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第14話(20歳) 再びの急襲

【20歳】


「皆様、助けていただきありがとうございます」


 そう言ってぺこりと俺達に頭を下げたのは王女――ヘイリー姫だった。


 あれから2年。俺達は様々な冒険を経て、ついに魔王から王女を助け出した。

 旅に出た時点でまさか王女が既に魔王にさらわれた後で、そこから王女を救い出すのに2年もかかるとは思わなかった。


 王女が囚われていたのは魔王城のすぐ近くの塔で、王女を助けるために魔王の手下の魔族と戦ったり撒いたりで大変だった。

 

「姫様が無事で何よりです」

 レッドが微笑みながら言った。


「いえ、私が無事なのも勇者様をはじめとした皆様のおかげですよ」

 そう言って姫様もニッコリと笑った。


 やたら仲良さげな二人を見ながら、俺はひっそりと渋い顔をしていた。レッドの腰に輝く勇者の剣が目に入ったからだ。

 

 あれから未だに俺は勇者になれないままだった。

 俺は旅の途中でも毎日の練習を欠かさなかったし、魔族達とも積極的に戦った。


 だが一度もレッドに勝てたと思ったことはなかった。ありとあらゆる場面でレッドは活躍し、勇者としての立場や人々からの信望は大きくなっていく一方だった。


 何度か旅の途中でレッドに勝負を仕掛けたこともある。一度も勝てなかった。


 そのうえ腹が立つのはレッドに負ける度に自分でもまたかと思ってしまうことだった。いつのまにか負け癖がついているというのか、まるで以前も何度も負け続けていたような感覚を覚える。

 それが悔しかった。一体どうすれば勝てるのかわからない……。

 

「ところで皆様こそ、お怪我はありませんか? 随分激しく魔族達と戦っていたような」

 姫様が心配そうな顔で聞いてきた。


「少し魔力を消費しすぎましたが、休めば回復すると思います」

 レッドが答えた。


 確かに姫様のいた塔は魔族たちによって厳重に守られており、突破するのは大変だった。

 特にレッドは最近覚えた光魔法とやらの魔力消費が激しいらしい。今日は特に疲れているように見えた。


 その疲れている様子が余計に俺をイライラさせた。俺だって最前線で戦っているから大変だったのに。


 それに今朝からずっと胸騒ぎがしている。てっきり姫を救出する日だからだと思ったが、今になっても胸騒ぎが治まらない。

 何かが起こりそうな嫌な予感がする。今までずっと不安を感じていた何かがついに起こりそうな嫌な予感が。それもあって呑気に休もうとしているレッドには腹が立った。

 

「ウィル、あなたは大丈夫?」


 俺がそんな事を考えていると、隣からナタの声が聞こえた。ナタと姫様がこちらをじっと見つめていた。何か話しかけられていたらしい。


「……大丈夫だ。……なあ、姫様が捕まってた塔にいた魔族達はみんな撒いたんだよな?」

「そのはずよ。一応さっき索敵魔法を使ってみたけど、周りに魔族がいる様子はなかったわ。どうかした?」

「いや……、何故かわからないけど嫌な予感がしてな…………。……っ!」

 

 突然、何か背中に冷たい殺気のようなものを感じて、俺は振り返った。


「ほう、完全に気配を消していたのに気づいたか」


 目の前には誰もいない。だが邪悪さを感じさせるような低い声がどこからか聞こえる。


「何者だ!」

 レッドがすぐに剣を抜き、臨戦体制を取った。


「ククク……」

 目の前に質量のある影のような、黒い塊が現れた。それはゆっくりと大きくなり人型に近づいていったかと思うと、やがて声の主の姿が現れた。


 黒く大きな角を持ち、顔も含めて全身に黒い鎧を着けた魔族だった。禍々しい魔力をまとっており、明らかに今まで相手にしていた魔族と雰囲気が違っていた。


「魔王……」

 気が付くと俺はそう呟いていた。


「魔王!? こいつが!」

 ナタが驚いたように言って杖を構えた。


 なぜかは分からないが目の前の魔族が魔王であるという確信めいた予感がした。俺も剣を抜くと構える。


「姫様は下がってください!」

 レッドがそう言って守るように姫様の前に立った。


「流石だな。魔王とも見抜くか」


 魔王は相変わらず余裕めいた態度で立っている。勇者一行相手に何も脅威を感じていないかのようだった。


 不意に魔王が片手を上げた。魔王の左右の空間両方から黒い刃のようなものが出現した。魔王が片手を振りかざすように下ろすと、黒い2本の刃は俺の方に回転しながら飛んできた。


