洗濯物と、偽造硬貨
洗濯物を仕分けていると、ポケットから硬貨が出てきた。
よくあることだ。預かった衣類のポケットに、うっかり何かが入ったままのことは珍しくない。リアロマはそれらを小皿に取り出して、持ち主が引き取りに来た時に返すのが習慣だった。
今日は、ジャケットのポケットから銅貨が三枚。
取り出しながら、リアロマの指が止まった。
一枚、何かが違う。
見た目は同じだ。大きさも、色も、刻印も。しかし指先に、わずかな引っかかりがあった。確信ではない。ただの違和感だ。
リアロマはその一枚を指先で軽く挟み、ごく細い振動を送り込んだ。探針のように、内部へ向けて。返ってきた応答を読む。
(……密度が、違いますね)
本物の銅貨なら、銅特有の固有振動数で均一に応答が返る。しかしこの一枚は、中心部と表面で応答がずれていた。表面だけ銅で、内側に別の金属が混じっている。素材が違えば固有振動数が違う。振動は、嘘をつかない。
リアロマは三枚を小皿に並べた。本物二枚、偽物一枚。それだけ確認して、次の洗濯物に取り掛かった。
夕方、ジャケットの持ち主である港の荷運び人夫が引き取りに来た。
「あ、すみません。また入れっぱなしで」
「いえ。ただ、こちらの一枚、おかしいですよ」
リアロマが偽物の硬貨を指さした。人夫が手に取って、本物と見比べた。裏返し、爪で引っかき、二枚を重ねて大きさを確かめた。
「……同じに見えますけど」
「中が違います」
人夫がもう一度硬貨を見た。それからリアロマを見た。意味がわからない、という顔だった。
「……まあ、洗濯屋さんがそう言うなら」
半信半疑のまま、硬貨を持って帰っていった。
数日後、ゼノが店に顔を出した。
「先日の人夫の件ですが、朝市で騒ぎになりました」
「騒ぎ?」
「人夫が帰り道に馴染みの両替商に確認を頼んだそうです。両替商は最初、見た目では判断できないと言ったが、念のため王立の刻印鑑定士に回したところ、偽造と確認された。そこから話が広がって、朝市の複数の店で同じ硬貨が出ていたことがわかりました。騎士団が追っています」
「そうですか」
「それで……どうやって偽物だとわかったんですか」
ゼノがノートを開いた。リアロマは次の洗濯物を桶に浸しながら答えた。
「振動を当てた時の、返り方が違いました」
「返り方……」
「素材が均一なら、振動は均一に返ってきます。あの硬貨は、中心と表面で応答がずれていた。中身が違う素材だと、固有振動数が違いますから」
ゼノがノートに書いた。それから硬貨を一枚取り出し、指先で挟んだ。しばらく集中した顔で、何かを感じ取ろうとしていた。やがて首を振った。
「……私には、わかりません」
「慣れだと思いますよ」
「慣れで、内部構造が読めるようになるものですか」
リアロマは答えなかった。桶の中の布地を静かにほぐしながら、鼻歌を一節口ずさんだ。
ゼノはしばらくノートに書き続けてから、硬貨を置いた。
「……ポケットの確認を、毎回やっているんですか」
「異物が入ったままだと、生地を傷めることがありますので」
「洗濯の準備として」
「ええ」
ゼノがノートを閉じた。何か言いかけて、やめた。
「……報告に戻ります」
「お疲れ様です」
ゼノが出ていった。リアロマは布地を桶から引き上げ、水気を確かめた。並の仕上がりだった。




