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オレ達はひとまずそれぞれの部屋に戻って来た。レリアは相当にショックを引きずっていてユースティティアさんにまるで連行されるように自分の部屋に入っていった。
オレにはいくつか話したいことがあったけど、あの調子じゃ多少時間を置かないと駄目だろう。
「なんだか目立つ捨て台詞だったな~最後のアレ。悪役ってなんで黙っていられないのかね。あんなこと言わなきゃ企みがうまくいくかもしれないのに、余分なこと言うからこっちも調べようかってなるよね」
《そうですね。こちらの調査を誘って罠にハメる感じではなさそうです。そもそもあのタイミングでそこまで頭は回らなかったでしょうし。ここは素直に調べましょうか》
「あのオッサンどんな手でくると思う?」
《それをこれから調べるわけなんですが。ふむ、よいでしょう。今持っている情報だけで推理してみましょうか。
先ほどの会見の最初期、彼の者はマスターを敵視していませんでした。こちらの情報を調べてきたようですが敵としてではなかったでしょう。魔石を入手した実力に興味があったとか、何かの役に立たないかなという程度の気持ちだったのではと推測します。
その上こちらを勧誘してきましたし断られても大して気にしていませんでした。あからさまに悪い感情が見えたりもしていません。表情や態度にも特に何も現れていません。言ってみればニュートラルな状態だったと思います。
一方こちらも初対面の相手として良くも悪くもない中立的な態度で始まりました。相手の名前さえ知らない状態でしたし、会って実際に話してみて判断するという基本スタンスでした。実際に会話の最初の方はマスターも最低限の敬語を使用していました。
ただしアウレリア嬢に心情的に肩入れしていたわけですから相手を敵役であろうと予想していた分、若干悪い方に振れていましたね。しかし重度の警戒はしていません。
まとめると明確に敵でも味方でもなくお互いにフラットな状態であった、ということになります》
アイはそこで一旦区切り、少しだけ考えをまとめて続ける。
《捨て台詞からすると彼の者の企みにマスターが何らかの形で関与しているようですが、その言葉から考えて関与があったのは過去のどこかの時点であるようです。
しかしそれはお互いにお互いを敵とも味方とも判断していない時点での関与である筈。つまり偶発的な関与、または結果として関与することになったという意味合いの事象の可能性が高い。
彼の者とマスターの間で共通する要素を広くピックアップします。
ダンジョン、魔獣、魔石、魔道具、コア、研究
アウレリア嬢、護衛騎士、文官、神
魔道具研究所、ダンジョン管理施設、斡旋所、この宿
マスターが意図せず彼の者に関わることになった事象があるはずです。この中で何か思い当たる物はありませんか》
「極論すればどれも関係することになっちゃうけど、はっきりとコレだってのがあるね」
《そうです。魔石です》
「ちょっ、オレが言いたかったのに!カッコつけて言いたかったのに!」
《あの15個の魔石だったとすると、どう話は展開しますか?これは言わせてあげましょう》
「なんでそんな上から目線なんだよ、まったくさ~。魔石と言えば魔道具に決まってる。んでこの流れで魔道具って言ったらもうレリアのあの魔道具しかないわけで」
《その通りですね。彼の者はこう言っていました『一定の範囲の岩などを崩す効果』と。アウレリア嬢はG級の魔石を1回使い切りで魔獣を爆散させていましたよ》
「・・・おいおいヤベーじゃないの」
《単純比較は難しいですが、含有する魔素エネルギー量で比べるとC4級はG級の300万倍を超えます》
「戦争かクーデターかテロか。本当に人間ってのはどこの世界でもバカだな。オレがこれから開発するかもしれない魔道具が悪用されないか、って心配をこの間したばっかりだよな?もう手遅れだったとは」
《どうしますか。介入しますか》
「自分とは関係の無い遠くの国の戦争やテロをわざわざ止めに行くことはしないが、身近で、身内で、しかも自分自身も関与してる。止めるしか選択肢が無いよ」
《では夜を待って調査を行いましょう。彼の者の宿泊場所の情報が必要です》
「あ、そういう感じのアレなのね。斡旋所の誰かなら知ってそう」
《たしかに斡旋所の誰かが知っているでしょうが、その知っていそうな誰かに伝手が無いではないですか》
「え、組合長とかダメ?」
《それよりいい人材がいます。この宿に。例の受け付けです》
「・・・たしかに知ってそう。わかった聞きにいこう。でもその前にレリアの所にいくよ。行動に移す前に彼女の気持ちを確認しておきたい」
少し時間を置いてではあるがオレはレリアの部屋を訪ねた。ユースティティアさんが部屋の扉を開けて対応してくれる。
「アウレリア様はだいぶ落ち着かれましたがまだ気分は沈んでいるように見えます。今はバルコニーで休んでいらっしゃいますが」
「少し話がしたいんですが。割と大事な話です」
