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エピローグ:悠久の待ち合わせ

 見渡す限り空色が広がる世界。


 前後左右の方向感覚も失いかねないその場所に、ガラス張りの電話ボックスがポツリと鎮座している。


 海外なんかにありそうなそれは、不気味にも漆喰色の木枠をしていた。


 中を覗き込むと同じく漆喰色の電話機はあるが、ダイヤルは見当たらない。


 ただ受話器が脇にぶら下がり、硬貨を入れる口が開いている。


(……これでいい)


 幸羽は手元に残る3枚のコインを見つめていた。


――勿体ない。

「……」


 どこからか聞こえてくる落胆したような声音に、幸羽は目元を鋭くさせる。


「見てたんだ。……性格悪いよ」

――こちらとしてはそんなつもりはなかったんだが、良かったのかい?

「……なにが?」


 白々しいどこかの誰かに、幸羽は素っ気なく返す。


――運よく繋がった想い人との時間。……その束の間を続けることはできたと思うだが?

「そうかもしれないね」

――だったら……

「だから何なのさ」

――……?


 姿が見えない相手であっても、思惑が見え透けたことに肩を竦める。


「へぇ~そんな反応するんだ。思い通りにならなかったことがそんなに不思議?」

――そうかもしれない。

「なら勉強になったんじゃないかしら」


 そういって、幸羽は手元に残る3枚のコインを掌から滑り落とす。


「ただチャンスを与えて、その結果がどうなろうが関係ない。ただ傍観してるだけじゃつまらなかったでしょ?」

――……ああ。


 漆喰色の足元にコインは吸い込まれていく。


「あんまり人間を甘く見ない事ね」


 最初から、どこか上から目線だった声の主。


 それに一矢報いた表情で、幸羽は電話ボックスの外へと出た。


――一つ訊きたい。

「……いいわよ、一つと言わずいくらでも。時間はいくらでもあるんでしょ?」


 まるで役目を終えたかのように消えていく電話ボックスを眺めつつ、幸羽は意地悪く声の主へを嘲笑う。


――どうして笑っていられる。


(……ああ、アタシ。笑ってるんだ)


 自身の無意識を指摘されるも、幸羽の感情は平静だった。


 脈打つこともなければ、体温を感じない胸もとに手をあてる。


 だけど、僅かな温もりに満たされていた。


「約束したから、またねって」

――それがいつになってもか?


 その問いに答えることなく、幸羽はどこまでも広がる空色の世界へと消えていた。

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