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逆転トリップ!  作者: ちくわ犬
一章
16/26

カミングアウト

「ぜったい!お、お茶に薬を仕込んだ!あの女!」


ええ、ふらふらするよ。でもね、母性本能舐めんなよ!トモの泣き声で何とか覚醒したんだから!でもこれ、大丈夫なの?おっぱいあげてる母親に飲ますか?普通!なんかトモに障害でも出たらあの家焼き討ちしてやるからな!な、涙出てきた。


「幸太郎!この薬大丈夫なの?なんなの?カオちゃん連れてかれるし!ど、どうしよう!すごい嫌な感じかしない!幸太郎!カオちゃんを連れ戻して!」


「ちょ、サトリ、落ち着いてよ。今、俺たち帰ったばかりで状況が掴めないよ。取り敢えずはヒスイがヒロたちを迎えに行ったから。」


頭を抱える私の背中を幸太郎が擦った。頭がガンガンする。さっき幸太郎とヒスイが帰ってきたけど、あの女が来てから2時間は過ぎている。初めからカオちゃん一人を連れて行くことが目的だったんだ。私たちを歓迎していない璃音だったら警戒されていないことを読まれていたに違いない。でも、どうして……。あの一族にとって私たちは絶縁したい存在なだけなはずなのに。


「どんな薬かはわからないけど、授乳はやめた方が良いよ。サトリはどのくらい飲んだの?」


「私は口付けだ程度だよ。含んだ程度。でも、カオちゃんは一口くらい飲んだかもしれない。」


「変な味しなかった?」


「うう。私、腹立ててたから思いっきり濃いお茶出したかも……。」


こんな事なら湯呑を差し出したカオちゃんに出がらしのお茶を足したりしなかったのに!


「ただいま。どうしたんですか?」


そこへ玄関の方からカバンを抱えたメグちゃんが顔を出した。


「うう。メグちゃん……。」


「とにかく、まだだるいだろ?布団引いてやるから。」


幸太郎が言ってくれるのは有り難いけどのんびりしてる場合じゃない。


「駄目よ、幸太郎。カオちゃんが連れて行かれたのは普通の家じゃないの。伏魔殿よ。悪魔の城なんだから!」


「……わかった。話が先だな。」


「え……カオリさん?連れていかれたって?」


「おか~さ~ん。ただいま~。」


のんびりとした息子たちの声が土間に響いた。ヒスイと帰ってきたのだ。

ガンガン痛んで回らない頭を回転させる。悪い予感が私の心臓を高鳴らせた。私たちは勘がいい。

……それはあの一族の特徴なんだ。




******


大事な話があるとヒロたちは奥の部屋で映画鑑賞させることにした。

カオちゃんのことなのでヒスイも話に参加する。


「話はジイ様がバア様と駆け落ちした時から始まるんだけど……カオちゃんを連れて行ったのは柴山の人間でバア様はその家の長女で跡取り娘だったの。なんでも長女が家督を受け継ぐ家系らしくてね。ジイ様と駆け落ちなんてしたもんだから当時は大騒ぎだったらしいよ。でも、妹が家督を継いでその話は収まったのよ。私たちは絶縁されて、遺産放棄もした。もう、関係ないはずなのに……。」


「カオは連れて行かれた。」


頷く私とヒスイの目が合った。


「カオリが連れて行かれる目的が見えない。なんか他に心当たりは?」


幸太郎の質問に言葉が詰まる。私たちが人にあまり言えない事。


「柴山の家系は女の人に……特に長女に受け継がれる力があるの……。」


「?カオリたち姉妹が「勘」が良いってこと?」


「うん……。そう言ってるけど、本当は第六感の方が強い。その、霊的なものが見える時がある。」


「……。」


「でも、だからって何の役に立つってことは無いよ?この部屋、昔なんかあったな~とか分かるくらいで。私たちの母親も「勘」は良かったけど、事故は防げず……亡くなったから。」


