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次の日の午前。予定通りの時間と場所で面会している。こちら側はオレとレリア、レリアの護衛騎士3人。相手はナンバー2であるらしいおっさん1人と護衛騎士3人だ。騎士は3人って決まりでもあるのかもね。
この部屋は共有部屋でかなり広いのでそこそこの人数がいても狭さは感じない。この宿の例の受け付けの人が飲み物を護衛以外の2人に用意して退室していった。あ、オレの立場はもちろん護衛ね。念のため。
「ゼノ・ピュロボルスという。よく覚えておくといい」
そう名乗った人物の外見はオレの予想とは多少違ったようだ。背は高めでやせ型の30代後半、神経質そうな目と口元、髪はボサボサで手入れしてない。一言で表現するなら学者って印象かな。服装は高級そうな灰色のインナーに黒いコートで目立った特徴はない。猫背で高級感が台無しだ。
そうか、相手も一応魔道具の研究者として一流だったな。悪役だろうって偏見でおかしな外見を勝手に予想してた。
「この者が噂の新人探索者か。聞いてはいたが本当に若いんだな。見た目は成人したばかりの初々しさが残っているが上げた成果は途方もない。熟練の上位探索者でもかくやという程だ。よい拾い物をしたなアウレリア・エッフィギエス」
「この方は物ではありません。大神様の導きによる運命の出会いでした」
「そうか、その手の話題に私は疎くてね。若き探索者よ名はなんという」
「リク、といいます」
「そこのお嬢さんの倍の契約金を出すので私の所へ来ないかね」
「お断りします」
「ふむ。それとC級の魔石、アレはすばらしい物だったよ。15個全て買い取らせてもらった。めったに出回る物ではなくてね。いやはや君のパーティーの実力には恐れ入ったよ。今日はそのパーティーメンバーはいないようだがね」
「どうも」(お前が買ったのかよ。驚いたな)
「・・・我々は初対面の筈だが何か嫌われているようだな。私の事についてそのお嬢さんから何か聞いたのかもしれないが鵜吞みにしない方が良いと助言しておこう」
「参考にするかどうかはともかく、助言は受け取ります」
ゼノ・ピュロボルスはレリアに目線を送りながらオレに勧誘をかけてきた。ゼノの言い回しにレリアがカチンときたようだ。
「失礼な。あなたの事に関して個人的な感想や情報は何も話していません。ただし研究者として、そして領都の研究所の所員として争う立場であることは伝えています」
「ハハハッ、もっとはっきり言いたまえ。私たちはお互いがお互いの足を引っ張り合う仲だとな。さらに領主やその近辺が絡んできたら、もはや政敵と言ってもいい程なのだよ」
「見解の相違です。研究者として互いに切磋琢磨するライバルと見ることだってできます」
「綺麗ごとはやめなさい。もう何年も争ってきたんだ、ライバルなんて装飾された言葉には虫唾が走る。お互いにそうであるはずだし偽ることは無い。そこの新人探索者に気を遣っているのなら退出してもらいなさい」
「この方は護衛ではありますが私にとってそれ以上の意味のある大事な人。何も取り繕う事はありません。何を聞かれても構いません」
その言葉を聞いたゼノの目が鋭くなった。
「本当にそうかな?」
ん~よくないな。相手の思うようにうまく誘導されてる気がする。レリアは部屋にある大きなテーブルの席についているんだけど、ヒザの上に置いて握りしめた手にやたらと力が入っている。普段の座り姿は背筋がピンとしていてとてもきれいな姿勢なんだけど、どんどんいかり肩になって前のめりになってきた。
一方、ゼノの方は席にはつかずに立ったまま会話を続けている。レリアを見下ろす形だ。狙ってるのかな?芸の細かい奴だ。主導権を完全に握ったと感じているのだろう、表情に余裕が見え隠れする。
「では何を話しても問題ないな。挨拶はここまでにしておいて有意義な話題に変えようじゃないか」
長くて面倒な挨拶なこってすね。きっと毎回こんなことやってるんだろうな。レリアはもう少し冷静になれる人なのにコイツ相手だと相性が悪いんだろう。怒りで頭が回っていない。いままで毎回やり込められているのが目に浮かぶようだよ。
「キールダンジョンの調査進捗はどうなっているのかね」
「またそれですか。前回もお話ししました。襲撃があって以降、外出を禁じられています。進捗も何もあるわけがありません」
