変化
倉庫にあった素材は、大雑把に列挙すると、
紅の吸血鬼の牙が8万本、尻尾が4万本、翼が約8万個あった。それから、爛れ馬の尻尾、胃袋、肝が2万ずつ。不気味花の花びら、雄しべが15万ずつ、雌しべが3万本、人喰岩の肝が5千個、人面こおろぎの触覚が1万本、肝が5千個、掃き溜めゴブリンの肝、尻尾が1万個、大蜘蛛の触覚が4万本、脚が12万本、狡猾ラクダの尻尾、肝がそれぞれ1万個、砂犬の牙が2万、尻尾、肝が1万個、風船トカゲの尻尾が1万、悪食スナネズミの尻尾と肝が1万ずつ、ひしめき蝉の肝が5千個、粗製の豚の舌と肝がそれぞれ5千個ずつ、毒うさぎの皮、肝が5千個で、耳は1万個、闇犬の尻尾と肝が5千個ずつ、涎苺の実は全部で2万5千個あった。
その素材の数、すべて合わせて、約92万5千個。
城の倉庫3つにぎっしりと詰まったこれらの素材を見たゾフさんは、もはや驚きを通り越して、半笑いを浮かべながら首を振っていた。
ゾフさんはてきぱきと素材をチェックすると、いつもの従者に命じて早くも素材を荷馬車に運び始めていた。
と言っても、数が膨大過ぎるあまり、その作業は一日経ってもまだ続いていたが……。
「じゃあ、ピギー君、支払額を発表するよ! 」
ゾフさんも妙なテンションになって、そう叫ぶ。
「は、はい……! 」
と、思わず、俺もツバを飲む。
「総額、金貨27万6千枚だ」
あまりの金額の多さに、さすがに、たじろぐ。
「それから、ピギー君、以前話したことだが、どうだ? そろそろ結晶を流通に乗せてみたいんだが……」
とゾフさんが言った。
確かに、今ここにあるだけでも、結晶は約20万個ほどある。
そのなかから、俺が喰いたいような有能なものはすでに取り分けてあるし、ギルドの冒険者にクエスト達成報酬用のものも、このなかから5万個ほど確保してあった。
つまり、少なくとも、15万個は事実上、結晶が余っていることになるのだ。
ゾフさんの提案は、その15万個の結晶を店で販売する、というものだった。
「だがね、ピギー君。売るなら、エルフ以外の国に限定したほうが良い」
「え、なぜですか? 」
「それは、君のギルドに所属する者は、クエスト報酬で手に入るからだ。……そうなると、店で買うものは、まずいなくなる」
「ああ、たしかに、そうですね」
「だが、ほかの国では、結晶は一切手に入らない。逆に言えば、かなりの高額に設定しても買うものがいるということだ」
「高額って、いくらぐらいですか?? 」
「結晶ひとつで、金貨10枚だ」
「き、金貨10枚!?? そんな金額で、売れますかね……?? 」
武器で言うと、クレイモア一本が銀貨12枚ほどだったから、金貨10枚ともなると、超高級品を越える特上品のレベルの品ということになる。
だが、
「売れる」とゾフさんは断言した。「結晶を喰えば、基礎ステータスが上がるんだ。買いたいやつは、必ず大勢いる。それに……」
と、ゾフさんはある考えを話した。
それは、このエルフの国の閉鎖性についてだった。
エルフの国は、エディーガーデンとムルナグルの2つの国がある。
だが、そのふたつの国は、世界の極東に位置し、ほかの多くの国との国交を殆ど持たない。
エルフたちはほかの種族に対して差別的で、多種族との交流を持ちたがらない。
普段はその悪癖によって嫌な思いをしている俺達だが、今回は、エルフのその習性を逆手に取ろうと言うのだ。
つまり、このふたつの国でいくら結晶を配ろうが、ほかの多くの国では、相変わらず結晶については超希少品として扱われるに違いないのだ。
「エルフの国に限っては、クエスト報酬で配っても良いが、それを知らない残りのすべての国では、高額で売ることにしよう。どうせ、エルフの国には、滅多に他国からひとが来ない。結晶についても、当分は値下がりが防げる」
「その期間中に、ボロ儲けしよう、というのですね? 」
「その通り」
ゾフさんは、悪い笑みでニヤリと笑った。
15万個の結晶を、金貨10枚で販売すると、約金貨150万枚の売上になる。
この世界では、10万枚の金貨を払えば、かなりの大豪邸が立つと言われている。
その金貨が150万枚ともなると、もはや軽い富豪の域に入ることになる。
「そ、そんなに儲けて、良いんですかね……」
怖くなって、思わず、そう呟く。
