第29話『地下闘技場の闇』
朝靄の立ちこめるスラム街の広場に、異様な光景があった。
ゴロゴロと転がる大の男たち……昨夜、廃工場跡地でカードに叩きのめされたごろつきどもだ。縄でしっかり縛られ、うめき声を漏らしている。
カードは一人で彼らを順番に引きずり、広場中央に積み上げていた。
「……お、おい……あれは……」
「カードさんじゃねぇか……! 」
スラムの住民たちがざわめき、次々と広場に集まってくる。
女たち、子供たち、老人たち、痩せこけた顔に驚きと期待が交じった視線を向ける。
カードは最後にボスの縄を引いて中央に座らせると、ふっと笑って顔を覗き込んだ。
「さて、話を聞こうか。カジノとの関係は? 」
「……知らねぇ……」
とぼけるボス。
カードは溜め息を一つ吐くと、無言でボスの頭に手を置き……
ギリギリギリ……ッ!!
「ぐぎゃああああああ!! やめっ、やめてくれぇぇ!! 」
アイアンクローがボスの頭蓋を容赦なく締め上げる。
「全部話せ」
「わ、わかったっ!! 話すから止めてくれぇっ!! 」
ボスは泣きそうな声で白状し始めた。
「カ、カジノはよ……普通の客には最初は勝たせるんだよ……それで調子に乗らせて、大勝負させて負けさせる……借金が嵩んだ客は、借金の代わりに地下闘技場に送られるんだ……! 命懸けの試合で勝てば借金チャラ、負ければ……それきりよ……」
「……スラムの住民は? 」
「お、俺らが、あそこから若ぇのを集めて……手っ取り早く金欲しがる奴を、闘技場に送り込んでた……! 」
ざわっ……!!
群衆が騒めいた。
罵声が飛び、石を拾う者、棒を振り上げる者が出始める。
「こんな奴ら、生かしとけるか!! 」
「俺たちの子供が連れていかれたんだぞ!! 」
「処刑だ!! 処刑しろ!! 」
怒りの渦の中で、カードはスッと右手を挙げた。
ざわめきが一瞬、止まった。
「やめろ」
カードは一歩、皆の前に進み出た。
深呼吸し、澄んだ声で広場中に響くように語り始めた。
「ここでこいつらを処刑したとして……
お前たちの生活は変わるのか? 」
住民たちは顔を見合わせ、ざわめきが戻りかける。
「こいつらを殺しても、次のごろつきが現れる。
それだけの話だ」
カードは懐から一つの袋を取り出し、地面にドンと投げた。
じゃらじゃらと鳴る金貨の音が響き、皆の目が釘付けになる。
「こいつらから奪った金だ」
カードは腕を組み、口元に薄い笑みを浮かべる。
「これを……今ここにいる全員に、平等に分けてやる」
住民たちは耳を疑った。
「……!? 」
「……俺たちに? 」
カードは一歩踏み出し、広場を見渡した。
「この金を使え。自分のために……セルフファーストのために、だ」
彼の瞳に力が宿る。
「食い物を買ってもいい。
住む場所を改修してもいい。
家族のために使ってもいい。
だが・・・誰かのためではなく、自分のために使え」
ざわめきが広がった。
不安と驚きと、どこか胸の奥が熱くなるような感覚。
「私を支持するなら……
この生活から、お前たちを抜け出させてやる」
一瞬、広場に沈黙が訪れた。
やがて、子供が小さな声で言った。
「……カ、カードさん……すごいひとだ」
それが合図だったかのように、
住民たちは一人、また一人と、カードの前に集まり、頭を下げ始めた。
「俺たちは……カードさんに従う! 」
「俺もだ……! 」
「生きてやる! もう、ここから出たいんだ! 」
ボロボロの衣服の群衆が、初めて一つの声にまとまった瞬間だった。
カードは満足げに頷き、再びボスに目を向ける。
「さて、お前からも黒幕の情報を根こそぎ引き出してもらうぞ……まだ終わりじゃないからな」
陽光が、廃れたスラム街の広場に差し込み始めていた。




