第68話「前大統領からの手紙」
朝日が米リカの首都を黄金色に染めていた。
昨日まで戦火に包まれていた大統領公園は、信じられないほど静まり返っている。
崩れた建物の修復が進み、人々の顔には安堵と期待が混ざっていた。
そしてその中心で、ひときわ華やかな式典が行われていた。
……カードの、大統領就任式である。
真紅のカーペットが伸びる通路の先、壇上に立つカードは黒のスーツに赤いネクタイを締め、ゆっくりと右手を掲げていた。
空は晴れ渡り、星条旗が風に翻る。
「私、カードは、米リカ合衆国大統領として、国民の幸福とセルフ・ファーストの理念を守ることを誓う! 」
その声は、街中に設置されたモニターを通じて全国に響いた。
群衆が歓声を上げる。
人々の目には涙が浮かび、国を覆っていた混乱がようやく終わったという実感が、ようやく形になった瞬間だった。
(終わった……これでようやく、私の時代が始まる)
壇上に立つカードの目に、一瞬、遠くの建物が映った。
黒く塗られていたブラックハウス……いや、今は再び白く塗り直され、元の姿を取り戻したその建物が、朝日に輝いている。
あの戦いの舞台であり、アバマとの因縁が終わった場所。
だが、その姿はどこか懐かしさを伴っていた。
アバマの姿は、あの戦いの後、跡形もなく消えていた。
爆風の中に消えたのか、あるいはどこかへ姿をくらましたのか……誰にも分からない。
まるで最初から存在しなかったかのように。
式典を終えたカードは、厳重な警護のもとホワイトハウスへと向かう。
車列の窓から外を眺めると、通りの人々が星条旗を振りながら笑顔で手を振っている。
子どもたちの声、商人の声、そして兵士たちの敬礼。
それらすべてが、国の再生を祝う音楽のように響いていた。
(私こそが、この国を導く男……そうだろう? )
そう心の中で呟きながら、カードは静かに笑う。
……やがて、大統領専用車はホワイトハウス前に到着した。
黒い外壁はすでに塗り直され、純白の光沢が戻っていた。
玄関前の大理石の階段を上ると、スタッフたちが並び、一斉に頭を下げた。
「お帰りなさいませ、大統領」
カードは堂々と頷き、扉をくぐる。
……ホワイトハウス内部。
修復の済んだ真新しい廊下を進み、大統領執務室へと足を踏み入れた。
高い天井、磨き上げられた机、そして窓から差し込む光。
何もかもが新しく、しかしどこか懐かしかった。
その時、机の上に一通の封筒が置かれているのに気づく。
古びた茶封筒には、手書きでこう書かれていた。
「次の大統領へ」
カードは眉をひそめた。
「……ほう、伝統というやつか」
米リカでは、退任する大統領が次期大統領に一通の手紙を残すのが習わしだった。
その内容はいつも異なるが、そこには「国を頼んだ」という思いが込められている。
カードはゆっくりと椅子に腰を下ろし、封筒を開いた。
中には一枚の白い紙。
そこには、大きく力強い文字が一行だけ書かれていた。
「YES WE CAN」
その瞬間、カードの表情が一瞬固まる。
そして、静かに笑みを浮かべた。
「……まったく、最後まで粋なやつだ」
カードはその紙を握りしめ、立ち上がった。
重いカーテンを開け、窓の外に広がる青空を見上げる。
「アバマ、お前……まだこの空のどこかで見ているのか? 」
カードは少しだけ笑い、窓を大きく開け放つ。
そして、力強く腕を振り抜いた。
「返してやるよ、この言葉! 」
紙は風に乗って舞い上がり、青空へと吸い込まれていく。
高く、高く、見えなくなるほどに。
ふと、雲の切れ間に、薄く浮かび上がる顔があった。
それは確かに……アバマの笑顔だった。
風の音が、どこかで「イエス・ウィー・キャン」と囁いたように聞こえた。
カードは静かに目を閉じ、深く息を吸った。
「フッ……やはり、簡単には引退させてくれないか」
窓の外、ホワイトハウスの庭では、新しい時代を祝う星条旗が風に翻っていた。
それはまるで、カードとアバマ……二人の大統領の想いを繋ぐかのように、力強く、誇らしげに輝いていた。
そして、カードは執務机に戻り、椅子に深く腰を下ろした。
「さて……この国の未来を再建する時間だ」
その声には、過去の戦いを超えた静かな覚悟があった。
机の上には、空っぽになった封筒だけが残っていた。
窓の外では、風が再び吹く。
どこからか微かに、あの声が聞こえた気がした。
「……Yes, we can.」
カードは笑みを浮かべ、天井を見上げた。
「そうだ。私たちならできる」
ホワイトハウスの時計が正午を告げる鐘を鳴らす。
……新たな大統領、カードの時代が、静かに幕を開けた。
第1部完
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この物語を読んでる人にだけにカードの声が聞こえる。
「私の活躍はまだまだ続くが一旦ここで終了だ。」
「私の活躍の続きを読みたければ、エックス・インスタグラム・フェイスブックといったSNSでこの作品の良さを広げるといい。」
「大手出版社に評判が届き書籍化が実現すれば、続きが読めるだろう。」
「それでは私の支持者たちよ、また会おう」