「良いに決まっているだろう。どうした、ピギー君」
「いや、なんだか、怖くなっちゃって」
「君はまだ、自分の能力の価値に気づいていないようだな」
ゾフさんがそう言った。
「結晶を採れるのは、世界でも今のところ君だけなんだ。そんな君が大儲けするのは、世の中の必然じゃないか。君みたいに、超特殊な人間が、得をしないでどうする? そんな世界があったとしたら、そっちのほうが間違っている! 」
確かに、魔族のグレンフリードも、“修理士”のランクは“原初の魔術士”よりも上だと言っていた。
ずっと無能職と言われていたこの職業だが、彼らが言うように、この職業は超レア職なのかもしれない。
……考えてみると、ある時期から俺は、ずっとこの世界で成果をあげてきた。
魔物を倒し、人を助け、マトイの呪いを解き、青蛇の女王を従え、国を立て直し、魔物の侵攻を食い止めた。
……そろそろ、いい加減、少しぐらいは自分に自信を持っても良いのかも知れない。
「……儲けましょう」
俺は、勇気を出してそう言った。
「この力で、とことん儲けましょう、ゾフさん! 」
「良く言った」
ゾフさんが、にっこり笑ってそう言う。
「君は、まだまだ儲けるはずだ。……それこそ、世界一の富豪になるくらいに。こんなところで、ビビって貰っては困る! 」
その言葉に、一瞬またビビるが、俺は勇気を出して、
「はい! 」
と、そう答えた。
……
その後、俺はゾフさんと別れて「運び士」の部隊を補強した。
運び士系の結晶はあのあとも出続けていたから、それを使って人員をさらに強化したのだ。
《ボーナス》 運び士スキル“運搬”獲得 ×80
《ボーナス》 運び士スキル“運搬”使用時、素材の劣化をさらに削減(大)×600
《ボーナス》 運び士スキル“運搬”使用時、荷馬車速度上昇(大) ×788
《ボーナス》 運び士スキル“運搬”使用時、積載量増大(大) ×567
《ボーナス》 運び士スキル“運搬”使用時、移動時の疲れ軽減(大) ×890
これらの結晶を使うことで、俺は自分専用の特別な「運び士」部隊を作った。
具体的に言うと、エルフの国で冒険者が魔物を倒すと、俺のこの部隊がその死体を取りに行く。
その死体を荷馬車に積み、一定数が溜まると、俺のもとに持ってくる。
結晶の力によって、彼らの運ぶ素材にはほとんど劣化が起きないから、俺は最高の鮮度で魔物を結晶化、素材化出来る。
運び士部隊は、それらの素材を、今度はゾフさんのもとに届ける。
こうすることで、エルフの国で行われた魔物の討伐は、ほとんど自動的に死体→素材化and結晶化→市場への流通が行われるようになる。
簡単に言えば、放っておいても部隊が死体を回収して、金に変えてくれるのだ。
そして、今後は、俺が倒した魔物以外も、延々と魔物が結晶化されることになる。
……最後に、俺は自分用に取っておいた結晶を、一気に摂取した。
このころまでに俺のステータスはかなりの項目がカンストしていたが、この日、俺のステータスはすべての項目がカンストを迎えた。
具体的に言えば、ついに攻撃力、防御力がカンストを迎え、俺は物理攻撃、属性攻撃のほぼすべてを無効化出来るようになった。
いよいよ、俺は無敵の存在になりつつあったのだ。
そして、貯めておいた結晶を喰い終わったとき、俺の身体に妙な変化が起こった。
「……なんだ、これ……? 身体が、若干、光ってる……? 」
身体の表面に、見たこともない金色のオーラのようなものが、纏わりついていたのだ。
「もしかしたら、ご主人さま、私のように、聖獣化したのかもしれませんね……」
と、そのオーラを見つめながら、アオが言う。
「聖獣化って、……俺、人間だよ?? 」
アオは、少し首を捻って言った。
「多分、これほど結晶を喰った人間など、これまでいないのではないでしょうか……。ですから、前例がないのでわかりませんが、この身体の変化は、私達で言う聖獣化に良く似ています」
そして、アオはにっこりと笑って言った。
「ご主人さま、ようこそ、人外の世界へ」
「じ、人外って……! う、嘘だろ?? 」
俺は、自分の身体に急速に起こった変化についていけず、思わずそう零した。
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