表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
某国大統領、異世界転生す。  作者: シンジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/62

第62話「大統領からの招待状」

 夜の風呂リダの空は、静寂に包まれていた。

 湯気を立てる露天風呂に、カードの逞しい肩が沈む。湯面が月光を反射し、銀の揺らめきが肌を撫でるように広がっていた。

「……ふむ。静かすぎるな」

 湯の心地よさに身を委ねながらも、カードの思考は休むことを知らなかった。頭の中に浮かぶのは、これまで幾度となく戦ってきた「黒いフードの男たち」のこと。彼らは皆、死の間際に口を揃えてこう言っていた。

 “あのお方のために”


 その言葉の響きが、未だに耳の奥でこだまする。

 さらに不可解なのは、彼らが持っていた“他者に力を与える”能力だった。元サル人間のゴルファー、そしてスパイア鉱山を支配していたゴルン……どちらも同じように、何者かから力を授けられていた。


 カードは湯に顎まで沈め、目を細めた。

「……つまり、すべての元凶はあのお方という存在か。だが……奴は何者だ? 」

 風が吹き抜け、湯けむりが流れる。庭の松がざわめき、虫の声が微かに響いた。

 その時、邸内の方から慌ただしい足音が近づいてくる。

「カード様っ! たいへんでございます! 」

 執事の声が響き、数秒後、庭の扉が開く。

 年老いた執事グラントが息を切らせ、両手に一通の封筒を抱えていた。

「何事だ。風呂の最中に騒がしくするとは、貴様らしくもない」

「も、申し訳ございません。しかしこれは緊急でございます。この国の……大統領からの手紙です! 」

 その言葉に、カードは眉をひそめた。

「……大統領、だと? 」

 執事から受け取った封筒は上質な羊皮紙で封印され、金色の紋章が押されている。丁寧に開封すると、中から香りの良い便箋が現れた。

 そこには堂々たる筆跡でこう記されていた。

 

『カード殿。

   貴殿の活躍は我が国においても話題となっている。

   我々は貴殿の功績を称え、特別に“大統領公園”で行われるハロウィンパーティーにご招待したく思う。

 国の発展のため、ぜひご出席いただきたい。

 米リカ合衆国 大統領 』


 カードは文面を読み終えると、しばらく沈黙した。

 やがて湯面に肘を乗せ、低く呟く。

「……米リカ大統領、だと? 米リカ? ……この国の名が、米リカ? 」


 その名を口にした瞬間、胸の奥にざらつく違和感が生じた。

 転生してから、カードはこの世界の地理に大きな関心を持っていなかった。

 だが、“米リカ”という響きは、どう考えても無視できない。

「執事、すぐに地図を持ってこい」

「かしこまりました! 」

 執事が屋敷へ駆け戻り、数分後に大判の地図を携えて戻ってきた。

 カードは風呂から上がるとバスローブを羽織り、湯上がりのまま露台のテーブルに広げる。

 そこに描かれていた国の形……それは、記憶の奥にこびりついた地図とまるで同じだった。

 北に山脈、中央に大河、南西に大都市群……

 まさしく転生前、カードが大統領として治めていた“某合衆国”に酷似していたのだ。

「……まさか、ここが……? 」

 思わず手が震え、地図を握り締める。

 この世界は確かに異世界のはずだった。しかし……もしも、何らかの形で前世の世界が干渉しているとしたら?

 カードはゆっくりと椅子に腰を下ろし、鼻で笑った。

「フフフ……面白い。私の知らぬところで“大統領”を名乗るとは。いい度胸だ」

 執事が恐る恐る尋ねる。

「カード様……お手紙の招待、どうなさいますか? 」

 カードは手紙を指先でくるくると回し、天井を見上げた。

「決まっている。出席する。この私を差し置いて“大統領”を名乗る男が、どんな愚か者か確かめねばな」

 執事がほっとしたように頷き、すぐにスケジュール帳を取り出す。

「ハロウィンパーティーは三日後、場所は首都ワシン郊外の大統領公園でございます。服装は仮装との指定が……」

「仮装、だと? ふむ……ならば、最高の演出をしてやろうではないか。大統領には大統領らしく……真のリーダーの仮装でな」

 カードはバスローブの下から立ち上がり、湯気を背に笑った。

 その笑みは自信に満ち、どこか危険な輝きを帯びていた。

「フフ……面白くなってきた。ようやく退屈が終わるようだ」

 こうして、カードは再び動き出す。

 風呂リダの静寂を破り、彼の新たな舞台……米リカ大統領公園のハロウィンパーティーへと。

 その先に待つのは、偶然か、あるいは必然か。

 しかしカードは確信していた。

 この招待状こそ、“あのお方”へと繋がる糸口であると……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