8月 火映 ⑥
「暑い」
老婆がもう何度目か分からないその言葉を吐いたとき、
「暑い暑い言うなっ。ますます暑くなるっ」
と、近くにいた老爺が一喝した。
「だって、眠れないんだもの」
老婆は布団の上に起き上がり、うちわで扇いだ。
「扇風機だけじゃあ、何の役にも立たないわよ」
「そんなこと、分かりきってるよ。何度も頼んだのに、予算がないからってクーラーをつけてくれないんだからさ。どうしようもないんだよ」
老爺が不機嫌そうに言い返す。
ここは老人ホームを放火で焼け出された老人たちが集う廃校である。
クーラーのない教室で、老人たちが20人ほど雑魚寝をしていた。
扇風機が5台ほど首を回しながら頼りない風を送っている。ほとんどの老人が眠れず、暑さでうめきながら寝返りを打っていた。
「昼間、受付の子に夜が暑すぎて眠れないって言ったら、『戦争中もクーラーなくても眠ってたんでしょう?』だって」
「ええー、信じられない。あのメガネの男の子?」
「そうそう、あの子、いつも一言多いのよね。本人は悪気ないみたいだけど」
「そりゃあ悪気あるだろ、明らかに」
「あっ、蚊がいた」
「えー、蚊取り線香、効いてないの?」
「学校は網戸ないから、最悪だわ」
老人たちは口々に話し出す。深夜の教室に話し声が響いた。
「あれ、なんか焦げ臭くない?」
「蚊取り線香の匂いでしょ」
「蚊には効かないみたいだけど」
そのとき、開いていた窓から、何かが投げ込まれた――燃えている新聞紙である。
その新聞紙は、運悪く窓の近くで眠っていた老人のタオルケットの上に落ちた。
「あっ」
老人たちは息を呑んでタオルケットに燃え移る炎を見つめていた。
「た・大変だっ」
一人の老爺が立ち上がり、枕で炎を消そうと、叩きつけた。
眠っていた老婆が目を覚まし、自分のタオルケットが燃えているのを見て、悲鳴を上げて飛び起きた。
その叫び声で、ほかの老人たちは我に返り、
「火事っ、火事っ」
「水を誰かっ」
「係りの人を呼べっ」
と廊下に飛び出した。
すると、他の教室からも「火事だっ」「消火器、どこだっ」と飛び出してくる老人がいる。悲鳴もあちこちで上がった。
あっという間に、1階の教室は火の海となった。
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小学校に消防車が何台も到着するのを、その5人は近くのビルの屋上から見下ろしていた。
「これで何匹ぐらい害虫を退治できたかな」
「同時にやったからねえ。逃げ場がなくなって、相当な数を退治できるんじゃねえの」
「ここ、警備員も何もいないんだもん。やりたい放題だよねえ」
「ネンキンはどうする? 山分け?」
「まあ、そうなるよね」
「半端な数だったらどうしよう。11人とかさ」
「そしたら、5人で2ネンキンずつもらって、1ネンキン分は経費として使うとか」
「そうだな、それがいい」
5人はまるで花火でも見物するかのように、缶ビールを飲みながら校舎が燃える光景を見ていた。そのうちの一人は、マスクを外さないでいる。
「あっ、今外に出てきた人、倒れちゃったよ」
「おお~、これで1ネンキンかな」
「なあ、この調子で、ロージンを根絶やしにしよっか」
「そうしよう、そうしよう!」
5人は缶ビールを掲げ、カチンと鳴らして乾杯した。おいしそうにビールを飲み干すその表情は、みな晴れやかである。
やがて、一人が「代表さんに報告しないと」とスマフォを取り出し、メッセージを打ち始めた。
クジョブルー
クジョレンジャーより、久々の害虫駆除の報告。
今日は、クジョレンジャー全員が結集しました!
ホームのロージンたちが集まっている学校に、放火しました。
今、炎上中です。




