1.ヒロインズ
『わたし達と付き合ってください!』
声色の異なる高い周波数の音が不音律で校舎裏に響き渡る。
祭りさながらの騒音に廊下窓から覗く男子生徒……けれど、そこには女子生徒の姿が見えない。
それもそのはず、目の前の女子生徒群にはこの高校のほぼ全ての女子生徒が集結しているからだ。
男子生徒にはさぞかし羨ましい光景が映っているだろう。
かくいう自分は学園でもアイドル的存在で超イケメン……なら納得もいくけど、現実は――
――わたし女の子なんですけどぉー!?
「天崎天海さん、あなたは雄フェロモン症候群にかかってしまいました……。えー、非常に珍しい、ご病気で精密な再検査が必要となってきます」
「雄フェロモン症候群???」
病院にて、わたしの名前と一緒に椅子に座り対面している女性医師に告げられ、口からはてなマークがリアルに飛び出してきた……と思うくらいに疑問が飛び出した。
わたしは医学とか病気に関しては(それ以外もだけど)滅法弱い。
雄フェロモンとか言う耳障りの悪い言葉に取ってつけたような症候群……性癖の捻じ曲がったエロ魔神が作ったゲームの世界みたいな病名に引きながら、どんな病気なのかを聞いた。
「それって、悪い病気なんですか?」
「男性ホルモンが過剰に分泌される病気で……身体には何の異常も起こりませんが……たった一つだけ……問題が……あ……り……ますぅ」
途切れ途切れになっていく医師さんの顔はどんどんと熱を帯びていった。
だんだん妖艶な雰囲気へと変貌していき、その瞳は野獣のものと遜色がなくなっていく。
気圧されたわたしは椅子を倒して、尻餅をつく。
その姿を心配するどころか涎を垂らしてチャンスと言わんばかりの形相を浮かべて言う。
「――それは同性の女性をひどく魅了してしまう特徴を持つのです! そして、あなたはわたしとぐんずほぐれつ食い合うハメになるんです!」
狼のような咆哮を上げ、わたしの両手首をどこから取り出したのか、病院によくある皮の拘束具で固定してくる。
両足も血液を送るチューブで縛り上げられたわたしは、絶体絶命。
「これで逃げられませんねぇ。イイ声で泣いてください……!」
「ッひい、……あれ?」
身体の自由が利かない状況に追い込まれてしまったわたしは、単純な解決方法をふと思いつく。
「キャーー!! 誰か助けて変態よーっ!!!」
女の武器を使って病院内、全病棟に轟くくらいの大声を出した。
手も足も封じられたなら口で対抗すればいいじゃない――名言きたね。
その後、男性陣に取り押さえられた女性医師は告白に振られた女子高生ばりに落ち込みながらお巡りさんの世話になった。
「ふふふ、わたしを捕まえたところで第二、第三のわたしが現れるだけよ……覚悟なさい! っあいた」
「キビキビ歩け、この犯罪者!」「すみません……」警察に小突かれてパトカーに放り込まれた。
最後に言い残した言葉を身に染みて体感するには日数を要さなかったのだった……。
そして、今日に至る。
昨日の今日でこれだ。
あの医師が異常なわけじゃなかったようだ。
答え次第では、また昨日の二の舞になる。
餌を待つ魚みたいに口をパクパクさせながらどう答えるか右往左往していると、女子生徒群を掻き分け助け舟が立つ。
「「「「天海助けに来た・よ・わよ・です!」」」」
その声は!
