第359話 「崩壊カルカリ監獄・後編」(バトル)
「やりますわよマスヨス、こいつをバラバラにしてあげましょう!」
リンが語りかけると、振り回される聖なる錨は応えるように輝く。聖なる鎖も同様だった。
「んんんんん・・・だぁっ!」
膝を曲げ力を溜めると、リンは思い切り地面を踏み蹴った。反動で上方に飛び出す。
跳躍したリンと魔改造魔獣の目の高さが合った。リンは微笑み、魔獣は怒っていた。
「監獄を破壊したのはあなたですわね。シャン・ガサの光を浴びせていただいたお礼は、しっかりいたしますわ・・・よっ!」
マスヨスが、魔改造魔獣の左半面であるキングパンサーの部分を横殴りに叩く。
衝撃により毛皮と肉が剥がれ飛んだ。
「パキィアァアァアァ!」
悲痛な叫びがあがった。
肉が飛び露となった頭蓋骨を、再びマスヨスが襲う。
振り抜いた勢いで身体を一周させたリンは、マスヨスの爪を全力で頬骨に突き立てた。岩盤を砕く掘削のような音をたてて、キングパンサーの頭骨が砕ける。
「おい、なにやってるんだ。やられっぱなしだぞ、早く再生して反撃しろ!」
ムクが激昂して指示を飛ばす。が、魔改造魔獣は苦しむばかりで再生の兆しを見せない。
「お、おいどうした!?なぜ再生しない、邪像を取り込んだんだぞ!?」
「無駄ですわ。その怪物は、今あなたが言ったように邪像を取り込んだことによって純粋な闇属性。それを邪を祓うマスヨスで傷つけたのですもの、傷口が焼かれてもはや再生は不可能ですわ。純度が災いしましたわね」
「な、なんだと・・・そんな馬鹿な・・・こいつはボクがスキルで造った最強の魔獣だぞ・・・くそっ、やっぱ他人のスキルじゃあ・・・」
叩きつけられた現実にムクが言葉を失い歯噛みする。
◆
生じた隙を見逃さぬようドウマが動いた。
セニアをクジャクに預けると、忍法 空遁『蜻蛉走り』で空中を駆けムクの背後に回り込む。
「戦ってるんだぞ、敵の動きはよく見ておくんだな」
「しまっ・・・」
体術でムクはドウマに遠く及ばない。応戦しようとするムクの手を蹴り上げると、拳の連打を胸に叩き込んだ。
「ぐはっ!く・・・まずい、近接戦用のスキルを発動させないと」
強烈な打撃は数瞬の呼吸を奪う。
ムクは一方的な攻勢ゆえに油断し、自身への防御を怠っていた。その精神性の代償が一気に降りかかってきたのだ。
「スキル発動の余裕なんてくれてやるわけないだろ!」
忍者刀の二撃が胸で交差した。だが胸当てを仕込んでおり、効果は弱い。
「準備が良いな」
「あんたの指導のお陰さ元隊長。部下だった頃に教わったことが生きているよ。げほっ」
攻撃を防いだとはいえ、そこは自称サイガのライバルの斬撃。胸当ての上から肺を圧迫されたムクはむせる。
「それじゃあ、これはどうかな!」
ドウマは口の端を上げながら、縦の平拳をムクの胸部にあてがった。
「忍法 爆遁『点極三十二連爆』!」
拳に先の一ヶ所に集中させた小規模の爆発を三十二発連続で叩き込む近接攻撃。その衝撃は胸当ての防御を呆気なく貫通した。
「まだまだこんなもんじゃ終わらせないよ。かつての仲間を侮辱するような真似をしたんだ、しっかりお仕置きしてやるよ!」
ドウマは追撃の忍法の構えをとった。
◆
ドウマとムクの戦いが行われる一方で、リンと魔改造魔獣の戦いが繰り広げられているが、その展開は一方的なものだった。
初手、リンが投じたマスヨスが魔改造魔獣の両腕を破壊したとき、既にこの流れは決定していた。
マスヨスの聖なる力によって傷口を塞がれ、再生能力を発揮できない魔物はもはや巨大な木偶でしかなかったのだ。
魔改造魔獣の足を踏み台にして懐に飛び込んだリンが顎を強烈に蹴り上げ、左右に割れた。
衝撃で右半面の『海を腐らすもの』の腐液が飛び散るが、空中で盾代わりにダグマを振り回して弾き飛ばす。
