第360話 「生還」(ストーリー)
魔改造魔獣を徹底的に葬った後、雷神王・百逸を解除したリンはその場に腰を下ろした。
「あ、あら?やっぱり、楽しさに溺れてちょっと無茶してしまいましたわね。足に力が入りませんわ」
それもそのはずで、リンは宿場町で瀕死の重症を負わされてから、休息と言えるものをとっていなかった。
傷を癒すために安静にしてはいたものの、癒えた途端に立ち上がり、リュウカンの施術を受け調子を取り戻すとすぐさま脱出を始めたのだ。
リンの身体は本人の自覚する限界をとっくに突破していた。
その反動が、雷神王を解いたことで一気に押し寄せてきたのだ。
「おねぇちゃ~~ん!」
仰向けになるリンの傍に、崩壊寸前のジャイアントゴーレムから降りたセニアが涙声で駆け寄ってきた。
なんとかリンが身体を起こして迎える準備を見せると、セニアはその胸に飛び込む。
「すごいすごい!あんなにおっきいのを一人でやっつけちゃった!かっこよかったよ!」
「ふふ・・・ありがとう、セニアちゃん」
涙ながらに目を輝かせ、セニアは称賛の声を発する。その無垢な表情と声にリンは虜にされそうになるが、理性でそれを御して頭を撫でる。
◆
防戦によって一方的な攻撃を浴び続けたジャイアントゴーレムがその命を終えた。
片膝を着きクジャクたちを地面に下ろすと、端から徐々に土に還る。
「ありがと、ジャイアントゴーレム。頑張ったわね、ゆっくり休んでちょうだい」
消え行く従者を見上げ、労いの言葉をかけるクジャク。その目には母性が宿っている。
事の終わりは同時にやってきた。
リンが足どり覚束ないまま魔改造魔獣の死骸から地面に移動し、シュドー、クジャク、アラシロらが集まってきたところに、戦いに決着をつけ、忍法 縛遁『女郎絡め』でムクを拘束したドウマが降り立った。
「生存者はこれだけか・・・」
一同の顔を見渡してドウマが呟いた。その言葉には死者を出した己への自責の念があった。
「そのことですけど、きっと心配無用ですわ」
リンが発した一言に、全員の視線が集中する。
「どういうことだ?」
一瞬で顔色が変わったドウマが尋ねる。
「監獄の中でシャン・ガサが壊滅の光を発した瞬間、私の身はダグマが発した聖なる光で威力を半分程度に抑えてくれて直撃を免れたのですけど、その時点で全員が私の後ろという配置でしたわ」
「そういえばそうだったな、俺はあんたの巨体でほんの僅か隙ができたお陰でこの娘を連れて脱出できたんだ」
ドウマが位置関係と動きを思い出す。
「威力が半分でも、普通は死ぬだろ」という人間のための言葉は呑み込んだ。
そしてここでドウマは気づいた。ほんの僅かに生じた隙。それによって対抗策を講じたのが自分だけではないと。
「まさか・・・」
「ええ、さすがは特級冒険者にして守りの武人ですわね、あの一瞬で見事に障壁を作り上げて身を守るのを見ましたわ。恐らく無事ですわよ」
「よし、それならさっさとこの瓦礫を蹴散らしてしまおう!爆遁 爆裂究極拳!」
喜ぶドウマの忍法が炸裂し、クレーター内の瓦礫を瞬く間に外へと飛ばし散らした。
後にはカルカリ監獄最下層と同程度の大きさの八面体の気の塊だけが残った。
「あれですわ。私が見たのは!」
リンが声をあげた。
◆
カルカリ監獄長官にして特級冒険者。さらには守りの武人として名高いワーレン・エッダランドの判断は聡明だった。
魔改造魔獣のシャン・ガサの左腕が、壊滅の光を発するための予備動作に入った時点で守りの奥義を発動させた。
『気概の断界』。
外界と断絶する八角形の気の甲殻を作り出し、内外を相互に不干渉とする魔法ならば禁術に相当する大技だ。
対象の敵味方を問わないというのが最大の欠点ではあるが、これによってリン、ドウマ、セニア以外の全員が壊滅の光の被害を免れることができた。
