第366話 「邪力がもたらすもの」(バトル)
上空からメイが改良型のカーリー・ブトゥームを放ったことをサイガが知ったのは、クザートと刃を交わすその背に熱い波動を感じたからだった。
「なんだと?あの炎の球、あれは一角楼の時の・・・」
振り向いて目視したサイガの脳裏に一角楼での光景、燃料もなく一時間以上も業火を発し続けたカーリー・ブトゥームの悪夢が甦る。
「なんだぁ、あのヤバそうな炎は?魔炎の炎か?噂通りとんでもねぇことしやがるな」
「・・・・・・」
クザートの言う『噂』がどんなものか、サイガは容易に想像がついて黙ってしまった。
◆
カーリー・ブトゥームの熱をもっとも間近で浴びるのは、その標的とされたリースだ。
炎の球の圧倒的な存在感に流れ出た冷や汗も、一瞬で乾くほどだった。
「これは凄まじい・・・威力もさることながら、崩壊させるための『点』も、その辺りの魔法や魔物とは比較にならないほど多い。ふふ・・・腕がなる」
リースの閉じた目蓋のその奥に、カーリー・ブトゥームの経穴が点となって輝く。そこを指で突くことによって、炎を霧消させることが出来るのだ。
「・・・そこ!」
突くべき箇所を見定めたリースは、火球に向かって跳躍する。
「な・・・あいつ、突っ込んできた。バカなの?」
これまでメイが対峙してきた多くの者は、炎の威力を恐れ戦き逃げるものがほとんど。例外はサイガぐらいだった。
しかし今、また一人その炎に向かってくる。その姿に、メイはいささかの恐怖すら抱いた。
「少なくとも、度胸はサイガなみってこと?」
「ひとつ!」
極限まで火球に近づいたリースの指が真っ直ぐ中央を突いた。
一瞬、陽炎のように揺らぐ。
「ふたつ、みっつ!」
中央から右上。そこから下。突かれた箇所を切っ掛けにして火球の右上の部分が崩れて消えた。
「よっつ、いつつ、むっつ!」
同じ調子でまた三点を突くと、さらに火球が崩れる。一度目の部分も作用して効果は大きい。
「ななつ、やっつ、ここのつ!」
外周に沿って三等辺の三角に突く。
「とお!」
駄目押しに再び中央を突くと、点を結ばれた火球は三等分に割れ、そこからさらに細かく別れるとついには火の粉となって消滅した。
魔炎メイ・カルナックの炎が徒手に破れたのだ。
「う・・・うそでしょ?私の炎が・・・」
手技によって炎を消滅させるリースに、メイは言葉を失う。その身体は驚きにより硬直していた。
「おい、しっかりしろメイ。相手は超将軍、本来なら私たちより格上だ。一筋縄でいかないのは当然だろう。増長するな」
気付けの一声を発したのはナルだった。
メイは考えの足らない一面がある。級友であるナルはその性格を熟知しており、動揺、落胆に陥る前にその心を引き戻したのだ。
ナルの声によって、一時的に光を失ったメイの目に光が戻った。
身を引き締め、口を結ぶと全身から激しい炎が立ち昇った。
「ありがと、ナル。そうよね、こんなことぐらいで、しょげてらんないわよね!」
「やれやれ、世話のかかるやつだ。・・・よし、やるぞメイ。あいつを倒してリンを助ける!いけるな?」
「当然!」
気合いを入れ直したメイが再び手を前にかざし、新たに火球を出現させた。
「もう一回いくわ。ナル、援護よろしく!」
「ああ、まかせろ!」
ナルも二丁拳銃形態のハチカンの銃口をリースに向ける。
「なんと・・・あれだけの炎を撃っておきながら、平然と同じ規模の火球とは・・・あの女の魔力は無限か?この手・・・持ってくれるか?」
空から狙いを定める炎と氷を見つめながら、リースは火球を退けた己の右手と指の状態を危惧する。
点を突き無効化したとはいえ、カーリー・ブトゥームの熱は神拳の身にしっかりと熱傷を負わせていたのだ。
「出来ることなら指をちぎり捨てて苦しみから解放されたい」気を緩めればそう思ってしまいそうなほど、手指は熱と痛みに冒されていた。
「今度こそ終わりよ、カーリー・ブトゥームいっけぇええええ!」
再び激しい火球が放たれた。
しかし今度は決定的に違うところがあった。ナルがいる。
ナルがハチカンから氷の銃弾を連射する。狙いはリースの急所だ。
超高密度に形成された氷は、高熱の火球を横から追い越し通過していく。
弾が急速にリースに接近する。
氷の弾丸が狙うのは急所。
リースは研ぎ澄まされた動体視力で軌道を捉え、傷ついた拳で弾く。
ナルの狙撃の腕は正確無比。それ故、リースは弾を的確に撃墜する。
「くっ、傷に響く。だが、この程度の威力なら・・・?う、腕が動かない?」
弾丸に続いて火球の迎撃に移ろうとしたところで、リースは腕の動きが鈍ったことに気づく。
目を向けると、氷が両手と地面を鎖のように繋いでいた。
「氷だと?まさかさっきの弾はこのためか?」
ナルの思惑を読みきれず、リースはその策に嵌まったのだ。
腕が固定され無防備なままリースはカーリー・ブトゥームを迎えることとなった。
しかしメイの炎の熱は強烈であり、ナルの氷をあっさりと溶かした。
「よし動く。味方で食いあったな」
属性の相性の悪さ故の失策のように思われた。
だが問題はなかった。ほんのわずか、リースの動きが遅れたことで火球は点での対応が間に合わない位置に接近していた。
「くぅっ、こ、これは・・・ダメだ・・・」
さしもの超将軍でも死を覚悟した。が、その時は訪れなかった。
熱が消えた。徐々にではなく急に。こつぜんと消えたのだ。
「な、なによあれ?笹の葉?どういうことよ!?」
メイが叫んだ。困惑と怒りが混ざった野犬の遠吠えのような声だった。
メイは決して、混乱し妄言を口走ったわけではない。実際に目にしたものを叫んで呼んでいたのだ。
カーリー・ブトゥームは気で作られた巨大な数枚の笹の葉にくるまれて密閉されていたのだ。
「「これは・・・どういうことだ!?」」
ナルとリースが同時に叫んだ。
双方知りえない、未知の事態だった。
カーリー・ブトゥームをくるんだ笹の葉の塊が徐々に小さくなる。
一回り二回りと縮んでゆき、そしてついには共に消滅した。
「ふぉふぉふぉ、相変わらず物騒じゃのぅ、魔炎よ」
聞き覚えのある枯れた声。
リースの後方から声の主が歩み出て隣に並んだ。それは邪の涙が器として飛び込んだ四凶の一人、ソウカクサタンコールだった。
「なんでよ、なんであんたが私の炎を消すのよ。邪魔するんじゃないわよ!なに考えてるの!?」
ソウカクサタンコールの裏切りの報を知らないメイは激しく怒鳴る。
しかしそんなメイを意に介することなく、老練の戦士は気を練る仕草を行い戦闘の意思を示す。
「よくわからんが、どうやらやるしかないようだな」
ナルがハチカンを構えた。メイは苦渋の表情で応じるしかなかった。
○超将軍 神拳リース・モーガン
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