絵画
「是非、美術部の絵画のモデルになって欲しいんです。ダメですか?」
幼稚園から大学までエスカレーター式の学園で、“四季の王子”と呼ばれる4人は、美術部の部長に、そう頼まれていた。
「ダメというか……。モデルを引き受けるとなれば、最低数日は、それに時間が囚われるから。4人一緒に、というなら3日が限度になると思うよ」
春の王子の称号を持ち、学園の誰もが、教師や理事長までもが一目置く男、泉原 賢が4人を代表して答えた。
その賢も、絵のモデルと言われて戸惑っている。一体、なんの絵のモデルだろう。
「3日。もう少し、時間を頂けませんか?」
「題材によって、じゃないかな。4人が全員揃わないと描けないのか、個々でも大丈夫なのか」
何を描くか解らないのに、時間が欲しい、と言われても無理だ、と賢は思った。
「題材は、ギリシャ神話の予定です」
「ギリシャ神話」
おうむ返しに呟いたのは、夏の王子・伊集院 澄人。正直、モデルなんて乗り気じゃない。
「はい! 春の王子様には、全知全能の神・ゼウスを。夏の王子様には、海王・ポセイドンを。秋の王子様には、太陽神・アポロンを。冬の王子様には、冥王・ハーデスを。イメージして描きたいと思っています!」
部長の言葉に、美術部の副部長達も頷く。ちなみに、部活動は、中学と高校が一緒だ。ゆえに、副部長は中学と高校にそれぞれいる。
「僕、パス」
頼まれれば、出来る限り協力を惜しまない賢が、即答した。
「やる気じゃなかったですか?」
秋の王子・玻里宮 諒也が、驚いたように賢を見た。
「全知全能の神なんて、まさにうってつけだと思うが」
冬の王子・紀勢 遥が首を捻った。
「ゼウスみたいに浮気だらけの神を、なんでやりたいって思うわけ」
賢が肩を竦めた。……言われてみれば、ゼウスは全知全能の神で在りながら、ものすごい浮気ばかりのどうしようもない神だ。
「あ! その! 春の王子様がゼウスのモデルをやって頂くことで、浮気ばかりのどうしようもない神というイメージを払拭出来たらいいな、と思いまして」
美術部部長の必死な説得だが、賢は首を縦に振らない。ゼウスのモデルが相当嫌なようだ。
「まぁ確かに、賢がゼウスというのは……。全知全能という部分ではこれ以上ないくらい、ピッタリだけど、浮気してばかりの部分は、当てはまらないよね~」
澄人が呑気な口調で言った。
「春の王子様がゼウスをやって頂けないなら、桃太郎はどうでしょう?」
部長の突拍子も無い代替のアイディアに、王子というより、むしろ学園のキングと影で噂される賢でさえも、さすがに反応が鈍った。
「……えっ? ギリシャ神話から、なんで昔話なの?」
衝撃をやり過ごした賢は、部長に尋ねた。大学生の賢の方が年上なのは明らかなのだが、口調はタメ口だ。それだけ動揺をしているのであった。
「いえ、皆で四季の王子様達をモデルに描く、という話になった時、題材が神話に昔話に聖人に妖怪やモンスターや想像上の動物……と思いつくまま、皆が言ったので」
……。
4人は顔を見合せて黙り込んだ。視線で会話をする。普通の題材が無い。思いつくままって……確かに自由すぎる。後半、人間のモデルは必要無い気がするのだが。
「とりあえず、桃太郎をやる、という選択肢は無いな」
賢があっさりと選択肢を1つ消した。昔話はやらないらしい。
「それとモンスターや想像上の動物とかも無い」
賢の冷静な指摘には他の王子達も頷いた。
結局、最初の神話を題材にした話で落ち着いた。
「とはいえ、僕がゼウスというのは嫌だな」
相変わらず賢はこだわる。神話に落ち着いたなら、納得をすればいいのだが、そういうわけにはいかないらしい。
「そこまでこだわるなら、いっそのことモデルの話自体、断れば?」
澄人の小声の突っ込みに、諒也も遥も頷いた。賢自身、モデルなんて乗り気じゃない事くらい、長い付き合いの3人は解っている。
「確かにそれも考えたけどね。……知ってる? 美術部部長って、一度決めたら、相手が否と言おうと話を聞かない人だって」
賢がため息をつきながら、ヒソヒソと小声で返す。要するに、NOというセリフは、彼女の中で存在をしていないので、ムダな抵抗をしなかったのだ。
「……え? さっき、YESかNOか尋ねていませんでした?」
諒也が目を見張る。
「建前なんだよね、ソレ。ほら、彼女の母親って、あの人だから」
ヒソヒソと美術部部長の母親の名前を出した途端、3人は諦めた。教育委員会にも顔が利く女性で、やっぱり人の話を聞かない。親子だから性格はそっくり、だった。
「それじゃ、別の神話にしてもらう、ということでどうだろう?」
賢の交渉の結果、神話そのものを取り止めてもらう事になった。
「せっかく四季の王子揃い踏みという好機ですから、四季そのものを題材にさせて頂きます」
それなら……と、賢達も納得をして、予定を擦り合わせた結果、1ヶ月後に3日間限定でモデルをやる、ということで話し合いは終わった。
「それにしても、四季を表現する、とは。予想もしなかった」
賢はポソリと呟いた。
それから1ヶ月が経ち、モデルをやったのだが。これもまた、一騒動有った。というのも。
半分ヌードになって欲しい、とか、オールヌードになって欲しい、とか、ムチャな欲求を出してくるのである。いくらなんでも、それは無理だ、と、ムチャな欲求の度に賢が抗議をした。
更にその上、いわゆるBL。つまりボーイズラブのような関係を迫られ、これには賢も最終手段をチラつかせるしかなかった。
つまり。モデル放棄だ。別に4人はお金をもらったプロではない。いわば、ボランティアだ。その好意を踏みにじるのであれば、いかなる状況で有っても、モデルは放棄をする。という約束を取り付けていた。
紆余曲折が有った末に、なんとか4人をモデルとした絵画は、完成をした。
部員達がそれぞれ思う四季のイメージを具現化されたわけだが、部長及び数名の絵画は全国の展覧会に出品されるわけだ、と4人も嬉しくなった。
そして。4人が美術部のモデルになった事がきっかけで、写真部もモデルをして欲しい、と頼んでくるのは、別の話。
お題は「神話・昔話」でした。
この作品に出て来る四季の王子(笑)はだいぶ古いキャラ達です。確か10年以上前に思い付いたキャラだったような……
春の王子こと賢は夏月の(ありがた迷惑な)愛情を一心に受けている子です。夏月の性癖がてんこ盛り←
以上かなり抜粋しまくったお題掌編小説集第2弾でした。
第1弾は38話書き上げましたが第2弾は55話書き上げましたのでかなりの抜粋。
以上を持って完結とさせて頂きます。




