01.
──この力は、使ってはダメよ?
──でも、もしも。
──使わなければいけないのだとしたら。
──命を懸ける時だけにしてね。
──お願いね。
◇◇◇◇◇
僕の朝は陽が出るよりもさらに早く始まる。
眠い目をこすりながら起き出し、井戸から水を汲んで来る。身嗜みを軽く整えてから洗濯物を洗う。
まだ暖かいからいいけれど、寒い時期は本当に辛い。でも日々生活する上で必要だから、欠かすことはできない。
外が明るくなり始める前に終わらせて干しておく。雲一つない夜空だったから、今日も晴れてくれるだろう。
洗濯物が終わったら朝食の準備。スープを作って、パンを薄くスライスして、ベーコンや卵を焼いて、野菜を切る。
作り終われば外は結構明るくなっていて、周囲の家からも生活音が聞こえてくる。
それを聞きながら、僕は二階へ行き、ドアをノックする。
「姉さん、朝だよ。起きて」
外から声だけかける。
中には入らない。
中で動く気配がしたのを確認して下に降りる。
朝食を配膳していると、姉さんはゆっくりと降りてきた。まだ眠そうだ。
「おはよう」
「……はぁ」
チクリと、痛みが走る。
「朝御飯できてるから」
「ええ」
身嗜みを軽く整えた姉さんと一緒に朝食をとる。
「今日はコーンや野菜を使ったスープにしてみたんだ。どうかな?」
「……変な味」
「そ、そうかな? 僕は美味しいと思うんだけど……うん、無理しないで。じゃあ牛乳飲む? あ、果物のジュースの方がいい?」
「……」
姉さんはスプーンを置くと、無言で立ち上がって食材保存庫へと向かってしまう。出てきた時には牛乳を持っていた。
「姉さんの服、乾いているから。籠を持っていってね」
「……リボンとかは?」
「全部乾いてるよ。しっかりプレスもしてあるから」
「そう」
話しかけても、姉さんは一言二言しか話さない。
今この家には僕らしかいないから、団らんというには程遠い。
朝食をすませた姉さんは着替えの入った籠を持って自室に戻る。
女性の身嗜みには時間がかかるから、その間に僕が食器を片付けて、昼食のお弁当も用意する。
とは言っても、パンに肉や野菜などを挟んだ簡単なものだけれど。
きちんと火の始末をして、勝手口や窓の戸締まりも確認する。
あれやこれやと忙しなく動いていると、姉さんが降りてきた。
服装は、僕らが通っている学園の制服だ。白いシャツに濃紺の上着。襟元にはリボン。スカートは焦げ茶色。姉さんは膝丈のソックスを履いている。
「姉さん、お弁当できてるから」
「……いらない。食堂で食べる」
「そ、そうなんだ。早く言ってくれれば……」
姉さんはそのまま家を出てしまう。
……今日も挨拶、なかったなぁ。
僕の家は両親がいない。幼い頃に亡くなってしまった。
父さんは王国騎士。母さんは宮廷魔導師。
国に仕えて立派に務めを果たしていた両親は国の西方で起こった大規模な魔物の氾濫に対処するべく奮闘して、命を落とした。
残された僕らは両親との思い出が詰まったこの家で生活している。
最初、両親の同僚や近所の皆は別の場所への引っ越しや養子縁組を進めてくれた。
でも、両親の死がショックだった姉さん──実は血の繋がらない義理の姉──がこの家から離れたがらなかった。
もちろん僕もだったけど、姉さんはずっと泣いて、食事も喉を通らない状態だった。
両親から、男の子だからお姉ちゃんを守ってね、と言われていた僕は使命感からこの家で自活できるように色々と習得した。
……けれど、その結果、僕の評価は最底になった。




