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波魔法使いは並じゃない 〜最強魔法使いの洗濯屋スローライフ〜  作者: 藍愛某


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14/30

海底への道

 翌朝、夜明け前の港にリアロマ、カイル、ゼノの三人が集まった。


 リアロマは普段と変わらない格好だ。清潔なエプロン、青い髪。手にはいつもの洗濯カゴもなく、何も持っていない。


「本当に、濡れないのか」


 カイルが海面を見下ろしながら、一応確認する。


「ええ。ただ、少しうるさいかもしれません」


「うるさい?」


 リアロマが桟橋の先端から、海面に向けて両手をかざした。


 次の瞬間、海が、割れた。


 音というより、圧力だった。空気そのものが押される感覚に、カイルとゼノが思わず耳を塞ぐ。リアロマの手のひらから放たれた音波の圧力が、海水を左右に「押しのけ」た。音響浮揚――超音波の圧力で物体を空中に浮かせる技術を、桁違いの出力で海水そのものに適用する。波と反射波が重なって動かない「壁」を形成し、海水をその位置に固定する。


 目の前に、幅三メートルほどの、空気の通路が現れた。両側に青黒い海水の壁が垂直に立ち、海底まで真っ直ぐに続いている。壁の表面は、圧力を受けてわずかに振動し、不思議な光の縞模様が走っていた。


「…………」


 ゼノが、声を失っていた。


「水魔法の使い手でも、せいぜい水流を操るか水を盾にする程度しかできない。水を……立たせる、などという発想は……」


「立たせているんじゃないですよ。押しのけているだけです」


 リアロマがさらりと答えた。


「さあ、行きましょう。押さえているのに体力はいりませんが、何かにぶつかると崩れますので、真ん中を歩いてください」


 カイルが最初の一歩を踏み出した。海底に向かって、緩やかに傾斜した砂の道が現れている。足元は濡れていない。壁の向こうで魚の影がよぎるのが見えた。


「……歩けている。本当に歩けている」


「当たり前ですよ」


 三人は海底へと歩いていった。



 深さおよそ四十メートルの海底は、薄暗く、静かだった。


 そこにそれがあった。


 泥に半ば埋もれた、巨大な構造物。長さは五十メートルを超えているだろうか。かつては魚を模した精巧な形をしていたのかもしれないが、今は腐食と崩壊で原形をほぼ留めていない。金属の骨格がむき出しになり、内部の魔力核が今もじわりと何かを滲み出させていた。


「これは……」


 ゼノが声を震わせた。測定器の針が、最大値で張り付いたまま動かない。


「古い記録に残っていた魔導実験。……まさか本当に、ここに」


「三十年以上はここにいますね。随分と根が深い染みです」


 リアロマが残骸の前に立ち、その表面に指先をそっと触れた。崩れた金属の奥から、不規則な振動が返ってくる。


(……役目を終えて、捨てられて、ずっとここにいたんですね)


 思ったことは、声には出さなかった。


「落とせるか?」


 カイルが静かに問う。


「ええ」


 リアロマは指先を離し、振り返った。


「ただ、今日はやめておきます。この汚れは根が深いので、段取りを整えてからの方がいい。……明後日の夜明け前にやります」


「なぜ夜明け前だ」


「仕上がりを見るのに、朝の光が一番きれいだからですよ」


 カイルがかすかに笑った。


 帰り道、ゼノは海水の壁を見つめながら、小さく呟いた。


「……これを、ずっと維持しながら、喋っていたのか」


「喋るのに体力は要りませんよ」


「そういう問題ではなくて」


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