第32話『決勝戦、黒幕との対決』
決勝戦前、カードは客席で決勝戦の対戦相手のラベラルの試合を見ていた。
身長2メートルを超える巨漢が、笑いながら相手を地面に叩きつけていた。
こん棒を軽々と振るい、一撃で敵を粉砕する破壊力。
その姿は、まさに怪物だった。
(……真正面からの殴り合いは不利か。なら、あれを使うか)
控室でカードは顎に手を当て、冷静に戦略を練る。
1回戦から隠してきた真の実力を出す時が来た。
その時、扉がノックされ、係員の声が響く。
「カード選手、決勝戦のお時間です」
カードは立ち上がり、深く息を吐く。
(さあ、派手にいこうじゃないか)
会場はすでに熱狂の渦だった。
「ラベラル!ラベラル!」
「巨人殺しなんてムリだ!」
「カードのオッズは200倍だぞ!勝てるはずがない!」
金持ちたちは高級ワイン片手に騒ぎ、VIP席では黒幕が足を組んで余裕の笑みを浮かべていた。
しかし、そこにカジノの店員が血相を変えて駆け込む。
「大変です。……もし、もしカードが勝ったら……換金に回せる資金が……!」
「ははははっ!なにを心配してる。ラベラルが負けるわけがないだろう。あれはこの地下闘技場の王だ」
黒幕は豪快に笑い、ワイングラスを掲げた。
決勝戦が始まった。
リング中央には、ラベラルが立っていた。
筋骨隆々の身体、棍棒を肩に担ぎ、ニヤリと笑う。
「老人……こんな老いぼれに時間を割くのか?よく決勝戦まで勝ち進めたな!一撃で終わりだ」
観客席からは笑い声が響き、カードの名前を呼ぶ者はスラムの住民たちだけだった。
カードはリングに歩を進めると、ラベラルを見上げ、軽く肩を回した。
「さあ、かかってこい。もう遠慮はいらない」
ゴングが鳴る。
次の瞬間、ラベラルが咆哮しながら棍棒を振り下ろした。
──ドゴォォォォォッ!!
凄まじい衝撃音が場内を震わせ、リング中央に砂煙が舞い上がる。
「やった!」
「決まった!」
「200倍のオッズで破産するところだった!」
金持ちたちが歓声を上げ、杯を掲げる。
しかし、スラムの住民たちだけは目を閉じ、手を組んで祈っていた。
──ゴゴゴゴ……。
砂煙が徐々に晴れていく。
観客たちが息を呑む。
「……あれ?」
そこに現れたのは、棍棒を片手で受け止めるカードの姿だった。
「……終わりか?」
力を込めると、棍棒がメリメリと音を立てて軋む。
「な、なにぃ……!?」
ラベラルの顔から余裕が消える。
次の瞬間、カードが腕をひねると棍棒は真っ二つに折れ、破片が飛び散った。
「さあ、本気でこいよ。こっちも遊びは終わりだ」
カードが一歩踏み出す。
闘技場がギシリと揺れる。
観客席は静まり返り、黒幕の顔から笑みが消えた。
ラベラルが吠え声を上げ、肉弾戦に突入する。
巨体が振るう拳を、カードは紙一重でかわし、腹に重い膝蹴りを叩き込む。
「ぐっ……ぐぅっ!」
巨体がぐらりと揺れた。
「立て続けに行くぜ」
──バキィッ!
強烈なアッパーがラベラルの顎を打ち抜き、巨体がわずかに浮く。
──ズドォォォォン!
最後は体重を乗せたラリアットが巨漢をなぎ倒し、ラベラルは大の字に崩れ落ちた。
会場は完全に沈黙。
「勝者──カード!!」
実況の絶叫とともに、スラムの住民たちが一斉に立ち上がり、涙を流しながら叫んだ。
「カード!!」
「カード!!」
「俺たちのチャンピオン!!」
黒幕は額に冷や汗を流し、握っていたワイングラスを落とした。
「……まずい、まずいぞ……」
カードはリング中央で観客席を見上げ、満足げに笑う。
「よし……あとは、黒幕を引きずり出すだけだな」
闘技場の上、光を浴びるカードの姿は、スラムの希望そのものだった。