「・・・ですよね。長年アウレリア様の警護に就いてきた我々もある程度ショックを受けるような大きな話でしたし」
ユースティティアさんはそこで言葉を切って目線を下げる。少し迷う様子だったがオレと話した方がそっとしておくより良いと判断したのだろう。中に招き入れてくれるようだ。
「では中へどうぞ。バルコニーに案内します」
「考え事かな?邪魔して悪いね」
声をかける。レリアは一瞬体を強張らせるような仕草を見せた。こちらには目を向けないままでどう答えるか考えているようだ。
バルコニーに用意された小さなテーブルと椅子。レリアはそこに一人で座っていた。当然思う所はたくさんあっただろう。テーブルに並べられた飲み物と菓子のような物に手を付ける余裕もないようだ。
「リク様・・・きっとお話しにいらっしゃるだろうと思っておりました」
言うべき事がまとまらないらしく沈黙のまま少し時間が流れる。
「・・・驚かれたでしょうか。それとも怒ってらっしゃいますか」
「どっちでもない。なぜそう思うか話して欲しい」
「なぜって、決まっているではありませんか。ゼノ研究員が言った通り大神様から恩寵を賜りつつもその意志に反するような行いをしている事、そしてそれをリク様に伏せていたからです」
「大事な研究の内容を全てオレに話すなんて約束はしてないし、話す必要もない。それと意志に反するって言うけどそれは本当なのかな。確認したのか」
「・・・わかりません。しかしあの者の言う事に納得できる部分がありました。コアの改造には手を出すべきではなかったかもしれません」
おそらく何度も自問自答してきた事なのだろう。あきらめの雰囲気が漂っていて悲しそうな目をしている。う~ん、よくないな。こういう状況をオレは好きじゃない。本当は嫌なのに外の要因で不本意な選択を強要されるヤツ。
少し活を入れたほうがいいかな?怒るかな?別に怒らせてもいいか。少なくとも元気は出るだろ。
「あきらめるのはレリアの自由だ。真実を何も確認しないまま、何も試さないまま、誰かに何か言われただけで投げちゃうような程度の事なら別にいいんじゃない?」
おそらくオレの反応が予想外だったのだろう。ずっと目線を合わせないで会話していたのに急にこちらを向いて驚きの表情を見せる。そしてその驚きが徐々に怒りに変わっていく。あいかわらず顔に出やすい人だ。
「なっ、なんで・・・私がどれほど悩んできたかっ!」
「悩んだ量を誇るな。結局どう動いたかなんだよ。オレだったら自分の好きな事は簡単にはあきらめない。ギリギリまで突き進んで自分が納得できる所まで戦う」
「・・・私が戦ってこなかったとでも?恩寵を与えられた者の重責は私にしかわからないわ。自分だけが特別な力を持っている違和感と世界からの疎外感を理解できる者はいない」
「わからねーよ。わかりたくもない。そのプレッシャーを振り払って進むかどうかだろ。おまえの中で一番の事はなんなんだよ。まずはそこだけ考えろよ」
「・・・私にだって一番の夢はあります。でもその夢のためだけに他の全てを捨てますなんて子供みたいなこと無責任にできません」
「本当にそうなのか?やる前にただ言い訳して逃げてるだけじゃないのか。あきらめてんじゃねーよ」
「あきらめるしかないじゃないですか。もし私が恩寵を失ったら領に、この国の民にどれほどの弊害が出るか」
「違う。おまえの夢をあきらめるってことじゃない。足掻いてもがく事をあきらめるなってことだ。オレだったら夢を持ったまま自分の役割も果たせる道を探す」
「・・・そんなの無理に決まってます」
「なんでだ。誰が決めたんだ。神様か?もしそれを決めたのが神なら、そんな神はクソったれだ。オレはオレの道を行く」
「ふ、不敬ですっ」
「自分の道を進むためなら不敬でいいじゃないか。まずは足掻いてみろよ。自分の持ってるもの全部使え。カネとか人脈とかコネとか政治とか運とか。全部絞り切れよ、出し惜しみなんかするな」
「やってきました。必死にやってきたんです。ここに来たのだって・・・いえそれよりゼノ研究員です。彼は私を放っておかないでしょう。道に反するかどうかに関わりなく私の夢は潰えます」
「・・・頼れよ」
「え?なに?」
「さっき言っただろ、自分の持ってるもの全部使えってさ。オレに頼れよ」
「あなたに何ができると言うのですか。政治的な面が強い問題なんですっ」
「少なくともおまえよりはできることは多いぜ。立ち止まったまま動こうとせず、大人ぶってあきらめてるおまえよりはな」
「わ、わたしのこと何も知らないくせにっ!私の信仰も、研究も、領都での権力争いも!」
「だからしらねーよそんなこと。研究とか政治とかどうでもいいんだよ。おまえがどうしたいか、それだけだ。あきらめたくないんだろ?」
「・・・ムリだわ」
「なんでやる前から無理なんだよ。自分の全てを賭けて突き進んでみろよ。転んだらオレが起こしてやる。
オレが信じられないか?何もできないって?」
「・・・・・・・」
「ふ~ん。よしじゃぁお得意の技でオレを観ろよ。オレを信じてやってやるって、何一つあきらめたりしないって思いながらさ。青いのか、赤いのか、どっちにみえるんだ?」