「ふぅ、大きくってなかなか殴り甲斐がありますけど、反撃が来なくては楽しめませんわね。ここは早々に決着をつけさせて貰いますわ」
禍々しい怪物を相手取りながら、己に役不足と見るやリンは決着の段取りにはいる。
懐から雷の魔法珠を取り出すと握り潰し全身に雷を漲らせる。
雷が徐々に形を築く。
それは異形の羽織だった。襟は耳の高さに達し、肩は鎧のように突き出す。裾はくるぶしまで達し千切れたように荒れている。
『戦装 雷神王・百逸』。雷の刺激によってリンの身体能力を極限まで高める現状の最強形態だ。
「あら、やっぱり一角楼の時より私の理想の形に近づいていますわ。あの頃より魔力の操作が上手くなっているのね」
新たな段階に踏み込んだ実感を得たリンが、上機嫌に身体を動かし雷神王の感覚を確かめる。
「ふむふむ・・・負荷が軽い。筋肉も柔らかく、間接の可動域を狭めない。ふふ・・・リュウカンの施術と相まって、これは私もどうなるか予想がつきません。ゾクゾクしますわね。うふ」
拳の開閉を二、三度繰返し、リンは感覚を確かめる。
監獄の中で整体を受けた直後を絶好調とリンは歓喜していたが、今はそれを遥かに上回るほどの好調ぶりだった。
膝の反動を使用せず、自然なままの姿勢でリンが飛び出した。足の裏の筋力だけで行われた跳躍だった。
「どりゃあああ!」
巨獣の咆哮のような雄叫びをあげながら、リンは頭からみぞおちに飛び込んだ。
蛮勇の巨人『ブリングロス』の山嶺のように雄大で岩盤のように硬質な肉体がリンを中心にたわみ、十メートル後退する。
「ペァッヒュボォォォォオオ」
下顎が失われた口から必死の声を出す魔改造魔獣。
八本の足が必死に抗うが、一回の踏み込みで生じた突進力がそれを上回り巨体を後方へと押し込む。
「だっしゃあああああ!」
暴風の突進力が魔改造魔獣の抵抗力を上回った。リンはブリングロスの外皮、筋肉、骨格すべての強度をたった一度の踏み込みで貫通し突き破ったのだ。
「ダグマ!」
背から飛び出たリンは、即座に後方にダグマを放ち魔改造魔獣の首に絡めると全力で引き、離れた身体を戻した。
「おらぁ!」
引き寄せる勢いを利用した膝蹴りが後頭部を叩く。肉も骨も砕けて内部が露になる。
「しゃいやぁ!」
さらに身体を横に一回転させて、回し蹴りの要領で延髄に後ろから蹴りを叩き込んだ。蹴りの分だけ首の一部が前に飛び出す。脛椎が砕かれた。
脛椎が砕かれた首の肉と皮は力と支えを失い、だらしなく垂れ下がった。
垂れた皮をリンが掴んだ。鉄の塊を何気なく握りつぶす握力は掴んだ対象を決して逃がさない。
皮を掴んだままリンは降下、着地する。
引っ張られ魔改造魔獣の巨体が後方に傾く。
魔改造魔獣の首と頭部が地面に近づいたことで、巨体の天地が入れ替わり八本足が全て浮いた。
「飛っべぇええええええ!」
リンが降下、魔改造魔獣が後転。その流れの勢いを利用して、リンは巨体を背負い投げで放り投げた。
クレーターの縁を越え、落下した巨体が地面を揺らす。
この時点で、魔獣の生命は風前の灯火となっていた。
地面に転がる魔改造魔獣。そこに跳躍してきたリンが、マスヨスに全体重をのせて降下、追撃してきた。
鈍い音、頭部が潰れた。
再びリンが跳躍。マスヨスを下方に向け、体重をのせて心臓部へ降下。
また鈍い音。心臓を破壊した。
ここで、魔改造魔獣は完全に生命活動を終了させられた。
「はぁはぁはぁ・・・っしゃあああああ!」
心臓があった場所に立ち、数度荒い呼吸をして拳を天に向かってかざし、リンが雄叫びをあげた。意思ではなく本能的な行動だった。
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