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緑の風

「どう? なにか、変わったところは、ある? 」

 マトイが、興味深そうに目を輝かせて、そう尋ねてくる。

「いや、正直に言って、全然わからない」

 俺はそう首を振った。


 確かに、身体の周りに金色のオーラが張っていたし、全身に漲るものはある。

 だが、だからと言って、特別なにかが変わったようにも思えないのだ……。


「魔物の場合、種族としてのランクがあがれば、自分の固有のスキルが上昇するものです」

 アオが顎に手を当てて、思案しながら言った。

「私の場合ですと、手から出せる、青蛇の数が増えます。ご主人さまの場合でしたら、“修理”スキルに、なにか、変化が生じているのではないでしょうか」

「なるほど……」


 そう言われた俺は、試しに、近くにあったぼろぼろの錆びた剣に修理スキルを当ててみた。

「“修理”――」


 だが、特別普段と変わりはない。

 普通に、錆びていた剣が新品同様の品質に回復しただけだった。


「変わらないな……」

「いつもと、同じ……。じゃあ、なんなんだろう? 」

「なんなのでしょうね……」

 と、三人で首を捻っていた。


 そして、結局、その答えはわからないまま、その日の午後となった。



 ……



 いよいよ精霊都市に出発をしようと、荷馬車に荷物を詰め込み、城の前でみんなと別れを済ましているときのことだった。

 城の門を出た少しさきの田畑に、痩せ細った、一匹の爛れ馬が出てきていた。


「おお、魔物ではないか」

 見送りに来てくれていたシウが、そう呟く。

「城の近くで魔物を見るなど、久しぶりのことですな……! 」

 感慨深そうに、ムラサミがそう呟く。


 そのとき、

「……ご主人さま、魔物に修理を当ててみたらどうです? なにか、今までと違う変化が見られるかも知れませんよ? 」

 と、突然アオが言った。

「……確かに」


 そして、俺は爛れ馬に近づいていって、その体に直接修理スキルを当ててみた。


 ……正直に言って、ある種の予感を俺は抱いてはいた。

 この世界では、スキルや固有職に関することは、基本的に「勘」で把握できる。

 自分のことは自分の体がよく知っているというか、知識というよりも、勝手に身体が動くという感じなのだ。



「“修理――” 」



 俺が爛れ馬の体に固有スキルを当てると……、



「!?? 」


 なんと、その状態から、一気に爛れ馬の身体が素材化し、それと同時に、結晶化した。


「……今、()()()()()()()()()()()()()()()()?? 」

 アオが近づいてきて言う。

「……した。それに、身体から、肝や尻尾も取ってない。なのに、()()()()()()()()()()……! 」 

 俺が手を触れた爛れ馬は、今や、地面で生き生きとした臓器と、結晶に変わっていたのだ。


「そ、そんなの、あり、なのですか……?? 」

 思わず、ムラサミがそう唸る。

「戦わずともして、魔物を結晶に変えるなど……、もはや、神ではないですか……! 」

 シウは、腰を抜かしそうなほど驚いている。


「そう言えば、聞いたことがある……」 

 見送りに来てくれていた王が、そのときに、こんなことを話し始めた。

「……大昔、この世界にはひとりの英雄がいたそうだ。その男は、当時魔族に掌握されていたこの世界を、人間族の手に取り戻したという。なんでも、その男は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という。……かくして、男の力によって、魔族は西の奥地に追いやられ、人間族は平和を取り戻した、……と」


