「検索履歴は消した方がいいて?」
ある日の朝。俺は、全身全霊をかけ集中していた。
自室に籠り、適当に取り寄せた石や鉄くずを並べては四苦八苦な表情を作る。
「どれもこれも、全然変換できない……」
俺は試していた。
何をと言われれば、いわゆるスマートフォンの改良である。それも、それもだ。
「やっぱり、異世界まで繋がる回線なんかできないよな……」
元いた世界とのネット回線を繋げるという壮大で、荒唐無稽な計画である。
といっても、あくまで物は試しの範囲であって実現できるとは思っていない。
ただ、できればいいなと考えていただけなのだ。
希望八割程度だが。
「あ〜あ。回線繋がればな……」
ネット回線が繋がれば色々なことが可能となる。
情報を集めるなんてできるし、動画さえ撮れればちょっとした小銭稼ぎさえできそうだ。
といっても、その収入がどこに入ってくるかなんて分からないが。
なんにせよ、便利で人を堕落へと陥れた文明に触れてまず最初にすることは。
「検索履歴とスケベ画像とか消さなきゃ……」
数多のピンクのものの消去である。
それが唯一の心残りであって、もしそれを家族に見られているのならば、俺は死んでいてなお汚名を刻みつけることとなる。
例えば、――の――な温泉旅行とか。
――素人ナンパ つゆだく増し増しとか。
――女子高生――初めての――と初体験とか。
「でも、無理そうだな……かぁ、俺のお宝達とのお別れがしたかったんだが、仕方ないか……」
諦めるより他ない。
そもそも、回線が繋がったとして世界を跨ぐような強靭なものがあるとも思えない。
いや、元いた世界が異世界を発見するような進化を遂げていれば別だろうが、そんな可能性を探るよりかは諦めた方が懸命だ。
「この鉄くずどうしよ、新しいスマートフォンの材料にするには安物だから性能落ちるしな。アップグレードにもできないし、緊急の修理部品に変換しとくか……今日は疲れたから、いつかしよう。いつか、ね。忘れてなければ」
そう言いながら、向き合った机の引き出しへと押し込む。
多分、忘れた頃には錆び付いているかもしれない。
まぁ、その時は申し訳ないと捨てるより他ない。
「てか、この技術を誰か買ってくれてもいいのに、誰も買ってくれないどころか見向きもされないのどうかしてるだろ」
スマートフォンという便利な道具を、この異世界は見向きもしないというより、見るだけの暇がないようだ。
仕方ないといえば仕方ない。
例えば、俺がいる辺境の村は基本的に国境に位置しているため、他国からの侵入者がいないよう警戒したり、交易の積み荷の確認だとか、自国へ魔物が入り込まないような役目を与えられている。
そんな村であるなら暇なんてない。
朝は手早く食事を済ませ、仕事へ向かい。
夕方帰れば、明日のことを考え早めに就寝する。
その繰り返しであって、そういったサイクルである。
だからこそ、娯楽といったものが全くといっていいほどない。というより、楽するより働けという考えなのかもしれないが。
「なんで、小さい子まで働かなきゃいけないのか。適当に遊ばせて、走り回らせればいいのにな」
人手が足りない。
それに尽きるのだろう。
だからこそ、幼なじみであるクルフも狩人として出掛けているし、アロマも農作業に勤しんでいる。
「そんな中で、家に引きこもって機械弄ったり昼寝して、のんべんだらりと過ごすのって最高だな!」
あぁ、甘味であり甘美だ。
汗水垂らして働いている者を眺めながら、好きなことをするのは蜜を味わうよりも筆舌に尽くし難い。
とにかく、気分はいい。
「さて、今日も労働者の声を安眠用BGMにしながら、寝るとするか」
負い目なんてない。
罪悪感なんてこれっぽちもない。
むしろ、清々しい気分だ。
そんな俺が惰眠を貪った直後の夕食時。
「ユサチ、明日一緒に狩りに行くわよ」
突然、クルフからそう申し出があった。
それも、真剣な顔というか、切羽詰まったような表情で。そんな顔もできるのかよ。
元々の筋肉美少女だった面影は引っ込み、すっかり美人への道を進んでいるように大人びていた。
そんな顔がいい奴の話を俺は――
「嫌だ、断固として拒絶する」
断ったはずが、顔が変形するほど殴られたことで了承へと最終的な変化を遂げた。
この村には、ニートである時点で拒否権なんかないも同然なのだ。
ブクマ、評価ポイントありがとうございます。
そして、いつも読んでいただきありがとうございます。
早いもので、もう少しで本格的に書き始めて一年となるわけですが、何か成長したのかと考えても思いつかないくらいには、楽しんでいたような気がします。
これも一重に、読んでいただける皆様のお陰です。
私の作品で、なにか伝えられれば幸いです。




