8話 活動実績
「...なんというか良くないことをしたのかもしれない」
「でも、白石さんは月咲くんとローデンくんが会話してたの見てなかったんでしょ?」
あの時、僕はトムと敬語混じりに話していて周囲を見ていなかった。
「周り見てなかったからわかんないんだよね...」
「歓迎会終わったらそのまま下校だったし」
歓迎会は自己紹介の時間から約1時間ほどで終了し、その後は各自で過ごすような形だった。
「そんな気にしてないんじゃない?」
「ならいいんだけどね」
変な行動をしておいて、無駄に人間関係に過敏になるから困る中途半端な性格、ほんと嫌になる。
──キーンコーンカーンコーン。
そんなことを考えていると、最終下校を告げるチャイムが鳴った。
「帰ろー」
いつのまにかスクールバッグを肩に背負った朝川さんが手招きしてきた。昨日と同じく一緒に帰るらしい。
◇
中央高校の最寄りである千葉駅まで歩く。駅までは歩いて20分かかるかかからないかくらい。
千葉駅の近くにはペリエだったりそごうだったりと色々あるので、遊び場には困らないだろう。
「......月咲くんはいつも放課後までいるの?」
藪から棒にそんな質問をしてきた。
「いや、大体6限が終わったら帰ってる」
「体育館にいてそんなのわかる?」
「チャイムの音の数でね、大体わかる」
うちの高校のチャイムに規則性があるわけではないが、何度も聞いていると感覚でわかるようになるのだ。
「なんかちょっとキモいね」
眉を落とし、なぜか罵倒されてしまった。
「はぁ」
キモいという言葉にため息を吐いた僕は、前を見ると見覚えのある白髪が見えた。
どうやら私服姿のようで、昨日とは違い女性と歩いている。白石さんの母親だろうか。歩いている方向的に、僕らと同じく千葉駅だろう。
「......あれ、前の人って」
どうやら朝川さんも白石さんの方を見て気づいたらしい。向こうは気づいていないっぽいけど。
「白石さんって色々あって去年から来てないんだっけ?」
「ん?そう、1年生の序盤は来てたみたいだけど」
急に何?という表情をしてきたが、確認を取る意味合いで質問した。
「後、昨日だかに話題になった不登校の子って言ってたじゃん」
「それね」
少し距離を詰め、囁くように口元に手をやった。
「職員室で、先生同士が白石さんの家庭に問題があるとか、支援クラスの方に入れるとかそういう話を生徒が聞いちゃったらしくて」
「それがクラスラインで拡散されて、学年単位で広まっちゃったみたいなんだよね」
「......」
まじか。クラスライン怖すぎだろ。万一先生同士の会話に遭遇したとしても、その内容を拡散するのは良くないことだと思うが。僕も何か言われたりしてたのかな。
「でも、様子見る限りお母さんとは仲良さそうだけど?」
「ね、詳しくはわからないけど」
白石さんの話をしているうちに千葉駅前に着き、大きい駅前特有の狂騒が耳に響いている。
すぐ横は内房線なんかが走っていて電車の走行音もよく聞こえる。白石さん親子はすでに見えなくなっていた。
「朝川さん」
ビックカメラの前で立ち止まり、いつのまにか隣ではなく目の前にいた朝川さんに問いかけた。
「なに?」
「白石さんにさあの部屋に来てもらうとか、できないかな」
「え?」
「いや、ほら、活動実績って意味では......」
でも、活動実績っていう体だと白石さんを利用しているみたいに見えるか。最低か。
「......でもそれって、私と月咲くんが白石さんを利用してるだけじゃない?」
自分で言っておいて、全く同じ回答が返ってきた。そうですよね。
「たしかに」
腕を組み、人だかりのなか端によって考えていた。あくまで顔見知り程度で気まずい思いをさせてしまっているが、この縁は捉えようによっては助けられるのかもしれない。
「......じゃあ、白石さん本人がここに来たいと思ったら?」
片足をなぜかバタバタと動かしている朝川さんの方を向く。
「それ...」
ハッと目を見開き、互いの目を見る。
「先生は活動実績っていう曖昧なものを提示してきた」
「そこからはズレるけど、学校に行きたくない子への居場所になったら...考え直してくれたりするんじゃないかな」
長考の末、考えた結論がこうなった。
「......それ、アリだね」
肯定の意を示した朝川さん。
「ありありアーリオオーリオでしょ?」
「は?」
「ごめん」
ちょっとシリアスな雰囲気だったからギャグで中和しようと試みたが、普通に失敗したらしい。
「月咲くんもボケるんだね、おもろ」
まるで見直した、というような言い方。
「おもろくない、悪かったな」
「それならまず、白石さんのこと聞かないと」
「そうなんだよね。名前おもし...じゃなくて、高橋先生に聞いてみる?」
「高橋先生だとなんか勘づかれそうだからなぁ」
うーん、と腕を組み考える。
「あーっ!」
何かを思い出した様子で急な大声を出した。横にいた僕は肩をビクッとしてしまう。
ビッグカメラの周りにいた通行人もどうやら聞こえていたようで、数人が朝川さんの方を見ている。ちょっと恥ずかしい。
「白石さんは確か3組だよね?」
「やばい、わからん...」
新入生歓迎会の時は、自己紹介で何組かを言ったけど2年生になってからはそんな機会ないし、ましてや体育館倉庫に引き篭もっていた僕なんかが知る由もない。
「いや、確か3組なんだよ!」
「で、3組の平谷先生はうちの顧問!」
ガッつく勢いで目をキラキラさせている朝川さん。
「ちょ、近」
ただでさえまともにクラスメイトと、なんなら女子と話したことないのに距離感がバグってしまう。
「ごめんごめん」
「平谷先生に何か聞くのがアンパイかもね」
そう言い、急に歩き始めた朝川さん。そういえばここビッグカメラの前だった。
「じゃあ朝川さんに頼んでいいの?」
急いで隣に並び、バスや電車の走行音を横目に歩いていく。
「え?何言ってるの。月咲くんも一緒に聞きにいくんだよ」
「えぇ......」
「あん?行かないとあんたの休息も消えるんやぞ?」
謎にヤンキー口調になっていた。
「わかった行きます。行かせてください」
「よろしい」
とりあえず活動実績どうこうの方針は定まった。今日は金曜日で、土日を挟むので改めて話し合ったほうがいいだろう。
「ばいばーい」
総武快速線に乗り、稲毛で先に降りる朝川さんに手を振り、そのまま解散した。




