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予想外のあっという間の音楽クラブへの入部を果たした俺は、なぜだかその翌日から部長であるダイヤにやたらと絡まれるようになってしまった。クラスは違うがまさかの隣のクラスで休み時間には俺のクラスに堂々と入ってくるのだ。
「ディラン!今日の日替わりは唐揚げ定食だ!早く行こうぜ!」
なんでもう今日の日替わりメニューを知ってんだよ、と心の中で突っ込みつつ、俺は席を立ち廊下に出た。その際のクラスメイトたちからの視線にはなぜお前が?という心の声をひしひしと感じた。特に女子生徒たちのお前ごときがという恐らく容姿的な意味で対比し俺を蔑む感情は伝わってきた。
「あのさ、もしかして毎日こうやって俺のところに来ようとしてる?」
「正解!」
「‥‥正解って‥‥ダイヤもあの視線感じただろ?みんなは俺とお前が一緒にいるのが相当不思議なんだろう。特に女の子たちはお前が穢されるとでも思っているんじゃないか?」
俺はもうこんな状況には慣れきっているし、痛くも痒くもないが、ほんの少しだけ胸が苦しくなってしまったのは昨日彼が俺のピアノを褒めてくれた時にうれしいと感じてしまったせいに違いない。俺は自分の学園生活を完全に諦めていたと思ったが、どうやら未練があったらしいと心の中で自嘲した。
「俺は他人のことはどうでもいい。だから噂も視線も全く気にしない。ディランも自分のこと以外は考えるな。あちらはあちら。こちらはこちらだ」
廊下を歩きながらそうつぶやいた彼の方を仰ぎ見ると、彼もこちらを見て微笑んだ。俺はその時この男の罪深さを思い知ったのである。
食堂にたどり着き、日替わりの唐揚げ定食を手に彼が気に入っているという奥の壁際の隅にある日の当たらない場所にある席についた。早速出来立ての温かい唐揚げとご飯をかきこみ彼がどうしても食べたいと買ってきたシュークリームをなぜか俺も一緒に食べ、その後ゆったりとコーヒーを飲んでいた。
「あーうまかった!やっぱ唐揚げ定食は最高だな、シュークリームも数量限定だから今日は間に合ってよかった」
心から満足していることがよくわかる表情をしている彼に俺は聞きたいことは今の内に聞いておこうと思い話を切り出した。
「ダイヤは俺の噂を知っていると言ってたよな?それでも俺の入部を認めた。なんでだ?」
「だからディランのピアノが聴きたいからだ。それにディランは噂のことをずっと気にしているみたいだけど俺にはその方が気になる。なんでそんなの無視して知らん顔できないんだ?」
「はあ⁉知らん顔だと?俺はこれでも感情がある人間で噂のような化け物ではない!いろんな感情がごちゃまぜになったままずっと悩み続けているんだ‥‥」
「そうか。じゃあ今からもう悩むのはよせ。ディランはディランだ。だからまるごと全部肯定して否定するな。まあそうはいっても到底納得できないって顔してんな‥‥じゃあ俺の正直な感想でも教えようか?確か中等学舎時代に二度お前に酷いことをしたやつが酷い目に遭ったんだよな?それで学園に入ってからまたお前に酷いことをしたやつが入院。あっそ、それが何か?ってのが俺の正直な感想。俺には他人のことを無関係のやつらがとやかくいうこと自体が意味わかんねーんだよ。だから俺はディランのこと怖くも嫌だともまったく思ったことねーし。ついこの前ピアノを聴いてからは絶対友達になりてーって思ったけどな」
今こいつは俺と友達になりたいって言ったのか?まったく正気だろうか?呆れた俺はもうはっきりと自身の特異体質について話さなければならないだろうと腹をくくった。
「ダイヤ、俺は特異体質で普通ではない能力を持っているんだ。うまく説明できるか自信はないけどとりあえず聞いてほしい。自分の我慢や怒りの感情が限界に達してしまった時、俺の頭の中でエネルギーが渦を巻く。それが行き場を求めるように暴れ出すんだ。それを開放して頭の中をクリアにする方法が念じることで、俺はこれまで三度その相手が俺の前から消えるように念じた。そうすると一週間くらいで念じた通りに相手は俺の前からいなくなった。最初は偶然だと思った。だけど俺の感覚が俺の能力がそうしたと言っている。まあ、こんなことを聞かされても信じられるわけがないよな?とにかく、俺は人間だけど普通ではないってことだ。これでわかっただろう?音楽クラブには在籍するが友達なんて無理に決まってるんだよ‥‥」
「そうか。でも人間は皆普通ではないぞ。個性ってもんがあるからな。で、ディランお前、王家に目を付けられないように気をつけろよ。あそこは何代にも渡り最強の陰陽師を抱えているからな。次代のためにと目をつけられたりでもしたらいろいろとヤバいぞ。まあディランがそれを望むなら俺はこれ以上何も言わないが」
まったくもって予想外の返しに暫し言葉を失っていたが、なんとか我に返り問い返した。
「陰陽師?ってあの陰陽師のことだよな?この時代において王家お抱えの陰陽師の存在とかそれって極秘扱いなんじゃ?それにオブラートに包まず言うと呪い師だろ?どっちかっていうと悪い影響を与える存在だよな?結界もいつ頃からかなぜかよい意味で使われだしたけど実際は追い出しと閉じ込めだ。目に見えない存在にケンカを売って追い出したり閉じ込めたりするための術。だから人間相手でも目には見えない意識体に照準を合わせれば同じことが可能で‥‥ってあれ?口に出してみると俺の能力もなんか陰陽師っぽいのか?えっ⁉ちょっと待った!ヤバい、混乱してきた‥‥」
「なんだ、ディランもその方面の知識があるんだな。まあ備わっている能力というのは自分自身のために使うもんだ。だからディランもそうすればいい。で、さっき友達にはなれないって言ってたけど、俺はなりたいって思っているからお前さえ友達になることが嫌じゃなければ友達として成立する。ディランは俺と友達になるのが嫌なのか?」
「まさか!嫌なわけがないじゃないか!ってそうじゃなくて、ダイヤこそなんでその方面の知識があるんだよ!ったくミステリアスにも程があるだろ‥‥」
「いや、そっちの話はまた今度ゆっくりな。とにかくディランが嫌じゃないんだったら今から友達ってことでいいよな。あー楽しみだな!今日はあのクラッシック曲を弾いてもらえるんだろ?俺の好きな曲トップスリーに入ってる。マジでワクワクして動悸がしてきた‥‥」
「‥‥‥‥」
またなんかよくわからないうちに彼のペースに巻き込まれ、気づけば俺は第三音楽室にいた。




