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ゴブリン




 二匹目のウルフの皮を剥いだあと、水場をあとにした。

 森の奥のダンジョンに向かってマトイと歩いていく。


 「あれって、誰かに教わったの」

 とマトイが話しかけてきた。

 マトイから話しかけてくれたのは初めだった。そのことが単純に嬉しい。

 「あれって言うのは? 皮剥(かわはぎ)のことか? 」

 「……そう」

 ……今になって気づいたのだが、マトイは恥ずかしがり屋らしい。

 話しているとしょっちゅう顔を逸らすが、どうも見つめられているのが照れるようなのだ。

 (初めは俺のことを嫌ってそうしているんだと思ったが、どうも違うらしいな……)

 話しているうちにだんだんとマトイのことがわかってきていた。

 

 「皮剥は誰にも教わっていないよ。この世界に来る前に前に見たことがあって、やってみたら出来たんだ」

 「……そう、なの? 」

 腑に落ちないようで、マトイが首を傾げている。

 「エルフのひとたちはあんまり魔物の皮を剥いだりしないのか? 」

 「……しない。そういう文化はこの国にはない」

 「そうなのか……」

 確かに美しいエルフの民が魔物の皮を剥ぐような血なまぐさいことをするとは思えなかった。

 (国によって文化が全然違うのかもな……)

 「修理は、ピギーの固有スキル? 」

 とマトイが言った。

 (ピギーって初めて呼ばれたな……。マトイになら、そう言われても嫌な気はしないが……) 

 「そう。国王には無能スキルって言われたけどね」

 「国王は、転生者に戦闘スキルしか期待しないから」

 「それ、エイラさんも言ってたな」

 「うん。みんな、知ってること……」

 それからマトイが続けた。

 「……だけど、物を修復出来るスキルなんて聞いたことない」

 (最年少で大学に行っていたマトイも聞いたことがないスキルなのか……)

 気になって俺は聞いてみた。

 「マトイはこのスキルのことどう思う? 使える、かな……」

 「わからない、……けど、可能性はある」

 とマトイが頷く。

 そして興奮気味に続けた。

 「……というか、興味深い。魔物の結晶も、私は初めて見た。そのスキルがどんな効果を持っているのか、もっと知りたい……」

 研究者としての興味が刺激されたのか、マトイは熱を帯びた声でそう話した。

 「もっと、いろんな魔物に試してみたい。それで、どんな結晶が採れるのか、調べたい」

 「うん。じゃあ、そうしようか」

 「……うん」

 マトイが微かに笑う。

 そしてまたすぐにそっぽを向いた。多分照れているのだろう。

 (最年少で大学に入学したこの娘に褒めてもらえると自信がつくな……)

 (でもそれより、少しずつ心を開いてくれているのが嬉しい……)

 

 「もうすぐダンジョンだ。気を引き締めていこう」

 「うん、私は、準備オーケー……」

 マトイは真っ直ぐ前を向いて頷いた。



 ……



 ダンジョンの入り口に着くと、ちょうどゴブリンが斧を担いで辺りを歩いていた。

 (あれは前に見かけたゴブリンかな……)

 (ゴブリンの区別なんてつかないが、そんな気がするな……)


 (あのゴブリンと今から戦うのか……)

 そう思うと急に手が震えた。

 前のあのゴブリンが冒険者を殺す瞬間を見ていたせいだ。

 (あ、やばい、俺今すごい怖がってる……)

 意識すると急に戦うことが怖くなった。

 「……大丈夫……? 」

 マトイが心配そうに俺を見ている。

 「……大丈夫」

 となんとか答える。


 前にウルフと戦ったときに付いた傷はまだ癒えていない。

 包帯と薬草で治療しているが、歩くだけで痛みが走る。

 (だけど、生きるためには戦うしかない……。やるか……)

 そう決断して茂みの中で立ち上がる。


 「マトイ、魔術を頼む」

 そう言うとマトイが頷き、

 「“麻痺(パラライ)”――」

 とゴブリンに両手を翳した。


 足が震えるのを意識しながらゴブリンに向かって歩いていった。

 ゴブリンは俺に気がつくと、必死に身体を動かそうとした。

 だが、麻痺が効いていて、ゴブリンは身体が動かせない。

 あくびをしようと背伸びをし掛けたその姿勢のまま硬直している。

 