「だからカオリは前の事件の時真っ先にあの部屋に行ったのか。」


「あの時、私もカオちゃんも確実に何かを感じた。あの家の二階には何かあるって。カオちゃんは私よりもそういう力があるし。」


「……何らかの理由でカオのそういう力が必要になったのが理由か?」


「わかんないよ。でも、他に接点は浮かばない。ねえ、法的処置って通用しそう?」


「今のところ、何とも。行く先もわかっているなら難しいと思います。」


「事件性があるってお茶だけじゃ立証されないのかな……。」


「変に騒ぐといらない詮索までされるんじゃないか?俺たちが身動き取れなくなったら?」


「……。」


顏を見合わせた私たちにヒスイの声が届いた。


「他に任せるより先にカオの居場所が分かるなら迎えにいこう。」


ヒスイはまっすぐに私を見ていた。……吸い込まれそうな瞳。もっともこの場で力強い言葉だった。


「OK。じゃあ、メグはサトリと柴山家を調べてよ。俺はカオリを迎えに行く。」


幸太郎が指示を出すとメグが頷いた。


「如月、わしも連れて行け。」


「サトリが良いって言ったから話には参加してもらったけど、危ないかもしれないからヒスイはここに残って。」


「……。黙っていたがわしは幼子ではない。違う世界から来た中身は大人だ。カオさえ強く願えばカオの元へ行く術もある。」


「はあ?」


幸太郎が大口をあけた。そりゃ、そうだ。ここでカミングアウトとはヒスイらしいよ。


「サトリ殿。なにか武器になりそうなものは無いか?わしは体が小さい分不利だが剣術には自信がある。」


「ふえ?剣?鬼丸はあるけどあんなもん持ってたら銃刀法違反だよ……。」


「懐刀でよい。」


「う~。確か鬼丸の近くにあったかな。」


「見せてくれ。」


「ねえ?なに、普通に会話してるの?サトリは納得してんの?その……」


「ヒスイの中身?こんな世間慣れした幼児いる?大人の方がしっくりくるでしょ?」


「確かに、思い返せば目をつぶれば大人ですね。」


メグちゃんの方が順応性がいいのかうんうん頷く。

とにかく危ない家に行くのだからヒスイの言うのも一理ある。自分たちの身勝手で誘拐する連中なんだから。


私は鬼丸の仕舞ってある部屋にヒスイを案内する。ぞろぞろと男二人も付いてくる。ああ、でもあれ、気持ち悪いからヤなんだよな。




*******




ここ最近カタカタ鳴りだした気持ちの悪い箱の横に手を伸ばそうとしたとき、ヒスイが鬼丸が見たいと言い出した。


「ちょ~嫌なんだけど、ヒスイくん。」


「サトリ殿、その箱をこちらに。」


おいおい、いくらヒスイが気に入っても鬼丸は持たせないぜ。


「ホント、見るだけだよ。」


「……。」


黙って頷いたヒスイが鬼丸の箱を手にしたとき、わかりやすいほど箱がカタカタと揺れた。な、なんだ?

蓋を取ったヒスイが鬼丸を見つめた。


「お前もこちらに来ていたか。……琥珀。」


そう言うヒスイが指で何かを描く。鬼丸はカタカタと震えながら白く光りだした。


「な、な、なんなの!?」


驚いて声を出した私と呆けてみる残りの二人。光はどんどん大きくなってやがて消えて行った。

……その大きな黒い影を残して。



******



「翡翠さま!」


大きな光の後で現れた身長二メートルは軽く超えているだろう大男がヒスイにすり寄る。まるで、大型犬だ。ただ、その姿は異様で……まるで


「お、鬼……?」


私たち腰を抜かしたと思える3人などまったく気づいていない風なその大男の顔は目の周辺に赤と黒の縦に走る刺青があり、眉毛がほとんどない。頭はスキンヘッドで角らしきものが3つほどついていた。プ、プロレスラー……。ってか、なんだあれ!?ただ、着物はヒスイが初めてここに来た時のものに良く似ている。


「こんなお小さいお姿になって……。」


鬼はおいおいと泣き出した。……泣き上戸かよ。


「琥珀。苦しい。すこし、離れろ。」


ヒスイが困った顔でそう言うと鬼が離れて片膝をついた。


「翡翠さま、御傍に居ながら参上が遅れて申し訳ありません。何度かこの家の主人とは顔を合わせたのですが、身動きも取れず……。」


「ひ、ヒスイくん?……だ、誰それ?ってか、なに?」


ずっと大口開けていた幸太郎が言った。よ、よく言った幸太郎!