「うんうんそうだろうねぇ。だから提案するよ、現在までの結果をこちらに渡しなさい。私が引き継いであげよう。なに遠慮することはない、同じ研究者のよしみだ」
ガタタッ レリアが思わず立ち上がる
「ふ、ふざけないでくださいっ。そんなことできるわけがありません。成果を横取りするつもりですかっ」
「ではどうするんだね。ここで足止めをされたままで調査を頓挫させるつもりかね?そちらこそふざけないでもらおう。自分の得点にこだわって貴重な調査データをドブに捨てるのか」
「ですからそれは外出禁止が解ければと何度も」
「それは一体いつなんだね。各機関が先を争って調べている内容なんだ。他より少しでも早く結果を出すことがいかに重要であるのか、研究者であるキミ自身が理解していないわけもあるまい。
領都の裁定庁に訴える準備もしている。何も出来ないお嬢さんの研究を私が引き継ぐのが妥当だとね。いつまでたってもお嬢さんは私の言う事を聞かないし、全体の利益のためには仕方がない。それ程の重要度なんだよ」
「・・・・・・・」
レリアは何も言い返せず言葉に詰まったまま唇を噛みしめている。その目はゼノを強く睨んでおり、激しく怒りに燃えている。
睨んだそのままで数秒が経過した時、何かに気が付いたレリアの表情が驚愕の感情を示す。
「・・・ま、まさか、あなたが手を回して足止めの期間を長くしてるのですか」
ゼノは少し驚いた表情を見せた。だがそれは予想外の事を言われて驚いたのではなく、よく思い至ったなという意味合いの驚きであったのだろう。悪びれないその態度が明白に物語っている。コイツがやってるんだと。
「なんという言い草だ。自分に都合が悪い事は全て敵対勢力の陰謀とでも言うのかね」
少し開き直った様子になったゼノはニヤニヤしながら言葉を返してくる。
「・・・負けません。私はそんな卑劣な手には屈しません」
「自分の勝手な妄想を正しいとして話を進めないように。とはいえ違うと言ってもお嬢さんは聞き入れないのでしょう。では仮に私がそのように手を回しているとします。あくまで仮定ですよ?その場合あなたはどうするのですか。何か打つ手があるんですか」
おいおい。コイツ開き直り過ぎなんじゃね。もう自分がやったって認めてるのと同じだぞ。さすがに腹が立ってきたぞ。そろそろ介入するか。
《マスター、もう少し様子を見ましょう。このまま進めばもっと楽しい情報が勝手に出てきますよ。相手は完全にこの場を支配したと誤認識しています。もっと調子に乗らせて喋らせるのです》
(楽しい情報って・・・わかったよ)
《それとわからないように少しずつですがジャミングを仕掛けています。もう少し時間が経つのを待っていただければ、冷静だったら絶対に話さないような事も出てくる筈です》
(ウホッ、さすがアイだぜ。でもどんなジャミングなの)
《ミューズを初めてダンジョンから地上に出す時に、受け付けの数人に使ったものの応用です。自分の心の中心にある物に激しく固執するようになり、逆にそれ以外の事に注意が向かなくなる、といった効果ですね》
オレとアイが悪だくみをしている間もレリアとゼノの言い争いは続いている。少しずつヒートアップしているようにも思える。
「断固抗議します。領都に持ち帰ってしかるべき所で裁定を求めます」
「はぁ、やれやれ。先ほど私が裁定庁での訴訟の準備をしていると言ったでしょう?お嬢さん側でも進めて構いませんが何か証拠でもあるのですか。そもそもお嬢さんの妄想なのですよ」
「私は神の目を授かった者。その恩寵が証明です」
「いやいや待ちなさい。恩寵は確かに偉大ですよ、認めます。ですがそれとお嬢さんの言う事が真実であることとは何の因果も持たない。あなたも研究者の端くれなら矛盾を認めて論理に従いなさい」
「不敬な!大神に対する冒涜ですよっ!」
あらまぁ・・・どっちも怪しくなってきてない?レリアにもジャミングの効果がかかってるのかね。冷静に聞いているアイは楽しそうだ。
「困ったらすぐ神の名を出す。あなたの悪いクセです。むしろ神の名があなたの不利を証明しているとも言えるほどだ。その名さえ出せば言いたい放題できるとでも?良い機会なのでこちらも日頃から言いたかった事を言わせてもらいましょうか」
「・・・なんですか突然」
レリアはやや警戒している。それを見たゼノは意地の悪さと愉悦が混ざって濁った目をレリアに向けた。
「あなたコアを改造してるでしょう?」




