表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

第9話『照牛刺町(テギュサス)への旅立ち!ステーキへの執念、牛を救え!』

 ぽこぽこ…ぽこぽこ……

 湯の音が心地よく響く朝の旅館。露天風呂に肩までつかる男、カードの表情は、どこか神妙だった。

「ふぅ……贅沢ってのは、魂を豊かにするな……。しかし……」

 彼は湯気の中で、ふと目を細める。

「――ステーキが食いたい」

 その言葉はまるで祈りのようだった。

 アバンカが旅館の掃除中、ふとその願いに応じるように声をかけてきた。

「ステーキ……? だったら、テギュサス町(照牛刺町)に行くといいわ。あそこは“神の舌に愛された牛”で有名よ。私も行ったことあるけど……おいしかったなぁ~」

 その一言で、カードの目がキラリと輝く。

「行くぞ、テギュサス町!!」


 旅立ちの準備を終えたカードが、町の門を出ようとすると――そこには町役場の役人たち、そして町民たちが大集合していた。

「カード様、どうか、入浴町の町長に……!」

「クルーズの後任は、あなただけです!!」

「風呂を取り戻してくれた英雄を、私たちは信じています!!」

 老若男女が口々に叫び、横断幕を掲げる者まで現れる。

 だが――

「断る」

 カードはあっさりと言い放ち、皆の前を通り抜けた。

「俺は大統領だった男だ。町長という肩書きに収まる器じゃない。野望は……もっと上にある」

「そ、そんな……」

「町は平和になった。あとはお前らが考える番だ。俺は、ステーキを食いに行く」

 そして颯爽と背を向け、照牛刺町へと歩き出す。

 その後ろ姿に、子供たちの声が飛ぶ。

「がんばってね、カードさん!」

「うまい肉、いっぱい食べてきてー!」


 数日後――照牛刺町に到着。

 そこは見渡す限りの大草原。青空の下、牛たちがのんびりと草を食む姿が……見える、はずだった。

 だが――

「……おかしいな」

 牧場を見下ろす丘に立ったカードの目に映ったのは、元気のない牛たち。数は多いが、皆おとなしく、動きも鈍い。中には倒れ込む牛もいる。

「まるで……魂が抜けたようだ」

 牛の様子に異常を感じたカードは、すぐさま町の酪農組合を訪ねる。

 そこで出迎えたのは、がっしりした体格に麦わら帽子の男、組合長のガウチ・モーゼス。

「おう、あんた旅の人か。……あぁ、牛たちのことなら、こっちも頭抱えてるとこさ」

 モーゼスの話によれば、数週間前から牛たちが急に食欲を失い、力をなくしていったという。

「最初は病気かと思った。獣医も呼んださ。でも、どこも異常なしなんだ」

「餌か? 水か? それとも……誰かが何かをしているのか」

 カードは町の井戸水、飼料、牧草の土壌、ありとあらゆるものを調査し始める。


 調査を進める中で、カードはとある妙な事実に気づく。

「――牧場の裏手にだけ、妙に土が乾いている場所がある。しかも、牛たちの行動範囲から外されている。なぜだ?」

 農夫に訊ねても、「あのあたりは昔、神の祠があった」とあいまいな返答ばかり。

 さらに夜、カードはその場所で不可解な光を見つけた。

「……何かいるな」

 身を低くして忍び寄ると――そこには、黒いローブの一団が祠跡に集まり、何やら儀式のようなものを行っていた。

「牛の活力を奪い、呪牛石へと転化する……!? こいつら、まさか……!」

 その時、気配を察知され、カードは発見される!

「誰だっ!」

「ふっ……悪いが、こう見えてプロレス経験者だ」

 一団が襲い掛かってくるが――カードは、

「セルフファースト・チョークスラム!!」

「ジャスティス・スリーパー!!」

 と次々にプロレス技で敵を沈めていく!

「ふざけるな……俺のステーキライフの邪魔をするなぁぁぁ!!」

 一団は慌てて去っていく

 呪牛石を破壊。そこから濁った黒い煙が消え、牛たちの活力が戻り始めた――!


 翌日、モーゼスの牧場。

「モ~オ!」「ブモ~!!」

 元気に走り回る牛たちの姿があった。

「こりゃ……本当に助かったよ、カード!」

「礼は要らん。俺が食いたいのは、感謝じゃない。“最高のステーキ”だ」

「もちろん、出させてもらうとも。テギュサス町が誇る、太陽の霜降り神牛だ!」

 そしてついに運ばれてくる、焼きたてのステーキ。

 ジュウウウウ……と音を立てる香ばしい香り。黄金に光る脂。ナイフで切れば、湯気が立ち昇り――

「…………うまい!!!」

 その夜、町の宴ではカードの武勇と食欲を讃える祝祭が行われた。

 カードは火を囲みながら、満腹のまま空を見上げる。

「……だが、まだ足りん。もっと旨いものが、もっとデカい戦いが、俺を待っている気がする」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