第4話(18歳) 勇者の剣に選ばれし者
【18歳】
「チッ」
自室に届いた通知表を見て俺は舌打ちした。
あれから3年が経った。
レッドに初めて負けたあの日から、俺は必死に修行した。おかげで実技も勉学も成績は常にトップレベルだった。
だがレッドにだけは勝てない。成績の順位表では、俺の上には常にレッドがいる。レッドは学園内でもトップレベルの実力の持ち主だったそうで、常に総合成績の1位に君臨していた。
あれから俺は何度かレッドに試合を挑んだ。だが一度も勝てたことはない。最初の頃よりは渡り合えているような気はしている。でもいつも一歩のところでレッドに及ばない。スピードが、威力が、戦略が、いや全てにおいて及んでいなかった。
部屋に届いた通知表の内容はこの間のテストの成績表だった。1位にいるのはもちろんレッド。俺は2位だった。
通知表の下部にはいつもは書かれていない一文が添えられていた。
『総合成績の上位10位以内の者は勇者の選定試験を受ける権利を与える』
それはいよいよ新たなる勇者が誕生する機会が訪れたことを表していた。
勇者の選定試験は毎年の末に開かれている。内容は単純で、伝説の勇者の剣を台座から引き抜けるかどうかを試す。ただそれだけだ。
それなら全員に引き抜けるか試させれば良いのではと思うが、勇者は実力と知識を持った者の方が良いという学園の方針があるそうで、3年生の上位10位以内の者だけが剣による選定を受けることができる。
それが理由なのかは知らないが、去年も一昨年も選定試験の場で勇者の剣を引き抜けるものはいなかった。そうして今年も選定試験が開かれたのだ。
勇者の剣の前では総合成績の順位なんて関係がない。勇者の剣に選ばれるか、それだけだ。俺にもまだ勇者になれる可能性があるのだ。
俺は通知表をしまうと、運動着と剣を持って部屋を出た。じっとしていられなかった。
通知表には続けて選定試験が3日後に開かれることも書かれていた。それまでに出来ることをしなければならない。
時刻は夜から深夜に差し掛かろうとしていた。辺りはひんやりと寒い。
俺は修練場に到着すると、建物の中には入らずに裏口の方にまわった。裏口横のスペースが人があまり来ず、黙々と練習をするには打ってつけの場所であることを知っていた。
俺は剣を鞘から抜き素振りを始めた。
何回ここで練習しただろうか。時間がある日は必ずここで剣の練習をしていた。だがまだ足りない。まだレッドを越えられない。
まだ選定試験までは3日もある。それまでに少しでも努力するのだ。そうすれば俺はきっと勇者の剣を抜くことができるはずだ。
1時間ぐらい素振りしていただろうか。これ以上は明日の授業に影響が出る。俺は修練場を後にした。
部屋に戻ってきた。二段ベッドの上段からレッドの寝息が聞こえる。
夜中に部屋に帰ってくることが多いので、下段が俺の固定の寝床になっていた。下段であれば上段の人間を起こさずに床に入れる。
俺は布団の中に入ると目を閉じた。なかなか寝付けなかった。三日後の選定試験のことを考えていた。
〇
三日後。すなわち選定試験当日。俺は選定の間と呼ばれる大聖堂の中にいた。
俺を含めた10人の学生が祭壇の前に横一列に座っていた。俺達の正面、祭壇には石の台座が置かれており、そこにひときわ輝きを放つ剣が突き刺さっていた。あれこそが勇者の剣だった。剣に認められた者だけがこの剣を抜くことができるらしい。
「これより選定の儀を始める!」
校長が俺たちの前に出てきて言った。
「今から一人ずつ名前を呼ぶから呼ばれた者は前に出てきて剣を抜けるか試しなさい」
校長が説明する。
「では、バス・リーンズ!」
校長に呼ばれた生徒が剣の前に立った。剣に手をかけ、力一杯剣を引き抜こうとする。――だが剣は全く動かなかった。生徒は必死に両腕に力を入れているがびくともしない。……本当に動かないんだな。
先程の生徒はがっくりした様子で椅子に戻ってきた。続いて次の生徒の名前が呼ばれた。
数人の生徒が呼ばれ、どの生徒も剣を抜くのに失敗した後、ついにあいつの名前が呼ばれた。
「レッド・アイソニー」
俺は睨みつけるように前を見た。
名前を呼ばれたレッドは椅子から立ち上がると、剣の前へと移動した。剣の正面に立ち、真っ直ぐ剣を見つめる。小さく深呼吸をした後、レッドは剣の持ち手を掴んだ。
失敗すれば良い――。俺は思った。
シュリン
だが、そんな軽い金属音と共に剣は持ち上げられていた。先程まで台座に隠れて見えなかった勇者の剣の先端が見えた。
そして勇者の剣を引き抜いて驚きと喜びの混ざった表情をしているレッドの顔が見えた。
「おおおおーーっ」
大聖堂全体から歓声が聞こえた。
「新たな勇者が誕生したぞ!」「さすがレッドだ!」
皆が口々に喜びの声を上げている。
俺は呆然とレッドの手の中に収まっている勇者の剣を見つめていた。勇者が誕生したのだ。
これ以上、選定の儀を続ける必要はない。選定の儀は終了し、レッドが勇者に選ばれた。
俺は勇者になれなかった。勇者の剣に触れることすらできなかった。
今までの努力やら夢やらがガラガラと崩れていく音が聞こえる。もうどうすることもできず、俺はただただ呆然と勇者の剣を見つめていた。




