03.
この学園の授業は一般科目と専門科目に別れている。
一般科目は全員共通で学ぶけれど、専門科目は生徒が受けたいものを選択す形になっている。
将来を見据えて、剣術や魔導術だったり、高等算術や経営学など多岐に渡るものの中から自分で考えて習得のために努力するんだ。
そんな中、僕はというと……。
「クレッグ・ヴィシテン、真面目にやってるの?」
呆れをたっぷり含んだ質問、というより詰問に、僕は唇を噛み締める。
今は魔導術の選択授業の最中。
内容は基礎。
世界に満ちると言われている魔導力を自身の体内に吸収し、自分の意志と混ぜ合わせ、超常の力として振るうのが魔導術だ。
その基礎は、魔導力の取り込む事。ゆっくりと、ほんの少しずつ体を慣らしていくのが普通だ。
将来魔導師を目指す人は幼い頃からその訓練をしていて、学園に通う頃には相応の取り込み量を誇っている。
「……未だにこの程度のことも出来ないの? あなたには学習能力がないの?」
半目でそう言うのは、ハリタ・マンドーラ。次期宮廷魔導師長に最も近い男とまで呼ばれる父を持ち、自身も魔導に愛された娘と絶賛される少女だ。
「今まで何をしていたの? 恥ずかしくないの? あなたのその行動がお母様であるヴィシテン様の名声に泥を塗っているというのに」
「ぼ、僕は……」
「喋るな。集中しろ。一秒も無駄にするな」
……取り付く島もない。
はっきり言って、僕には魔導術に対する才能がない。魔導力を取り込むことが出来ないんだ。
では何故、魔導術の授業など選択しているのか。
それは、僕の母が宮廷魔導師だった事が理由だ。母さんは実力で宮廷魔導師にまで登り詰めた人だ。職務で多くの実績を積み上げて、国王様から勲章を貰った人だ。そんな人の子なら英才教育を施されているだろう、と多くの人が思っている。
実際、三つ上の姉さんは学園でもトップクラスの成績を誇っていて、教師たちや視察に来た現役宮廷魔導師たちからの心証も良い。
だから、その弟も。そう考えた学園は僕にこの授業を割り振ったんだ。
選択の余地は、なかったよ。
国を守るためには実力者は多ければ多いほどいい。そのためには才能がありそうな者、見込みのありそうな者には強制的に武術や魔導術の授業を受けさせるんだ。
例え才能も適正もない人間でも、親がすごければそうなる。
「教科書は読んだ? 練習した? 自分の欠点を自覚して直そうとした? 何一つ以前と変わりがないのはどういうこと?」
「以前とい」
「意識を他に向けるな」
「いや僕のはな」
「黙れと言った」
「話を……!」
「【弾手】」
「──!」
世界が、回る。
体に痛みがくる。
ゴロゴロと地面を転がって、止まる。
「あ……つ」
全身が痛い。
上手く呼吸ができない。
苦しい。痛い。何が。どうして。
痛みに耐えるためにじっとしていれば、なんとか呼吸が楽になった。
「けふっ……かふっ」
のろのろと顔を上げれば、こちらをじっと見ているハリタ・マンドーラ。
呼吸が落ち着いて頭がしっかり回るようになって、さっき何が起こったのか理解した。
彼女は、僕の話を聞く気がない。僕が話そうとすると被せるように言葉を放つ。そして強い口調で僕が何か言おうとしたら、魔導術で物理的に僕を打ちのめした。
魔導術【弾手】。初歩的な術で、取り込んだ魔導力をそのまま相手に叩きつけるものだ。
「……弱い。所詮養子か」
そう吐き捨てて、彼女は去っていく。
後に残るのは、土まみれの僕と、それを見て嗤う生徒だけ。
「弱いのなんて……自分がよく分かってるさ……!」