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第30話『黒幕への挑戦』

 翌朝、カードは地下闘技賭博場の正面玄関に立っていた。

 その背後には、昨日までスラムで肩を落としていた住民たちが、見違えるような姿で並んでいる。

 着飾るために使った金貨の成果──ボロ服はドレスやスーツ、洗い立てのシャツに変わり、顔つきには自信が宿っていた。

「……ポーカーチャンピオン様、お待ちしておりました」

 入口の案内役の従業員が、恭しく頭を下げる。

 カードはにやりと笑い、耳打ちのような声で確認を取った。

「なぁ、人数制限はなかったな? 連れの人間に」

「……はっ。チャンピオンのお連れ様であれば、何人でもご案内可能です」

 従業員の答えに、カードは満足そうに頷いた。

「いいだろう。全員入れてくれ」

 スラムの住民たちがざわめく。豪華なシャンデリアの下、豪奢な階段を上り、観客席へと案内されていく彼らは、まるでシンデレラの舞踏会に迷い込んだようだった。

「……信じられねぇな……俺らが、こんなとこに……」

「カードさん、やっぱりただ者じゃねぇ……!」

 カードは住民たちの後ろ姿を見送り、ゆっくりと拳を握った。

「さて……俺の舞台はこれからだ」


 地下闘技場の受付カウンター。

「……っ、えっ!? ポ、ポーカーチャンピオン様が……参加、ですか……!?」

 受付嬢は目をまん丸にして、カードの登録用紙を受け取る。

「問題あるか?」

「い、いえ! 大歓迎でございます……!」

 受付嬢は慌てて奥へ連絡を取り、カードは控室へと案内された。


 控室は汗と緊張が入り混じった空気に満ちていた。

 鍛え上げた筋肉を見せつける大男、研ぎ澄まされた眼光の槍使い、全身に刺青を刻んだ男、そして一角にじっと座る若い剣士──

 彼らは互いを牽制し、軽く睨みを交わしていた。

 カードが入ってきた瞬間、視線が一斉に集まる。

(……まぁ、そうなるよな)

 心の中で肩をすくめながら、カードは壁際の椅子に腰掛け、目を閉じた。

 観客席に送り込んだ住民たちのことを思い浮かべる。彼らの期待に応えるためにも──派手すぎない、しかし確実な勝利を手に入れる。

 やがて控室の扉が開かれ、係員が声をかけた。

「第1試合、カード選手、準備をお願いします」


 会場の熱気が肌を刺す。

 観客席には煌びやかな客たちと、場違いなほど純粋な瞳を輝かせるスラムの住民たちが混じっていた。

「さあ!! 地下闘技大会、第1試合──!!」

 場内アナウンスが響き渡る。

「挑戦者は……謎多きポーカーチャンピオン、カード!!」

 歓声とどよめき。

「対するは、若き剣の申し子、ジュリオ・フレイ!!」

 対戦相手の剣士は、鋭い目つきでカードを見据えてくる。

 オッズは圧倒的に剣士側有利──カードに賭ける者はほとんどいない。

「武器は必要か?」

 係員が訊くと、カードは小さく笑った。

「必要ない。私の肉体が武器だからな」

 笑う客、驚く客、嘲る客──さまざまな反応が飛ぶ。

 試合開始のゴングが鳴った。

 カッ!!

 剣士は一瞬で間合いを詰め、鋭い突きを繰り出してきた。

 だがカードは、紙一重でその刃をかわす。

(実力がバレるわけにはいかない……)

 剣士の動きを読み、タイミングを見計らい、軽く殴る。

 剣士が怯んだ隙に、足を掛け転倒させる──だが、止めは刺さない。

 観客席が息を呑む。

 剣士が立ち上がり、再び挑む。

 カードはあえて何度もギリギリの攻防を繰り返し、体力と集中力を削っていく。

(そろそろだな)

 剣士が汗だくで突きを放った瞬間、カードは後ろに半歩退き、拳を一閃──

 パァンッ!!

 剣士は仰向けに倒れ、その場で気絶した。

 場内が沈黙する。

 やがてスラムの住民たちが立ち上がり、声を張り上げた。

「カードさん!!」

「やったぞォォ!!」

「勝ったァァァァ!!」

 その声につられるように、他の観客も歓声を上げ始めた。

 カードはゆっくりと剣士のそばにしゃがみ、起き上がった時のために手を差し伸べてから、観客席を少し見た。

(次は……)

 地下闘技場の奥、VIP席でその様子を見ていた一人の男と視線が交わる。

 煌びやかなスーツに、背後には屈強な用心棒たち──カジノの黒幕だ。

 カードは目を細め、口元に不敵な笑みを浮かべた。


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