第33話『黒幕への宣戦布告』
ラベラルがリングに沈んだ瞬間、会場は静寂に包まれた。
次の瞬間……
「おい、金を返せぇぇぇ!」
「ベットした財産が消し飛んだ!」
「なんでだ、あの巨人が負けるなんて!」
金持ちたちの悲鳴と怒号が渦巻き、VIP席は騒然となった。
賭けた金が紙屑と化し、興奮の熱気は地獄の底に叩き落とされる。
そんな中、会場の奥の扉がゆっくりと開いた。
……カツ、カツ、カツ。
鳴り響く靴音とともに、黒いスーツに身を包んだ男が姿を現す。
冷たい笑みを浮かべたその顔を見て、カードの目が見開かれた。
「……サンズ、だと?」
そう……黒幕の正体は、かつてカードの前世で最強のカジノ帝国を築き、カードを転落させた宿敵・サンズだった。
「まさか、ラベラルを倒すとはな……前の世界じゃ、お前にそんな力はなかったはずだが? 」
サンズの挑発的な声が場内に響く。
カードはゆっくりと闘技場の中央に立ち、眉をひそめた。
「お前も……転生してたのか? 」
「そうだとも」
サンズは不敵に笑い、片手を挙げる。
その瞬間、彼の体から黒い霧が立ち上がり、みるみるうちにシワが消え、背筋が伸び、二十代の精悍な姿へと変わっていった。
「驚いたか? あのお方から力を授かったのだ。お前もその御方の下につかないか? この世界の支配者にしてやろう」
カードは一拍置き、肩をすくめると、笑った。
「悪いが……私の主は私だ。セルフファースト、覚えておけ」
会場の空気が張り詰める。
サンズの目が鋭く光り、不気味な笑みが口元に浮かぶ。
「いいだろう……だが、勝ち逃げは許さんぞ」
しかしカードは
「今更勝負しても換金に回せる資金がないお前に勝っても意味はない」
と笑う。
サンズは指を鳴らすと、闘技場の照明が一斉に落ち、中央だけがスポットライトで照らされる。
「ここで帰れば、サンズから逃げた臆病者として歴史に名が刻まれるだろうな?」
挑発に、観客たちが息をのむ。
カードは一瞬黙り、やがて口角を上げた。
「いいだろう。だが……条件がある」
「ほう? 」
「私が勝ったら、このカジノ……いただく」
ざわめきが走る。
「くくくっ……いいだろう」
サンズは短く笑い、両手を広げた。
「さあ、構えろ。前の世界の借り、ここで清算しようじゃないか」
試合開始のゴングは鳴らされない。
これは公式戦ではない、黒幕と挑戦者の私闘だ。
カードが構えを取ったその瞬間──
「消えろ! 」
サンズが瞬間移動のような速度で間合いを詰め、拳を突き出す。
黒いオーラをまとった拳がカードの頬をかすめ、衝撃波で観客席の壁が割れる。
(なるほど……これは“あの方”の力か)
カードは片目を細め、心の中で呟く。
「だが……それがどうした」
サンズが蹴りを繰り出すが、カードはそれを逆手に取り、足を絡めて転倒させる。
……ドォォォン!
闘技場に巨大なクレーターが刻まれ、土煙が巻き起こる。
「な、何が起きてるんだ……!? 」
「見えない……! 」
観客たちは事態を飲み込めず、ただ悲鳴を上げる。
「さすがだな……! 」
立ち上がったサンズの口元から血がにじむ。
「だが、こっちはまだこれからだ! 」
サンズの背後に黒い影が集まり、異形の腕が現れる。
その瞬間、カードの顔がわずかに強張った。
「……さすがに、ヤバいな」
だが次の瞬間、カードは口元を吊り上げた。
「面白い。お前がどこまで強かろうと……私は私のやり方で勝つ」
カードはジャケットを脱ぎ捨て、観客席に放り投げた。
鍛え抜かれた肉体がスポットライトの中で光る。
「さあ……始めようか」
黒と金の光が交錯し、闘技場に轟音が響く。
宿命の決戦が、今、幕を開けた。




