不憫?なルアズくんでもいいよね?
遅くなってごめんなさい!
カッと言う音が、いかにも似合いそうな感じで、石造りのサークルが一瞬だけ輝いたかと思うと、サークル内の空間がグニョリと歪み、そこから3人分の人影が現れる。
「ム、無事に着いたようだな。」
「ルアズちゃん、ここが学術院よぉ。」
「おー、ここが学術院ですか!」
人影の正体はヴォルヘイム一家だった。
一家が周囲をぐるりと見渡してから、サークルを出ると歪んでいた空間が、
シュゥゥゥゥゥ………
と、塞がっていく。
◆◇◆◇◆◇◆
本来この様な転移系の魔法を、通常の方法で発動するためには3つの障害がある。
1つ目は、小さな町が賄える程の多量の魔力。
2つ目は、多少なりとも名の知れた魔導師系の者達10人程が、脳をすり切れんばかりに組み上げた魔法陣。
そして最後の3つ目は、転送される者が、強靭な肉体か、もしくは卓越した魔力操作を取得している事。
これらの条件を満たして、初めて転移系魔法を発動する事ができるのだが…………。
……この方法では10キロも移動できないうえに、下手に転送した者は2~3日の間疲労で動けなくなると言う、まったくもって意味の無い結果となってしまうのだ。
これら上記の事が有るために、独一魔法【転送双魔】でノーリスクな転送が可能な“転送双魔”のヨグとソートスは重宝されており、今も彼等専用のポータル(ヴォルヘイム一家が最初に訪れたレンガ造りの建物等)があちこちに建てられている程だ。
………ちなみに{条件}の3つ目についての補足をすると、転送と言う物を早く言ってしまえば、物理的な距離をほぼ0になるように強制的にねじ曲げた状態の空間を行き来する魔法なのだが。
そこを通るさいに転送用に組み上げた魔法が、通過している者ですら物理的にねじ曲げようとするためである。
◆◇◆◇◆◇◆
無事塞がった空間を後にしたガイン達は、学術院の門を通り抜けて少し歩いた所にある中庭に着く。
するとそこには、今期入学する子供達や保護者を歓迎し、親睦を深め合って貰うためのさまざまな料理がテーブルに並べられており、もう既に十数組の家族がそれを利用していた。
そんな後景を見たルアズは、バタバタとテーブルに駆け寄り、
「わぁ~。」
と、並べられている料理に驚きの声をあげながら眺めた後、いきなり食べ始めてしまった。
………それは確かにやってはいけない行為ではないが、少々礼儀に欠ける行動と言えよう。
そんなルアズ少年の行動にガインは、「事前に礼儀作法を教えたはずなんだがな……」とゆう思いで、肩を落としながら彼の行動を止めるべく歩きだすと、更なる問題が発覚した………。
…それは、彼が自分の食べて出て来た、食べられない骨や皮等の食べかすをテーブルの上に平然と置いている事だった。
そのため、せっかくの白いテーブルクロスが油や調味料でじわじわと汚れていき、隣に居た親子も彼の行動を不快そうに眺めている……。
ガインはその様子に「問題は礼儀作法うんぬんではなく、俺の躾の方だったか……。」と、今まで息子を甘やかしていた自分自身を後悔しながら------拳骨と言う名の拳をルアズに振り下ろした………。
…
……
…………
「ルアズちゃん、後は自由にして良わよぉ。」
ガインの拳骨とリディアの説教を受けて、しょんぼりしたルアズが両親と共に学術院の関係者や、周りの親子に挨拶をして廻ったのは、もう小一時間程前の事。
おおよその挨拶廻りを済ませて一段落ついたのを頃合いに、リディアはいまだに気持ちが沈んでいる様子のルアズにそう伝えると
「本当ですか!!?」
と、先程までの沈んだ雰囲気が一変し、明る過ぎるぐらいの返事を返してきた。
「ム、だが先程言った事を忘れるなよ?」
そんなルアズの急変ぶりにガインが再度注意をすると、ルアズは元気に「大丈夫です!」等の言葉を言って、両親の側を離れる。
それから暫く、ガインとリディアは息子に気付かれないように、その行動を横目で監視していたが、特にこれといった問題(少々なら有った…)も無かったため途中でそれを止め、挨拶廻りの途中で再会した友人達と昔の話に華をさかせる事にした。
そして自分が監視されていた事も、それが無くなった事も気付いていないルアズは、両親に忠告されたことを(なるべくだが)守りながら、テーブルの上の料理を手に取りながらも次のターゲットを探していく。
そんな中、周りの料理とは一線を引いたような存在を発見してしまう。
それはまるで「おや、わたくしに目をつけるとは、なかなかやりますね……。」と、語りかけてくる様な空気感があるような気がする………。