気概の断界はそこに居合わせた全ての者にとって未知の存在であり、リンたちはクレーターの縁に身を潜ませ、遠巻きにその様子を見守る。
「お、変化が起こったぞ」
双眼鏡で観察を行っていたシュドーが最初に気付いた。全体に大小の亀裂が走った。
「気を抜くなよ。あれの中でなにが起こってるかわからない」
ドウマが警戒を促し身体の動く者は身構える。
亀裂が全体に刻まれ、小さな破片が飛ぶ。
耐久の限界を迎えつつあることは知らずとも明らかだった。
そして砕けた。
「ぶはぁっ!『断固門扉』!」
砕けると同時に真っ先にワーレンの声が響き、クレーター内部に巨大で堅牢な閉じた扉が現れた。
解放されるやいなや、新たな技を発動させたのだ。
「おおい、誰かいるんだろ!?さっきの技で俺はほとんど限界だ、加勢してくれ。この技もそう保たん!」
ワーレンが助勢を求めて声をあげる。
ドウマとジョンブルジョン、アラシロが飛び出した。
シュドーとクジャクが支援のスキルを発動させた。
断固門扉は堅牢な気の扉でその前後を遮断する技なのだが、一時的な強固さの代わりに持続時間が数十秒程度に限られる。
その数十秒を越えた瞬間に敵勢が飛び出してくることは間違いなく、対策が必要となる。
しかし、リンが雷神王・百逸で激しく消耗したように、ワーレンも気概の断界で既に限界寸前だった。
個人での対応が不可能と判断したワーレンは即座に支援を求めたのだ。
「準備はいいぞ、技を解け!」
ドウマが呼び掛けるとワーレンが断固門扉を解除した。
門が消え去った。
ドウマを始めとした一同が応戦の構えをとる。
が、予想に反して、扉の反対側だった場所に気配と気勢が感じられない。
「な、なに?なにもない・・・だと?」
最も気を張り警戒心を強めていた分、ワーレンとドウマは拍子抜けしてしまい、動きを止めた。
断固門扉が消えた後にあったのは、一つの人影だけだった。
「な、なんだあいつは・・・?」
訝しんでドウマが睨む。
人影は男だった。
薄青い道着を纏って後ろ手を組み、ただ静かにそこに立ち、目を閉じた穏やかな表情で笑んでいた。
「!まずい、こいつぁ・・・」
「くそっ、なぜ貴様が!?」
男の正体に気付いたワーレンが気の柱、大黒を出現させ、ジョンブルジョンが蛇腹剣に変形させた右手を構えた。
「遅い」
男がそう言い放った。そしてその時には、男の姿はジョンブルジョンの目前に有り、左拳は一撃で蛇腹剣の右腕を粉微塵に砕いていた。
さらに右の手刀が喉を正面から叩き、意識を失わせた。
「相変わらず乱れやすいですね、ジョンブルジョン。精進しなさい」
穏やかな忠告を薄れる意識で聞きながら、ジョンブルジョンは倒れた。
矢継ぎ早に男は動く。
大黒を握るワーレンの右に瞬時に回り込むと、左手で手を抑えて動きを封じ、右の一本拳をこめかみに打ち込んだ。
途端に意識が揺れてワーレンは両膝を着く。
「意気は良いですが、禁術級の技を使った後です。まともに身体が動かないでしょう。大人しくしていなさい」
「さて、あとは・・・」
男が周囲を見回す。
ジョンブルジョンとワーレンが落ちた。
ドウマ、アラシロ、シュドー、クジャクは事態の急変に警戒の体勢をとり動きを止める。
リュウカン、チカは気を失い倒れていた。
敵勢はといえば、クザート、ギア、セフィロッテ、チャミは男の後ろで様子を見ていた。
「クザート、ソウカクサタンコール殿を回収して飛天輪に乗せなさい。退きますよ」
「てめぇリース、なにしに来やがった?」
「解るでしょう、戦力の回収ですよ。こんな場末の戦いで貴重な方々を失うわけにはいきませんからね」
男の名はリース・モーガン。超将軍の一人で『神拳』と呼ばれる男だった。
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