 「ギギッ」

 とゴブリンの歯ぎしりが聞こえる。

 ゴブリンの目の前まで来た俺は、剣を握った腕を高く振り上げて、

 ゴブリンの眉間に向けて思い切り振り下ろした。


 ……ブロードソードがゴブリンの頭部を突き破り、口元まで一気にめり込む。

 深く開いた肉の裂け目から紫色の肉片と血がどろどろと溢れた。

 ゴブリンはまだ身体が動かせないようで、「ギギッ」とさっきと同じ歯ぎしりを漏らした。

 肉のなかに食い込んだブロードソードをなんとか引き抜いて、

 俺はもう一度、同じところに目掛けて剣を振り下ろした。

 

 すると、ゴブリンの頭頂部から喉仏に掛けて剣が深くめり込み、ぱっくりと肉が開いた。

 中から骨と肉の中身が見えている。

 「ギギッ」

 とゴブリンが呟くと、その口元から霧状の血が噴き出した。

 (もう一度剣を振り下ろしておくか……)

 

 と、そう思ったとき、

 

 「危ない」

 とマトイが茂みから呟いた。

 すると、頭部が半分にだらりと裂けたゴブリンが、突然斧を振るってきた。

 ……ビュンッ

 危ないところで、なんとかそれを交わす。

 

 (危なかった……。ゴブリンはハングリーウルフより麻痺が解けるのが早いんだな……)


 ゴブリンはよたよたと俺の方に近づいてくる。

 一歩歩くごとに裂けた頭部がより深く裂けていった。

 ぶるぶると肉の震える音がそこから聞こえてきている。


 (死にかけているな……。動きは鈍いから、これなら殺せそうだ……)


 俺はもう一度肉の裂け目に向けて剣を振り下ろした。

 すると、剣がさらに深くめり込み、ゴブリンの身体は胸元まで裂けた。

 剣がめり込んだその状態で、ゴブリンは動かなくなった。

 

 (死んだようだ……)

 

 「ちょっと、危なかったね……」

 マトイが茂みから出てきて言った。

 「うん。麻痺の時間がウルフより短かった……。初めての敵と戦うときは、今後も注意しないとな……」

 


 ゴブリンの死体を少し離れた茂みに引きずっていく。

 マトイに周囲を見張ってもらいながら売れそうな部位を剥がしていく。

 (ゴブリンの身体で売れるのは、耳と、牙と、尻尾ぐらいか……)

 (あと心臓も結晶化しておこう……)


 耳は根本をナイフで切り取り、牙はナイフの柄で叩き折った。

 それぞれに修復スキルを掛けて、状態を良くしておく。

 尻尾も同じ要領でナイフで切り取り、修復スキルと掛けておいた。

 

 (あとは心臓か……)

 

 ゴブリンの身体は胸元まで裂けているから、その裂けた箇所からナイフで中をえぐっていく。

 人間と同じように身体の左側に心臓が見つかった。

 紫色の臓器がまだ脈打っている。

 ナイフでそれをえぐり出すと、丁寧に手で取り出し、地面に置く。

 修復スキルをそこに当てると、結晶化した。


 (ウルフのものとはまた色も形も違うな……)


 ゴブリンの心臓はウルフのものとは違いとげとげしかった。

 色も若干茶色っぽい。

 

 (これも食べるとなにか効果があるんだろうか……)

 

 結晶のなかではウルフのときと同じように血の粉のようなものがきらきらと舞っていた。


 (魔物の結晶って、不思議な色をしてるよな……)


 (じゃあ、いよいよ、ダンジョンに入るか……)




 現在のステータス


 

 愛称:ピギー

 種族:人間

 同伴者:マトイ(忌み子)

 所持金:銀貨7枚

 所持品:小型のナイフ、ブロードソード

ハングリーウルフの皮×2、ウルフの結晶×2、ウルフの牙×8

ゴブリンの結晶、牙×2、尻尾、耳×2








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