そんな他とは違う存在感を発する料理に魅了されたルアズは、“それ”が最後の一個だと気が付くと、かなり焦った様子で近付いていったが……。
まるで計ったかの様なタイミングで、彼が手を伸ばした瞬間に女の子が“それ”を攫っていったのだった。
ここでルアズの更なる暴走が発動してしまう。
それは彼が、その女の子に対して
「これ、オレが狙ってたんだぞ!」
と、声を荒げながら“それ”を奪い取り、少女を力一杯に突き飛ばした事だ。
………最低な男の行為である。
しかしながら彼は、先程の説教で対人関係の事については触れられなかった事だし、別に良いだろうと、少しも悪びれた様子も無く、泣きそうになっている相手をよそ目に、奪い取った料理をまるで「所詮この世は弱肉強食!」と言わんばかりに頬張っていく。
そして、その騒ぎに気付いたガインが大急ぎで動きだしだが、それはすぐにリディアに遮られた。
「ム、リディア?」
我が子は可愛いが、躾はしっかりとしなければならない。
いや、可愛いがゆえに、後々に我が子が困らなくて良いようにするために、しっかりとした躾を施すのだ。
今まで、かなり甘やかしてしまったかもしれんがな、とガインは内心苦笑しつつも、そういった考えは持っていたし、妻であるリディアも同意見であった。
それゆえにガインは、妻の取った行動が分からずにいたが、それでも妻に意見しなかったのは、何かしら考えが有っての事だと理解し、それを信頼していたからである。
だからガインは、その場にとどまり、黙ったままルアズの方に視線を戻した。
すると、ルアズに後ろから近付いている少女に目が付く。
パッと見ただけで勝ち気な性格だと分かる少女はルアズに一声掛けると、その顔が振り向くのにタイミングを合わせて、有無を言わさずグーで殴った!
なかなか腰が入った良いパンチだ!と褒めたいぐらいに!
しかし、殴られた張本人は
「ぐぇっ!?」ズベベベ
と、カエルみたいな声をあげながら、軽めのダイブ(顔から)を地面へと行い、痛そうに足をバタバタさせている。
そして、殴った張本人は
「私の親友に何してくれてんだボケェェ-!!!」
と大声をあげながら、更に追い討ちをかけるように、ルアズの腹部を力強く蹴り上げる!
今度も、なかなか腰が入った良いキックだ!
……が、いささかやり過ぎだと思われる…。
そんな、さらなる追撃を食らったルアズは、殴ってきた相手が女の子だと気付くと、只でさえ苦痛で歪んでいる顔に、「なんで女が?」とでも言いたげな困惑の色がブレンドされる。
彼の困惑の要因は、勿論いきなり殴られた事もあるが、どちらかと言えば相手が《女性》とゆう事の方が大きい。
それもそのはずである、今まで《家》と言う閉鎖的な空間で、女性と言えば、母や妹に使用人が主で、後は極まれに客人が来るぐらいでしかない。
そんな中で自分に不都合な事をしてくる相手となると、客人や妹は皆無に等しく、使用人は軽い注意しかしない、母は叱る事もあったが手を上げてくる事はなかった。
つまり彼にとって《女は男(自分)に暴力をふるわない》のが絶対的なルールであり、常識でもあった。
それゆえに、彼は女性に対して強気---とゆうより見下している(母は例外で)と言った方が正しいかもしれないが、そんな態度で接していたのだ。
だがはっきり言って、この考えは世間一般的に間違だと言える。
当たり前の話だと思うが、男だろうと女だろうと関係無く、こちらが相手に直接、もしくはその人が大切にしている者や事柄に危害を加えた場合、多少の反撃をされるのは当然である。
そして、これこそがリディアの狙いでもあった。
自分や夫が、いくら注意しても《糠に釘》状態のルアズに対して、きつめの薬になればと考えて傍観を決め込む事にしたのだ。
結果としては、かなりどぎつい薬になってしまった様だが、まぁそれも良しと言える形になった。
それからほんの暫くして、リディアとガインは、いまだに「謝れボケェ!」と罵りながら、ゲシゲシと蹴り続ける勝ち気な少女と。
「もう、いいよ~!」と勝ち気な少女をなだめている、最初に突き飛ばされた少女。
そして、既に泣き始めている我が息子の3人を、時間をかけ仲裁?する事にした。
この一件で、すっかりおとなしくなったルアズは、自分から問題を起こすことが無くなったため、後はこれといった騒動もおきなかった。
そのため暫しの間、のほほんとしていたガインとリディアだったが、自身等が信頼している使用人からの知らせに、再度気を引き締める事となったのを追記しておく。
…
………ちなみにルアズ君が、説明会で学術院にいる間、周りの女子から完璧に敵視され、トラウマレベルに肩身の狭い思いになった事も………追記しておくとしよう。
不憫って言うか、自業自得ですよね。