「ああ。わしの幼馴染で、わしの世界ではわしの従者をしていた、琥珀こはくという。姿とは反して心優しい男だ。」


平然と話すヒスイに絶句した幸太郎の目が「痛い子だと思ってごめん」とヒスイに語っていた。



「翡翠様、この者たちは?」


探るように鬼がヒスイに尋ねる。


「ここでの生活でわしを支えてくれている者たちだ。」


そう答えるヒスイに鬼はホッとしたようだった。危害を加えている様でもあれば喰ってやる的な目をしてるよね。こわっ!


「さ、左様ですか。……翡翠様をお守りするは私の務め。今までよくぞ無事に守ってくださった!」


大きな体を半分に折った鬼は丁寧に私たちに頭を下げた。


「い、いやいや。守ってって、大袈裟なことはしてないから……。」


正直、怖いからあっち行ってくれ。


「ヒスイくんって従者が付くような身分なの?」


……。そういやなんかいってなかったか?しかし、幸太郎、よくこの状況で質問出来るね!

私がそう思うや否や頭を下げていた鬼がヒスイを黄門様のように紹介した。


「ここにおられる翡翠様は水の國の第二王子である。そなたたち、少し、馴れ馴れしいのでは?」


「それは、よい。琥珀。それより急ぎの用がある。その姿では目立つから変化しろ。」


「し、しかし。翡翠様……。」


「いいから、変化せよ。」


「……翡翠様、どのような人型に?」


「そうか。……サトリ殿すまぬが琥珀に人物像を送ってやってくれぬか。琥珀はその姿になれるゆえ。」


「へっ!?」


私が答える前に鬼が私の手をそっと両手で挟んだ。それだけでも血の気が引いた私に考える余裕があるわけなかろう!?ええ~っと、な、なんなの!?

 

「……。」


そう思って前を見ると、さわやか青年が白い歯を輝かして笑っていた。そ、そうか、私が想像した人物像になれるって事だったのか!


「し、シウォン!」


「……。」


「……。」


ガツン!


次の瞬間幸太郎のゲンコツが私の頭に見舞った。


「な、何すんのよ!?」


「サトリ!お前!いまどき人気絶頂の韓流スターにしてどうするつもりだ!?これで電車乗ったら目立つだろうが!」


「!で、電車に乗らなきゃいいでしょ!」


いや、でも目立つのは目立つ。だっていきなり言うもんだから!


「……。だったら幸太郎がやればよかったじゃん。」


鬼にいきなり手を握られてこっちだって心の準備がさあ!

私の声を聞いて鬼が幸太郎の手を握ったのが見えた。さぞかし平凡な姿の人でしょうねえ……。


「……。」



「……。」



ガツン!


今度は私が幸太郎にゲンコツを見舞う。


「な、なんだよ!」


「ばか!幸太郎こそAMB47の「みったん」想像してんじゃないわよ!」


目の前には短いチェックのスカートの制服を着たアイドルがキョロキョロしている。


「……翡翠様。どうすれば……。」


……こ、声は鬼のまんましゃがれたままだ。横の幸太郎が狼狽した。あの顔でそりゃないよね!……私たちのやり取りを見てヒスイが困った顔をした時、黙っていたメグちゃんが口を開いた。


「ヒスイくん。ヒスイくんのお父さんの姿になってもらったらどうです?ヒスイくんの親戚って設定ならいろいろ便利かもしれないですから。」


「お、お、お、大殿のお姿など!恐れ多い!」


「……。」


それを聞いたヒスイは少し何か考えていた。


「父上でなく、兄上になれ、琥珀。わしに考えがある。……サトリ、すぐ用意してほしいものがあるのだが。」


用意するものをヒスイに耳打ちされて私は目を見張った…。


「そ、それってどうするの?」


「わしが使うに決まっている。きっとカオの守りとなる筈だ。」


一瞬変態かと思ったがヒスイの目は真剣だった。

……わ、わかった。すぐに用意するから!


私はヒスイに指定されたものを取りに自分のマンションへと走った。



え~。韓流スターと某アイドルは架空の人物です。アシカラズ。

突っ込まないでくださいね(汗)

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