カラカラの喉に冷えた飲み物を流し込んだ後の潤った声色みたいに元気よく彼女達の名前を口にする。
「かえで! さみみ! たつみや! なのは!」
「お前はアタシが守ってやる。たとえ命に代えてもな!」
男気溢れる彼女名は神戸楓。
スポーツ万能でぱっくり割れたシックスパックに焼けた身体の生粋のスポーツマン。
活発で明るい性格で男女問わず人気のある生徒、彼女はわたしの幼馴染の一人だ。
「まったく、さみみがそばに居ないと、すぐピンチになっちゃうんだから!」
高校にあるまじきロリ体型、左萌さみみ。
天使のように可愛く、ちっちゃい見た目とは裏腹に面倒見の鬼と呼ばれている。
もちろん良い意味でみんなから愛されている生徒だ。
そして、わたしの幼馴染二人目だ。
「ふふふ、目の前の障害を取り除くのも、幼馴染の務め……ですものね」
大金持ちのお嬢様、垂水辰宮。
容姿端麗、文武両道な大金持ちでオマケに性格百点満点、非の打ち所がない聖人だ。
高嶺の花を通り越して、もはや神様なんじゃねと思うが、そんな彼女も幼馴染だ。
「天海をイジメるやつは滅殺です……!」
溢れる清楚は真逆の意、波風南乃花。
風紀委員所属のサイコパスでお馴染みな彼女だが、一部のファンからはゾッコンの対象として崇められている。
飽き飽きかもしれないが、わたしの幼馴染だ。
……色濃いな幼馴染!?
神様は一ヶ所に属性持ち集めすぎでしょ! 自重しな!?
まあ、でも、そのお陰で命が繋がるのだから神に感謝するよ! (上から目線)
「みんな……っありがとう!」
それからは戦争……いや、一方的な虐殺が始まった。
かえでが言う。
「暴れるなら、これからは部活の助っ人、入ってあげないぞ?」
女子生徒群から、がばっと肉つきが良い生徒達が抜けていく。
あれは……運動部の人達?
そして、わたしは閃いたように手のひらを打つ。
かえでは人数が足りない部活の試合で度々参加して、その上抜けた人以上の結果を残している、スーパー助っ人マンだ。
全ての運動部が彼女の世話になっているから頭が上がらなかったのだろう。
効果的な脅しだ……。
続いてささみが言った。
「ここで引かないなら……もう面倒見てあげないよ」
またまた、人が減っていく。
今度は不良生徒、元問題児達だ。
なるほど、とわたしは一人納得した。
面倒見の鬼の彼女は登校拒否の生徒を粛清、再教育を施したり、問題児の問題に向き合ったりと並々ならない行いをしてきた。
結果、恩義に報いようと、その場を去っていったのだろう。
良え子達やぁ〜……。
エレガントなたつみやが命じる。
「普通に友達辞めますよ、よろしくて?」
たったの一行で雷が落ちたと勘違いするほどの衝撃が走る。女子生徒群の悲鳴だ。
この学校で、もはや神様的な地位に居座っているたつみやが、こう言えば効果は絶大。
平民はただ引き下がるしかないのだ。
風前の灯と化す女子生徒群。
……ああ、恐ろしや……恐ろしや……。
たつみや様は偉大なお方よ……。
おもむろに取り出したナイフを舐めてなのはが言い放った。
「殺すぞ……?」
これには残りわずかに残った女子生徒群は脱げた靴も気にせず、泣いて逃げ出した。
コワイ……。
漏らしちゃうかと思った。
今まで人は殺してないと信じられないくらいには色々な噂が学校中で広まっている。
そんな人物に殺害予告されたら、そりゃあ逃げ出すよ!
まあ、何はともあれ……だ。
「みんなありがとう! 大好きっ!」
がばっと飛び込んでみんなに抱きついた。
感謝の気持ちを伝えようと考えた結果、これしか思いつかなかった。
もちろん、あとでお礼はするつもりだけど、今はありがとうをみんなに感じて欲しかった……本当にそれだけだったんだけど……。
「「「「…………」」」」
みんな何かに耐えるようなイラついてるような……とにかく純粋な喜びではない表情を浮かべた。
うそ、失敗しちゃった!?
でも、命の恩人相手にハグの一つもしたくなるでしょうが!
すると、おずおず離れたわたしを尻目にしながらコソコソと話し出す。
そして、何か決心めいた掛け声が聞こえるとお嬢様たつみやが一人前に進み出て、一言。
「――お泊まり会をしましょう」
「はい……?」




