離れた正面に代わりにいたのは魔族だった。体型は太った子供ぐらい、肌の色が緑色の魔族がニタニタとした表情でこっちを見ている。


「魔族か……!」

 僕はそっちを睨みつけながら言った。


「魔族? 魔王の家来だった?」

「うん、でも魔王が倒されてからはほとんどいなくなったってお父さんが言ってたのに……」


 僕はキョロキョロと周りを見渡した。何か武器になるようなものは落ちてないだろうか?

 

「お兄ちゃん怖いよ……どうしよう……」

「とりあえず何か……身を守るものを……」


 僕達がまごまごしていると、


「ケケケケッ!」


 魔族がそんな不気味な声を上げながら、こちらに向かって走り出した。


「「うわああ!」」

 

「させるか!!」


 次の瞬間、目の前を青い光のようなものがものすごいスピードで横切った。


 それは魔法でできた水の塊だったらしい。

 とてつもない速さで飛んできたそれは、魔族に直撃した。


「ギャアアア!」


 魔族に当たると同時に水球が割れた。魔族は弾かれるように吹っ飛ぶと、近くの森の方に落ちていった。

 

「え、え……?」


 僕は何があったかわからず、水の魔法が飛んできた方を見た。


「危なかったね」


 そう言ってこちらに近づきながら、金色の鎧をきたお兄さんが笑っていた。

 その人こそが僕たちが待っていた勇者さんだった。



 ◯


 

「初めまして。ルート村の皆さん」


 そう言って勇者さんはにこやかに笑った。


 あの後、僕達は勇者さんを連れて村の広場に移動した。

 村の広場には勇者さんを一目見ようと、たくさんの人が集まっていた。


「わざわざこんな村まで来てくださり、ありがとうございます。しかも子供達まで救って下さるとは」

 そう言って村長が勇者さんに頭を下げた。


「いえいえ、そんなお礼を言われるようなことではありませんよ。いつ次の魔王が現れるか分かりませんから。世界に異変がないか見て回るのは勇者の役目です」


「なんと素晴らしい!」「さすが勇者様!」


 勇者さんに向かって大きな拍手が起こった。


「そんな褒められると照れてしまいます。それに世界中を回っているのはそれだけの理由ではないのです」


 そう言うと勇者さんは周りを見渡した。そしてこちらの方を見るとにっこり笑った。


「いつか俺が歳をとって魔王を倒せなくなった時に、俺の代わりに魔王を倒してくれるような勇者が現れたら良いなーと思ってまして。各地の子供達に冒険の話をしたり、戦い方を教えたりするのも目的なのですよ」


 そう言って勇者さんは僕の方を見ると手招きした。

 

「え? 僕?」


 僕が思わずそう言うと、勇者さんは頷いた。


「そう、君だ。こっちにおいで。勇者の剣って、触ってみたくない?」

「……! 触らせて!」


 僕は勇者さんの元へ駆け寄った。


「そんなに急がなくても大丈夫。ほら正面から握って」


 僕は勇者の剣をぎゅっと握りしめた。勇者さんはそのまま僕の背面に回った。後ろから僕が剣を持つのを支えるような体勢だった。


「そうそう。そんな感じで剣を振るんだ。上手いじゃないか」


 勇者さんに支えられながら、僕は何度も剣を上から下に振り下ろした。


「すごい、その調子だ! じゃあ次は魔法を撃ってみよう」


「魔法?」


 僕の持つ剣がじわりと熱くなったような感覚があった。次の瞬間には目の前に小さな火柱が現れた。それは一瞬大きく吹き上がるとやがて消えた。


「すごい! 火がついた!」

 周りで見ていた村の人々から歓声が上がった。


「すごいでしょう? 魔法は最初は難しいですが、練習すればもっと大きな炎だって起こせますよ!」

 勇者さんは人々に向かって語りかけた。

 

「とは言いつつ、俺も昔は魔法は全然使えなかったんだ」

 勇者さんは僕だけに聞こえるように言った。


「練習したの?」

「そう。たくさん修行して、気づいたらこんなにも使いこなせるようになったよ」


 勇者さんは剣を思いきり上に振り上げた。

 すると巨大な水の柱が目の前に現れて、大きく渦巻きを作り上げるとあたり一面に水飛沫を撒き散らして消えた。不思議と一番渦潮の近くのいたはずの僕も誰も濡れていなかった。

 

「すごい……!」


 思わず声が漏れた。


「君もいっぱい練習したら、きっとこうなれる」

「本当? 本当に勇者さんみたいにカッコいいヒーローになれる?」

 僕は疑うように勇者さんを見つめて言った。


「ああ、本当だ。君なら絶対になれるさ!」


「……! うん! 僕いっぱい修行して勇者さんみたいに強くてカッコいい人になるんだ!」


 僕は宣言した。


「ああ、約束だ。君がいつかそんな人になれるのを楽しみにしてるよ」

 勇者さんは大きく頷くと、ウインクした。


「わあ! ウィルお兄ちゃんばっかりずるい! 私も魔法使いたい!」

「オレも!」「あたしも!」


 気づいたら勇者さんの周りには村中の子供が集まっていた。


「もちろん! ほら順番に剣を持ってみて」

 勇者さんはニコニコ笑っていた。


 その様子を僕は憧れの眼差しで見つめていた。



「……あれ?」


 ふと何か水滴のようなものが首筋に落ちる感覚がした。


「え?! お兄ちゃん、もしかして泣いてるの?」


 僕の様子に気づいたリリが茶化すように言ってくる。


 僕は自分の顔に手を当てた。濡れている。

 確かに僕は泣いているみたいだ。


 どうしてだろう? 僕は自分でも理由がわからないまま、涙をこぼしながら笑っていた。

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