「まさに、今、ご主人さまが使った力が、それに似ていますね……! 」

「もしかして、俺、その、伝説の力の持ち主だった、ってこと……?? 」

「わかりませんが、魔族のグレンフリードも、それと近いことを言っていましたよね」

「うん、言ってた。修理士が人間界に現れたら、魔族は終わりだ、って」とマトイ。


「確かに、触れただけで結晶化出来るなら、魔族にとって、これほど恐ろしい力はありません……! 」

 自分も魔物だからか、すっかり青ざめたアオが言う。……いや、そもそも青いが……。


「ピギー君、君はいったい、ホントに、なんなんだ……?? 」

 王が困惑して、そう言う。

「い、いや、僕も、わかりません。この力、いったいなんなんでしょう?? 」

 俺自身も困惑して、自分の手を見つめる。


 だが、少なくともはっきりしているのは、魔族にとってこれほど脅威となる力はない、ということだった。


「修理士が人間界に現れたら、魔族は終わる、か……」


 俺はつい、そう独り言を漏らす。


「もしかしたら、私達は今、歴史的な瞬間に立ち会っているのかも知れませんな……! 」


 呆然と俺を見ていたシウが、最後にそう漏らしていた。




 ……



 城を旅立つときに、ムラサミとシウが予め準備していたのか、巨大な大砲を空に向けて撃った。

 すると、威勢の良い轟音がエディーガーデンの国中に響いた。

 ……多分、俺たちの知らない間に、国中に触れ込みを出してくれていたのだろう。


 気がつくと、城の至るところに兵士たちが出てきて、街では、住民たちが一斉に外に出てきてくれていた。

 そして、彼らが、疑いの余地がないほど無垢な笑みで、俺達に手を振ってくれていた。



「……ピギー、みんなが手を振ってるのは、ピギーにだよ。……ほら、軽くで良いから、振り返してあげて。みんな、この国の救世主に、感謝してる」

「お、俺かな?? マトイに、じゃなくて?? 」

 マトイが首を振る。「さあ、早く。ピギー、みんな待ってる」


 恐る恐る、俺は手を挙げた。

 相変わらず被害妄想気味で、小心者の俺は、こんなことをしても、きっとみんなから無視されるだろうと心配していた。



 ……だが、俺が手をあげると、外に出てきてくれていた数え切れないほどの民衆や兵士が、一斉に声をあげた。

 その膨大な数の歓声は、ひとつひとつが紛れもなく「感謝」だった。

 耳を澄まして彼らの声に集中すると、ひとりひとりが夢中で「ありがとう」と言っているのが聞こえたのだ。


「……ね、言ったでしょ」

 俺の手を握って、マトイが言った。


 思わず、涙ぐみそうになりながら、


「……うん」と俺は答える。「やっと、少し実感が湧いたよ。俺、ほんとに、この国を救ったんだね……」


 すると、俺の手を握りしめたマトイが、やはり軽く涙ぐみながら、「今更? 」と笑った。



 ……



 エディーガーデンの国から精霊都市までは、ユウリス渓谷を抜け、北に400kmほど進んだ先にある中継の村を抜け、さらに300kmほど北上したところにある。

 ……精霊都市は、エディーガーデンとムルナグルと違い、人間族によって統治されていた。

 都市の歴史は古く、その都市が抱える最古のダンジョン――精霊の樹――を攻略したものには、どんな財宝も敵わないほどの素晴らしい褒美が待っているという。

 その噂のためもあり、今も世界中から冒険者達がその都市に集まっていた。

 そして、ティスタさんたちも……。


 巨大化したアオに荷馬車の紐を加えさせ、俺とマトイはなかに乗り込んだ。


 最後に、国王が前に出てきて俺に握手を求めてきた。


「……ピギー君、マトイをよろしく頼む。……多分、君に次に会うときは、この国を君に譲るときになるだろう」

「そんな、……僕なんて、まだまだです。国王も、どうか、お元気で……! 」


 王は、にっこり笑うと、俺の肩を強く叩いていった。

 まるで、俺たちの間には、男同士にしか感じられない確かな友情があるのだ、というように。


「そうそう……」

 と、荷馬車に乗り込もうとする俺たちに、王がこう付け加えた。

「噂で聞いたんだが、精霊都市には、ほかの大勢の転生者も向かわされているらしい」

「え、なぜです? 」

「さすがに、精霊都市の異変に、ムルナグルの連中も気がついたんだろう。……一応は、周囲の安全のために転生者を派遣したのだろうな」

「転生者、か……」


 俺は、若干憂鬱になった。

 元クラスメイトたちに顔を合わすのは、かなり久々のことだったのだ。



 そんな俺の気持ちを察したのか、

「……ピギー。私がいて、まだ不安? 」

 と横にいたマトイが俺を見上げた。

「マトイ……」

 見下ろしたマトイの目は、俺への愛情と、俺には計り知れないほどの強い意志の力が漲っている。


「いや……」と俺は答える。「全然。今はもう、怖くないよ」

 すると、マトイが俺を見上げたままにっこりと笑い、

「……そうでしょ? 」

 と俺の手を引っ張って荷馬車に乗り込んだ。



「良いですね、行きますよ! 」



 荷馬車の先頭から聞こえるアオのその掛け声で、一気に荷馬車が走り始めた。

 窓から見える風景はみるみるうちに背後に遠ざかり、顔を出して後ろを振り返ると、あっという間に城はちいさくなっていた。


「ピギー、……感じる? 」

 隣の席に座った、マトイが呟く。

「マトイ、なにを? 」

「この匂いと、この風を」


「匂い……? 風……? 」

 俺は、辺りに漂っている風の匂いに集中した。


「……エディーガーデンの国は昔、自然に溢れていて、美しい緑の国と言われていた。だけど、魔物が溢れ、国は崩壊し、自然は一度、あとかたもなく消え去った」



 マトイは、目を瞑り、懐かしそうに続けた。


「……でも、感じるでしょ。緑豊かな国にしか存在しない、この暖かな風の匂いを」



「ピギー、この風は、あなたがこの国に取り還してくれたものだよ」


「マトイ……」


 窓の外に目を遣ると、城をかなり離れたのに、今も延々と田園風景が広がっていた。

 そしてその田園のなかで、今も作業をするプラント士たちが、俺たちに気づいて、手を振ったり、背筋を伸ばして敬礼してくれていた。



「さあ次は、さらっと精霊都市の問題を、解決しようか」


 耳に触れたマトイのその一言が、まさにこの国の風のように、俺たちのいる馬車の空気を、いつまでも暖かくしていた。

  

 「そうだね……」

 

 マトイの一言に勇気づけられながら、来た当初とはすっかり生まれ変わったこの国の優しい大気のなかで、俺は遠ざかり続ける大勢の仲間たちを振り返った。


 「さようなら、みんな。この国は、良い人ばかりだった。俺たちが戻って来たら、また会おう……」



 




これにて四章は終わりですm(_ _)m

次章より精霊都市編を書こうと思います。

プロット作りに少し休むかもしれません。ご了承下さいm(_ _)m


最後に、いつも読んでくれている方、本当にありがとうございます!

小説を書いていると、結構孤独感に苛まれることもあって、「この展開で良いのかな……」と悩むこともしばしばです。

そんななか、ポイントを投票してくれたり、ブクマしてくれたり、感想を書いてくれるひとがいると、本当に心が救われます。「よっしゃぁ頑張ろぉぉ」という気になります。

ここまで読んで、少しでも続きが読みたい、面白いと感じて頂けたなら、ポイント投票、ブクマのほうよろしお願いします。作者としては、死ぬほど嬉しいですm(_ _)m

では、次章でお会いしましょう~(*´ω`*)


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