第8話『町長決戦!セルフファースト・ジャスティス!!』
朝焼けが町を照らし、温泉の湯気が空へと昇っていく中……入浴町の中央通りを、堂々と歩く一人の男がいた。
金髪にスーツ、片手には縄でぐるぐる巻きにされた数人の男たち。顔を青くしているのは、昨夜、温泉源を不正操作していたクルーズの部下たちだ。
「なんだ? 何ごとだ?」「あれ、町長の部下じゃ……! 」
ざわつく町人たちをよそに、カードは町役場の前に立ち、堂々と扉を開け放った。
「……会議中だろうが、重要な報告だ。止めるなよ」
町役場の大会議室。
壇上には町長クルーズ。その横には幹部役人たちが勢揃いしていた。
「次に、温泉街再整備の予算案について……」
淡々と進む会議の中、バタンッという音とともに扉が開く。
「カード……!? 」
驚愕する一同。入ってきたカードは、ドサッとクルーズの部下たちを会議室の中央に投げ出した。
「悪いな、お茶の時間か? だが先に、これを見てもらおう」
町の幹部たちが目を見開く。縄で縛られ、苦しげにうめく男たちは、誰もがクルーズの腹心として知られていた連中だった。
「こいつらは昨夜、地下の“温泉遺跡”で源泉の流れを操作していた。町の旅館の温泉を止め、町長の浴場にだけ湯を流すようにしていたんだ」
「な……なんだと……!? 」
「証拠もある。源泉図の改竄、パイプの増設、すべて俺が確認した。そして現行犯でこいつらを捕まえた」
会議室は騒然とした。ざわつく役人たちの中、クルーズは立ち上がり、苦笑いを浮かべる。
「……ふっ、ふふふ……なるほど、やるじゃないか。さすが元・大統領殿。見ていたかのような正義っぷりだな」
「“正義”じゃない。“俺の風呂”を潰されるのが嫌だっただけだ」
「……だがなぁ! 」
突如、クルーズが机を叩き、立ち上がる。
「俺は町を思ってやったんだ! 湯の少ない今、すべてに供給するわけにはいかん! 経済の中心は、町長浴場だ! 俺の風呂が町の象徴だ!! 」
「象徴を、私物にしたな。クルーズ、お前はもう“公私混同マン”だ! 」
「おのれぇ……ハァァァァ!! 」
次の瞬間、クルーズは上着を脱ぎ捨て、上半身をあらわにしてカードに殴りかかってきた!
カーーーーン
ゴング音が鳴る
「町役場ファイト勃発!! 」
「町長VS元大統領!? 」
湯気のように熱気がこもる会議室。
「来い、クルーズ! 受けて立つぞッ!! 」
……プロレス流派・セルフファースト流、開幕!!
クルーズが放った正拳突き。だがカードはその拳をかわし、返すようにエルボー・スタンプを肩に打ち込む!
「ぐはっ……! だがまだだァッ! 」
クルーズは驚異的な体幹と動きで投げを耐え、逆に組み付き返す!
鉄槌!ボディスラム!壁に叩きつけられるカード!
「ふははは! これが、入浴町流・湯煙スタイルよ! 」
しかし――
「悪いな……“熱さ”だけで勝てるなら、サウナに政治を任せればいい」
カードが立ち上がった。
その瞬間、クルーズの体から黒いオーラが立ち昇る。
「うおおおおおおおおお!! 」
「なっ……これは!? 」
「闇のスチーム・チャクラ……!? まさか、あれを使うとは……! 」
黒い湯気に包まれるクルーズは、まるで魔神のように巨大化していた。
だが、カードは一歩も引かない。
「俺の生活の快適さが、今脅かされている……ならば! 」
「セルフファースト・スープレックス!! 」
黒いオーラごと、クルーズの巨体を持ち上げ、空高く舞い上がり――
「湯けむりギャラクティカ・ジャーマン!! 」
ドオオオオオン!!
会議室が揺れる。観葉植物が飛び、書類が舞い、木製の机が真っ二つに裂けた。
クルーズの黒いオーラは霧散し、彼は仰向けに倒れ込む。
「う……ぐ……」
カードは静かに前へ出て、クルーズを見下ろし……
「お前はクビだ! 今すぐその浴衣を脱げ!! 」
その日の午後、町役場の前。
「町長クルーズ、地下遺跡不正事件により解任! 」「英雄カード、町民から支持爆上がり! 」
新聞が刷られ、町中に号外が配られる。
旅館の湯が戻ったこともあり、町はかつてないほどの活気に包まれていた。
「カードさん……ありがとう……! 」
アバンカとムラニアも頭を下げる。
「感謝しなくていい。“俺の風呂”のためだ。それだけだ」
そう言いつつ、カードはほんの少し、口元を緩めた。
入浴町は、再び平和を取り戻した。
そして、町にはひとつの新しい風が吹き始める。
それは、
「セルフファーストだけど、なぜか皆に好かれる英雄」
だった。