「こ……の……!」


 俺は攻撃を防ごうと、剣を振った。が、とても重い。なんとか剣を振り切り、2本の刃を叩き落とした。


「防ぐか。ならばこれはどうだ?」

 魔王はそう言うともう一度片手を高く掲げた。


『光を捕え、地に堕とせ』

 魔法の詠唱だった。その瞬間、魔王が身にまとう魔力が一気に膨れ上がった。


「なんだこれ!?」


 突然、俺の足元に黒い影のようなものが現れた。影は円形に大きく広がったかと思うと、その影の中から黒い手のようなものが何本も伸びてきた。その手は俺の腕と剣を掴むと影の中に引き摺り込もうとしてくる。

 脱出しようともがいたが、黒い手の力が強く離れない。


 再び魔王の左右に黒い刃が出現した。その2本の刃が俺の方に飛んでくる。このままじゃ攻撃を防げない――。


 ガンッ――


 そんな音がして黒い刃が何かに当たる音がした。


「闇魔法の詠唱とは厄介だわ……」

 ナタがそんな事を言いながら、俺の前に立っていた。


 ナタが構える杖の先、ナタの正面を守るよう半透明の壁のようなものが出現していた。

 ナタが防御魔法を使って、シールドを展開したらしい。黒い刃が壁にぶつかっていた。だが勢いは止まっていないようで、未だに直進を続けようと刃は回転し続け、シールドにぶつかる刃の先端からは黒い火花のようなものが散っていた。


 ナタが歯を食いしばりながら杖を抑え続けている。

 

「魔王! 相手はこの僕だ!」

 レッドがそう言いながら、魔王に向かって剣先を向けた。


『光よ! 魔を払え!』

 レッドがそう詠唱すると、レッドを中心にあたりに光が満ち、光の波が魔王に向けて放たれた。


「ふん、光魔法か」

 魔王が面倒だとでも言わんばかりに吐き捨てた。


『闇よ。光を飲み込み我が糧にしろ』

 魔王も詠唱する。


 魔王の前に闇でできた巨大な壁のようなものが現れた。その壁に向かってレッドが放った光の波がぶつかり、闇の中に吸い込まれていく。そしてレッドの魔法は飲み込まれるように消えた。


「ぐ……」

 レッドが苦しそうに膝をついた。


「この程度か。随分と弱い魔法だ。勇者と聞いて呆れるな」


 確かに魔王の言う通り、今のレッドの魔法は普段よりも規模も威力も低かった。

 まだ姫様を救出した時の体力も魔力も癒えていないのだ。レッドの苦しそうな表情から限界が近いことがわかった。


 そしてそれは俺もナタも同じだった。


 バリッ――


 そんな音と共に、目の前でナタのシールドが割れた。シールドを破った黒い刃はナタに襲いかかる。


「うっ……!」

 攻撃を喰らったナタは後方に吹っ飛んでいった。


「み、皆さん……!」

 姫様が青ざめた顔をしながら、とにかく回復させようとレッドに手をかざしている。

 相変わらず俺を拘束する黒い手はふりほどけない。このままでは姫様が再び連れさらわれる。


 だが、魔王は姫様を一瞥すると何故か俺の方に近づいてきた。


「やはり人間のままでは弱いと思わないか?」


 魔王がニヤリと笑いながらそう聞いてきた。そして俺に向けて腕を振り下ろした。


 次の瞬間、辺りが真っ暗になったかと思うと、何もわからなくなった。


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