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曇天。  作者: 凪


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10月 火風 ⑤

 画像の1つをクリックすると、水着姿の少女が映し出されたのだ。その少女はどう見ても小学生である。


 幸輔の顔が、こわばる。

「なんだ、これ」


 ほかの画像を片っ端から開けてみる。

 そのファイルの画像にはすべて少女が映っていた。

 公園の砂場で遊んでいる少女、池で水浴びをしている少女、三輪車を漕いでいる少女、体操着姿の少女……どの画像も、少女の下着を狙って撮っているのはあきらかだった。幸輔の鼓動が速くなる。


 ある画像を開けた時、幸輔は息を止めた。その画像は、明らかに部屋の中で撮っている。しかも、少女は裸である。


 幸輔は生唾を飲み込んだ。

 その少女がすでに息絶えているのは、明らかだった。

 眼は見開かれ、口には布が押し込まれている。顔は涙と鼻水、よだれで汚れている。その少女の画像は、50枚ぐらいあった。なかには性器を接写しているものもある。


 幸輔は吐き気が込み上げてきたが、かろうじて堪えた。

 そのとき、階段を上がってくる足音が聞こえた。幸輔は慌てて画像を閉じた。


「デジカメ、あった?」

 正子が部屋を覗いた。


「いや、見当たらない」

 幸輔は机の上を探すふりをした。声がかすれていたので、咳払いをしてごまかす。


「そう。今はスマホを使ってるだろうから、どこかにしまっちゃったのかもね」


 呑気に答え、正子は寝室に向かった。幸輔は目を閉じ、

 ――落ち着け、落ち着け。

 と心で唱えながら深呼吸をした。


 パソコンを見たという痕跡を残しておいたら、まずい。画像を全部閉じても、不安が残る。

 机の引き出しを開けて中を見ると、文房具が乱雑に入っている。


 幸輔はわざとその引き出しを少しだけ開けておいた。引き出しを捜したけれど、何も見つからなかった、という演出をしようと考えたのである。

 マウスの位置や本やDVDの位置を確認し、電気を消して部屋を出る。


「お父さん」

 正子に声をかけられ、幸輔は飛び上がりそうになった。


「お風呂どうします?」

「あ、ああ……先に入っていいよ。俺は酔いを醒ますから」


 正子と入れ違いに寝室に入り、幸輔はベッドに腰を下ろした。


 ――これは、どういうことなのか。


 何十枚もの少女の画像。そして、死んだ少女の画像。


 ――あいつが撮ったのか? いや、まさか、そんなはずはない。おおかた、ネットで流出した画像をダウンロードしたんだろう。そうだとしても、少女の画像だぞ。しかも、死んでる少女の画像まで。そんなのに興味があるなんて、それだけでも十分おかしいじゃないか。こんなことがバレたら、あいつは昇進できなくなる。それどころか、俺の立場も危ない……。


「なんてこった」 


 幸輔は思わず両手で顔を覆った。


 ――まっすぐ育てたはずだったのに、変態になっちまうなんて。


「バカ野郎めが」

 悪態が口をついて出る。


***************


 その夜、直行は11時過ぎに帰宅した。帰るなり台所に直行し、冷蔵庫から麦茶を取り出して飲んでいる。


「おう、お帰り」


 リビングのソファに腰をかけてテレビを見ながら、幸輔は平静を装って声をかけた。本当は、テレビの内容などまったく頭に入っていない。


「友達と飲みに行ってたのか?」

「うん。急に呼びだされてさ。レッカー車で車移動されちゃったんだけど、違反金を払いたくないから、どうにかならないかって相談された」


「ああ。俺もよく頼まれるよ。息子がスピード違反で捕まったとかさ」

「ったく、便利屋のように思われちゃ迷惑なんだけどね」

「そうだな」


 幸輔はテレビを消し、「さあ、寝るか」とつぶやいた。ここまでは頭の中で何度も繰り返したシミュレーション通りである。


「ああ、そうだ」


 幸輔は、思い出したように声を上げる。


「明日のゴルフコンペにデジカメ持って行きたいんだけど、どこに置いてある? さっき部屋に入って探しても見つからなくてさ」


「部屋に入ったの?」

 直行の表情がみるみる険しくなっていく。


「すまん、引き出しの中を勝手に見ちまった」

「えっ、引き出し開けたの?」

「でも、どこにもなくてさ。お前、持ってるか?」

「ああ……持ってるけど」

 

「じゃあ、明日の朝までに出しといてくれよ」

「分かった。でもさ、これからは勝手に部屋に入るのはやめてよ」

「すまん。帰りが遅いのかと思ってさ」

「まあ、いいけど」


 これで何とか乗り切ったと、幸輔は心の中で安堵した。が、直行の横を通るとき、思わず足を止めた。


「お前、今日、酒を飲んできたんだよな」

「そうだけど?」

「その割には、全然酒くさくないな」


 幸輔の言葉に、直行はあきらかに狼狽した。


「あ、ああ、俺はちょっとしか飲んでないんだ。最初の一杯ビールを飲んだだけ。その店の酒はまずいんだよ。料理もひどくてさ」

「そうか。この間駅前にできた志乃って店は、なかなかよかったぞ」

「ふうん。今度行ってみるよ」


 幸輔の背中に、直行は「おやすみ」と声をかけた。幸輔も「おやすみ」と返す。


 ――あいつ、どこ行ってたんだ。


 幸輔は動悸が激しくなり、こめかみがジンジンと痛むのを感じた。


 ――長年のカンだ。あいつ、何かしてきたな。何かを隠してる。


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