第367話 「足掻く力」(ストーリー)
ルゼリオ王国中央都市グランドル。その中央にそびえ立つ城、姫宮フェンク。そしてその地下に設けられた古代文明の遺構・次元干渉装置の正面に腰を下ろし、ドクターウィルは唸り声をあげた。
「うぬぅ~・・・さっぱりわからん。起動の条件、操作方法、動力源すら見当たらんじゃないか。一体どうなっとるんじゃ」
この世界に科学を持ち込んだ異界人のドクターウィルとしては、元の世界の知識を存分に生かし基盤の隅々まで解明してやるつもりだったのだが、実際は何一つ進展しないまま時間だけが進んでいた。
「ねぇねぇ、ジイちゃんジイちゃん」
「なんじゃい人造人間、今は遊んでやる暇はないぞ」
幼く無邪気な声が背後からかけられ、ウィルは頭をかきながら振り返る。
声をかけてきたのはセイカ・ゴマの六人の子供たちの一人、犬耳のシーシンだった。
子供とはいっても実子ではなく、古代文明の遺物の人工生命体であり、主の命の危機に臓器や血液を供給するためのスペアのようなものなのだ。
子供たちはタタンギィルとの戦いの際、命を落としたセイカの体機能を補うために身を捧げた。
しかし、その意識はそれまで母として共に過ごしてきたセイカを想う気持ちによって奇跡的に残り、時間や距離の制限はあるものの、ある程度は独立した自由な行動が可能なのだ。
「ボクこれ知ってるよ『あっちこっちくん』だよ。ほら、かすれてるけど横に彫ってあるでしょ」
尻尾を振りながら指す指の先には、原型を失い飛び飛びではあるが確かに古代文字で『あっちこっちくん三号』と彫られていることが辛うじて読むことができた。
「な、なんじゃあこりゃあ。まさか、品名か?」
「そうだよ。ディメンテックって時空系に強い会社の軍事品。ボクたちを保存してたのもこの会社のだよ」
「なるほど同じ時代のモノか。そりゃ詳しいわけじゃの。ほんで、動かし方もわかるんか?」
「うん、わかるよ。『あっちこっちくん、起動ーー』」
シーシンの呼び掛けび応じ、次元干渉装置が起動の唸りをあげた。
「音声認識か。こいつぁわからんわけだ」
装置に数本の光の筋が模様のように浮かび上がる。
『ヴ・・・ヴ・・・起動完了。操作ヲ、行ッテ、クダサイ。・・・ヴ・・・ヴ』
途切れ途切れだが、装置が声を発した。先ほどと同じシステム音声だった。
「お前は主にどんな機能を有しておる?何が出来るんじゃ?」
ウィルが問う。
『・・・・・・』
しかし装置は答えない。
「やっぱり古すぎて壊れとるんかのう」
「かもね。だって三千・・・あれ?」
シーシンが言いかけたところで、装置から異音が聞こえた。
起動や処理の音ではない。乱調子の低く暴れるような音。明らかに異常だった。
『ガガ・・・ガ・・・本装置東方二オイテ、判別不能ノ、ノ、エエエ、エネルギーヲヲヲ感知、感知。キョ、強制排除ヲ実行シマス・・・』
「こ、こいつ・・・また勝手に動きおった」
「多分セーフティ機能がバグってるんだ。そのせいで怪しいのは片っ端から対処しちゃうんだよ」
「まいったのう、次は何をするつもりじゃい?しゃあない、小僧、お前のママと残りの五人の人造人間をまとめて連れてこい!」
「う、うん!」
ウィルに命じられるまま、シーシンは犬走りで遺構から上階に向かって駆け出した。
◆
中央都市グランドルの北東。
カルカリにあったクレーターが出現した地では、邪の涙の器となり、その膨大な邪力を内に収めたソウカクサタンコールがその膨大な迸りを披露していた。
身体の周りに煙や陽炎のように揺らめき、そこにあるだけで強烈な威圧感と圧迫感を伝えてくる。
「対峙して殺意を見せる。ということは敵と認識してかまわんということだな」
ナルが二丁拳銃形態ハチカンの銃口をソウカクサタンコールに向けた。
「うむ、よいのう。わしの漲る闘気を目の当たりにしても、いささかも戦意が萎えておらん。どうやら加減はいらんようじゃの」
邪の涙によって生じた闘気は黒く、その色が一層、強者感を際立たせる。
ソウカクサタンコールが胸の前で両手を向かい合わせた。
静かに気合いを込めると、掌の間に黒い気の塊が作り出された。
「そうりゃ、『綿散滋養」
黒い気の塊が上昇し弾けた。
散った気が、リース、クザート、ムクの三人と舞い降り、体内に浸透する。
「こ、これは・・・力が溢れてくる」
リースが噛み締めるように己の手を見る。
「ほっほっほ、力のお裾分けじゃ。溢れるほどある邪力、わしだけで味わうには勿体ないからの。さぁこれで逆転といこうか・・・なに!?」
余裕綽々とした振る舞いのソウカクサタンコールがリースを見た瞬間、その目にしたものに思わず動きが止まった。
リースの隣に巨大な人影が一つ。
乱れた髪で顔が隠され表情の見えないリンが、左手でリースの頭を後ろから鷲掴みにしていたのだ。
「ぐ、暴風の!まさか、立てるというのか?」
後頭部を締め付けられながら、リースが苦し紛れの疑問を口にする。
「理由はわかりませんが、近くにシャノンがいるのでしょう。急に彼女の回復魔法を封じた魔法珠が活性化しだしたんですわ」
そう言うリンの右手には乳白色の光を放つ魔法珠が握られていた。
姫宮フェンクと転送されたカルカリクレーターの距離は約三百メートル。
都市まるごとを回復・補助魔法の射程に収めるシャノンにとって、リンの魔法珠に回復魔法を充填するのは造作もないことだった。
「しかも、肉体強化の魔法まで遠隔で施してくれていましてよ。至れり尽くせりですわね」
リースの頭を掴む巨大な掌がギリギリと音を立てて締め付けてくる。
「うぐ、く・・・な、なんて握力・・・このままでは、頭を砕かれる・・・」
「純粋な闘いなら次の機会まで敗北の恥を忍んで待つつもりでしたけれど、こうも場が荒れてしまっていては話は変わりますわね。邪悪な力に溺れるというのなら、国家安寧と姫の名のもとにここで終わらせますわ!ふん!」
掌中の魔法珠を握り潰して固めた拳を、リンはリースの顔面に向けて突き出した。
「むざむざやられるものか!」
リースの右手の指がリンの巨木のような前腕に触れた。
だが、その指が点を突き技を発揮する前に、豪速の拳は顔面を捉え、その勢いで指が腕から離れた。
「ぐぁぁ・・・」
拳が鼻を潰しながら顔にめり込む。
「ぬぉおおおおお!」
ここでリンが意外な動きに出た。
突き出しめり込んだ拳を引くことなく、突きの姿勢のまま右足で一歩踏み出したのだ。
「吹ぅっ飛べぇぇぇえええええ!」
拳を顔面に突きつけたまま、腰の回転で生じた勢いを前に打ち出した。
リンの巨体という滑走路で充分に加速した勢いはそのまま顔面に届き、リースを後方へ吹き飛ばした。
打撃によってリースの脳内が乱れる。意識が保てず、思考がおぼつかなくなった。
「これはまずい・・・私も強化されていなければ、落ちていた・・・素晴らしいな、六姫聖」
痛みの中、宙を舞いつつもリースは闘いに陶酔していた。彼もまた、闘いに狂った者だった。
リースの不覚を受けてソウカクサタンコールが動いた両手に黒い気を集め、必殺の体勢には入る。
「あのジジイ、なにかやるつもりよ。リン、用心して!」
上空から友の活躍を見守っていたメイが叫んだ。
しかしその直後、予期せぬことが起こった。
地面から謎の光が発生し、ソウカクサタンコールをはじめとした邪力の施しを受けた四人を包んだのだ。
それは姫宮フェンクの地下にある次元干渉装置の仕業だった。装置が邪力の昂りを危険と判断し、排除の対応を行ったのだ。
「これは、ここに飛ばされた時と同じ現象?ということはまた・・・」
推論を言い終わる前に、ソウカクサタンコールが光に呑まれて消えた。
続いてリース、クザート、ムクが順々に次元干渉装置によって飛ばされていく。
ほんの数秒で戦いは決着を強いられ、クレーターには静寂が訪れた。
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